幼い記憶と変わらない村、確か名称もない小さな村。 いまだ現在進行形のその拷問行為のトドメとなりそうな百段以上ある石段の先にある神社にまで向かっている事を確認した俺は泣きそうになった。 やけに楽しそうに俺を嫐る女は、まるで外を歩く事を始めて知った子供のようにはしゃいでいた。だからこそ止めろと声をかける気になれなかったのだが、真っ青にあざ咲く俺の体はもう限界だ。今までの要領で拷問を続けられれば、死を覚悟しそうな石段の量だ。 女は一度そこで立ち止まった。どこか階段を睨みつける様子にもしかすると女の体の限界を感じて俺を掴んでいる手を離してくれるのかとも思ったがどうもそう言うそぶりは見せない。少し前までの空気との違いにちょっと戸惑うが、俺の感じた表情の変化は気のせいだったのかいままでと変わらない表情のまま観光案内をするガイドのようなそぶりを見せた。 「ここが神社だ。この村で唯一の離婚経験者の住む場所だ」 親父、すまん。 「そして中華の構えを鳥居の前でやっているのが、ここの神主だ」 が死んでくれ。 「いやつくづく変態だ。ここの神主は、なんて言うのだろういや奥方に操を立てるのはいいがその発散の方向性をつくづく間違っているな。そう思わないか変態の息子の葦船君」 そんな変態の血を引く人間として俺を見るなよ。 「ふむ。憐れだな、ここの神主はどうやら変態のようだ同情するよ。それはそうと鶴の構えに変わったようだぞ」 だがろくでもないことに変わりは無い、こういうのを小人閑居して不全なすというのだったか。まぁいいが。 「同情するな、憐れむ目で俺を見るな。しかもそんな侮蔑に満ちた目で見られてもうれしくない」 あぁ、うざったい親だ(血)祭るか。それで家族の縁も両断してやろう。 「葦船いい表情だ会って十数秒の肉親を間違いなく破壊しそうな表情はちょっと私は好ましいぞ」 聞こえていたのかと意外そうな表情をする。 …………こいつ確信犯かよ。 「まてや何かお前と言う女は、俺に対してダメージを与えると言うその一点のみであんな楽しそうに笑っていたのか。あの監獄から娑婆に出てきたみたいな開放された嬉しそうな笑みってのはそれかよ」 軽く爆弾発言をしているが、別に辛いわけでもなさそうだから俺はとやかく言うつもりはない。 「サド女お前の身の上は多少分かったが俺はそう言うのに興味ない、関係ない。それに立ちっ放しはいい加減飽きたさっさと行くぞ。思考はしすぎれば迷宮入りだ、ぱっぱと行ってさっさと蹴落とす」 聞きたくない、俺はこの女にあったことなんてこの村でさえないのだ。だが嫌でも表情に出た、その顔を見てまた女の感情は喜怒哀楽の正方面の感情で彩られるが、俺にとっては不快意外の何者でもない。 「……まじか。あと引き摺る必要はないぞ、流石にこの距離はダメージ的に起き上がれなくなるからな」 嫌そうな顔をした俺の隙をつくようにして当たり前のように俺を引っ張ろうとした女の手首をひねる。残念ながらその病気に俺が関係していようが致命傷になりかねないダメージを放置しておくほど俺は馬鹿じゃない。 「君は女の暴力を振るうような教育を受けたのか君は最低だな。この白魚の肌を見ろ真っ赤に染まっていたそうじゃないか」 失言をしてしまった、俺の言葉を手に取ると女はさも当然のようにそれを武器にして俺の手を掴もうと策略をめぐらせ始めた。 「何を言っている私の美貌はしっているだろうまったく問題ないじゃないか。百万ドルの夜景よりも美しい笑顔をプレゼントフォーユーだ」 しかしながら女は策略が浮かばなかったらしい。悉くざまぁみろ。 「いらん」 それより先に俺が百万ドルの夜景の一つの光になるだけだ。俺は首を左右にぶんぶんと振りながら女の攻撃を躱す。 「しかし私の美貌によろめかないとは君は何か男色」 休憩がてら女は口を開く、自分の顔の造形にたいした自身をお持ちのようだが残念ながら俺はお母様の教育の結果でそんなことを問題としないようにきちんとまともな教育を受けている。 「お母様曰く自分の顔の造形を自慢する奴にはろくな奴がいないってのが相場だ。無論俺だって人並みに男だ女のほうがいいに決まっているだろ、ただお前が対象外だけだ」 目の前の女は大和撫子というやつを連想したら見た目ならそれに合致するが、俺にはその目が恐ろしいただの青だったらここまで怯えやしない。 何度も言ってやるこれはしたいが腐った赤だ、血が血と混ざり合いにごった色だ。不浄を不浄で掛け合わし汚濁を汚濁で塗り固める、そんな色がこの目だ。どれだけ言いつくろってもこの女と一緒にいるのは自分がおかしい気がしてならなくなる。 あぁ、きしょくわるいきしょくわるい、 「いや存外に君は私の目が嫌いなようだそんなに私の目を凝視するな。いやもしかするとお前の右目なのかもしれないな。だがそれは仕方ない事だ、お前は器と言う意味を名前にこめられているのだだからだ葦船そんな汚濁を受け止めるのはお前の役目なんだ」 あぁ、きしょくわるいきしょくわるい、きしょくわるいきしょくわるい、 頭が痛くなる俺はただの一般人だそう簡単にこの目を受け止めきれるほど人間を辞めたつもりは一切ない。 「いい個性じゃないか腐臭が立ち込めるようで私は好きだぞ」 むかつくな。 「そーですか、俺にはお前も大して変わらんように見えるが。そんなのいいからあれ叩き落そう」 嘘だ、俺の今の言葉は後ろの分を除いてすべて嘘だ。見苦しいまでに嘘、俺とあいつが一緒冗談だあそこまで美しいが似合う奴に俺は何が出来るんだ教えて欲しいよ神様。どうにか話をそらすがそんな俺の感情を見透かすかのように分と軽く鼻で息をする。実際には笑ったのだろうがそんなこと気にしたくもない、人間の中に心の底から自分が汚らわしい存在と認めるような人間はこの世にいるわけがないそう信じたいものだ。 「ついでに死ね、くそ親父」 お前が俺に変な遺伝し加えるからこう言う目にあってるんだよこの野郎。 のぉおおおおおお、と言って階段を転がり落ちる親父。何度か階段でバウンドして何段か抜かして落ちていった。 「まさか本当にやるとは」 恐れおののく声が聞こえる、いやどこか楽しそうなぐらいだ。 「ただの太極拳だと言うのに容赦なく実の父をこの階段に叩き込むとは肉親のする行為じゃないぞ」 サドの癖にこの程度の事でいちいち顔を青と白のコントラストで彩りやがって、ざまぁみろ。俺は抑えきれず笑い出す、俺の態度をどう思ったか知らないが少しすねた表情をこの女はした。 「いや九割殺しじゃすまないレベルだと私は思うのだが」 あの程度で人間が死ぬか、いや死ぬだろうけどちゃんと受身をとっていたっぽいから問題ないだろう。 「大体自分が言ったことだろう殺人教唆の罪にお前だって取られるさ。ざまぁみろこのブルバード症候群(幸せ見つけの大馬鹿野郎)」 青い目と同じぐらいに顔を青く染める、大体途中で階段からハズレ木に直撃したから骨以外のダメージはよほどの事がなければ問題ない。 「今君が考えている事がそのまま実現するほど現代社会は甘くないはずなのだが」 凛とした声をさえぎって、野太い中年の雑音が耳に入ってくる。冷劣な思考だがダメージは殆どなかったようだ。 「やぁぱぱん、お久しぶり。きちんと宮司職の資格もって帰ってきたよ」 ボロボロの服装だが昔より多少老けた程度にしか感じない。と言うかボロボロな服装は俺の責任だしな。というより自分の事を劣性遺伝子とかいうなよ親父。 「変態宮司、やはりあなたとそこの息子は似ているな貴方に」 思いっきり殴られた、懐かしい痛みだ。俺が悪戯してばれるたびにこの拳が襲い掛かっていたな。 「父親越えまさかここまで早いとは」 一撃で父親を気絶させてしまうとは、悲しすぎる感無量だ。 「すまない私は展開が異常すぎて付いていけない」 ふんぞり返ってやった。 選択肢なしだ、俺の中ではこの目は一番のコンプレックスだ。そこを突かれて昔後一歩で警察沙汰にまでなったことがある、うんあの時は俺も子供だったから助かった。 「川坂羽間だ、私の自己紹介をどうやら耳にも入れてなかったようだな。名前の方が私の好みだと言うわけで名前で呼ぶように」 はざま、はざまっと、何度か頭の中で反復するじゃないと俺は簡単に人の名前を忘れてしまう。自分のことを馬鹿とは言いたくないがあまりいい頭ではないので結構人の名前を覚えるのは苦労するのだ。 だがやはり実家と言うのは落ち着く、今まで住んでいた家も捨てがたいがこちらの家のほうが何倍も心を落ち着かせるのだ。玄関を入ったときに感じるあの安堵感は普段気付かないが感じてしまうと癖になる。俺はその安堵感を精一杯体で感じるためにいまでうでーっとくつろいでいた。 「しかし無駄に広い家だよな。一応昔住んでたから多少記憶にあるけど、羽間の説明した部分だけでも半分満たないってのに軽く前の家の四倍はあったぞ」 羽間は俺に説明しながらお茶の準備をしていた、どこか頼りないそぶりを見せる羽間に少しばかりいやな予感がしたが手伝うと何を言われるか分かったものではない。それに今はこの畳の匂いと戯れていたい。 こくりと一口、うん普通だ俺はそのまま飲み干した。 「いや君はいくらなんでも失礼だと思わんのか」 当然だが皮肉以外の何者でもないがこの女は言葉のいい部分だけを理解して新たに文を作る才能があるようで嬉しそうに上下に頭を動かしていた。 「実際なんか薬でも盛ろうとしていたのは事実だから我慢するか」 こいつ……、俺を何かしらの方法でおちょくったりする事が楽しいだけだ。確かにそれなら輝かしい実績にもなるだろうこの俺の思考さえもな。 「いいじゃないか、少しばかり私なりのお茶目と言う奴だ。当為過去の村には毒物とかそういった類のものは致命打しか与えられないのでやめただけだ」 確かに自然の毒草とかあるだろうけどさ。どれだけ物騒な発言だよ。 「何でここにはそんな物騒なものがあるんだよ。俺にはまったく理解できないのだが」 それに何の意味があるのか俺に教えて欲しいんだが……、教えてくれるわけが無いか。いや実に最悪な女だ、本当に見た目を性格で差っ引いたらマイナスにしかならない。 「むひ〜」 そう本当に、 この時間が一生続けばいいのに、そうしたら今の発言を聞いていなかったことに出来るんだから。 「現実だぞ馬鹿息子」 復活した問題外(おやじ)の言葉が容赦なく俺を叩き潰す。はらはらと安息の時間を打ち壊す地獄の言葉に涙した。 「不服なのか、この私と言う美貌を好きにできるというのに」 でかいを通り越してとんでもないというレベルだ。 「既に役所には届けた」 なんて素敵に公文書偽造。 「お前も結婚には承諾し婚姻届を書いたと聞いたが?」 カレンダーを指差す。 「いつ」 その後に自分を指差し、なんて馬鹿なことをやってるんだと多少後悔。 「俺が」 最後に性格巨悪を指差した。だが本当にこればかりは俺の決断が入っているわけがない。 「こいつと結婚する事を承諾した!!」 だが二人は呆れた様子で、俺を見るどころかため息さえ吐くしまつだ。 「一週間前、おまえ自身が、婚姻届を書いてに決まってるだろうが」 淡々と当たり前の事実を陳べるように親父は言う、一週間前だと、ふざけるな!! そんな根も葉もない。根も葉も……? 「……一週間前だと」 嫌な事実を思い出した。友人たちと最後の別れとばかりに酒を飲み交わし、生まれて始めて意識が飛ぶほどの量の酒を摂取したのが丁度一週間前、酔っ払った俺の様子をお母様はこういっていたはずだ。素面のように見えて言う事ちゃんと聞く良い子になったようだったと。 軽く意識がとんだ。 「お母様ならあり得る。と言うかお母様だから絶対やる」 はっちゃけすぎだろう、酔っ払った息子になに教えてんだあの人は!! 「認めないぞ俺は!! なんの権限があってそいつと俺が結婚しなくちゃならない」 こいつら、阿吽の呼吸で遊んでやがる。 「どうしたダーリン、私は既にダーリンのハニーだというのに」 なれない、冷静になんてなれるか畜生。この女への怒りばかりが無理矢理膨れ上がる。神よ許されるならこいつに、偉大なる神鳴りを叩き込んでください。 「あぁ、楽しい。葦船がもだえてる」 こいつ、本当にこいつと言う奴は……、男だったら余計嫌だが、本当に………、そうだ逃げよう。 玄関を飛び出し境内に入る。よし俺は自由だ、俺は結婚相手どころか童貞でさえあるのだぞ、当然キスさえも、惚れた女に捧げると言うただそれだけの目的のために守ってきたのに、あんな奴に奪われてたまるか。 「……お!!…か……ろ!!」 親父の声が響くが俺には聞こえない、聞こえてたまるか。より速度を上げて走り出す、石段にたどり着いた時に漆黒が影が俺の懐に入った。そこには見た事がある黒髪、懐に入る寸前に見えた強気な笑み、一瞬見ほれるようなそんな表情が俺を一瞬停止させた。それと同時に衝撃、プロだろうがなんだろうが物理的に飛ばせるはずじゃない距離を俺は吹き飛んだ。 呼吸が止まる、攻撃自体はたいしたことじゃなかったが、石畳に叩きつけられた衝撃はきつかった。 「いまだ嘗てこの村で、花婿に逃げられた女がいない理由が分かるか葦船よ」 それは羽間の言葉だった。嗜虐に満ちた多分彼女が見せる中でも最も機嫌のいい表情だろう、感情の中でも最上位と言ったところか、元々好みの顔だから嫌でも動けなくなる。じりじりと近付いてくる羽間に俺は、呆然とするだけだった。 「それはな、どの世界でも共通だが、さらにつなげる事がある。この村の女は世界最強だ」 違う最狂の間違いだ。俺は絶対認めない暴力の圧政には屈しない、俺は皮肉をこめる。 「それはただの暴君って言うんだよ」 ゆっくりと、青い目が俺を貫いた。心臓が止まる、こいつは俺の弱点をついてくる。 くそ、その目、 ノイズが走るように頭に一つの思考が浮ぶ、止めろ俺はそんな人間じゃない。思考を抑える、思考を抑えろ、その感情は人間のものじゃない。その感情は、止めろ止めろ俺は人間だろうが、抑・え・ろ。 「ふん、お前を逃がすほど私は甘くないぞダーリン」 荒くなる呼吸を心臓を鷲掴みにする様にして押さえる。動悸が激しくなる、心臓を止めるようにして鷲掴みにしている存在をさらに強く締める。あいつはそんな俺の仕草を楽しそうに見て笑う。 「理由はある、理由しかないがそれでもいてもらわんと困るんだよ私は」 矮小、矮小だと、尊大で傲岸不遜極まりない癖に。 圧殺される心臓の鼓動に、思考は一つのことに指定されるような内情に吐き気を催す。 「気分の悪そうな顔だ、嫁の見た目がそれほど不服か? 人の身体的欠陥での差別は醜い限りだぞ」 耳朶を打つ声に、意識は酩酊感を感じる。 常識外の魅力を振り撒く女に覚えるのは嫌悪感だけ、目もくらむような華の前で覚える萎縮のようなものなのだろう。羽間の表情を見れば言葉だけは真摯なものだが、既に前提が利用であるあたり俺個人の魅力は致命的なのだろう落胆に涙が零れ落ちる。 なんて哀れな俺、かわいそうな俺、断じてほかの人間はかわいそうじゃない。 「暴れるな夫、お前の性格はきちんとお義母さまから聞いている」 一瞬心が冷えた。 「まて、お前まさか知っているのか」 この女、いや、ちょ、いやいやいやいや。 「どうやら事実のようだ、君みたいに性格のゆがんだ男の貞操観念じゃないぞそれは」 頬が熱くなる、もう既に真っ赤に染まっているだろう。あぁ理解している、そんなこと理解しているが、尊大な女の態度に怒りを覚えながらそれ以上の恐怖に青く染まっていく顔を俺は理解するしかない。 俺は確かに童貞だ、その上この年で女性と付き合った事さえない。 「世の中にこれほど珍しいバカがいるとは思わなかったよ」 にやりにやりと笑いやがって、 「事実だが、確かに俺はその手のことに対して厳しいが、お前はまさかそれをするつもりか」 恐ろしい事をのたまいやがった。 無駄な思考の乱立でもしなければとっくに襲っていただろう。先ほどまでとは間違いなく違う、荒くなった息といやでも感じる自分のオスの本能に、自分の正気を疑う。 「よりにもよって、ほれた女にしか体を許すつもりが無いだって。どこの現代人だ羽間」 羽間の無駄な妖艶なその姿に堪えるだけで吐き気を催しそうになる。正直何を言ったかも詳しく覚えていない。 「その江戸時代よりも果ての貞操観念と、君の始めてをうばってやる。 きちんと責任を取ってくれよ」 「女性に接吻をするのは合意を得ない限り陵辱、相手が拒絶する場合を除き責任を取って結婚する。 今の私にとっては、なんて都合のいい心情だ」 それが強制であろうと、無かろうと関係ない。それは男がする中で一番最低なことだ、それに俺の始めてはすべて、まだ会わないほれた女にすべて取っておくつもりだった。 目に涙がたまって相手の顔は見えない、だが近づいていくそのきれいな顔がぼやけたまま変わらず近づいてくる。それこそ強姦される乙女のごとき悲鳴を上げる、完全に立場が逆だ。わかっているし理解も可能だ、自分の石に涙が出る。 「なぁに、気にするな結婚すれば体もくれてやる。これは首輪だ、本当にきちんと、きっちりと人の唇を奪った責任を取れよ葦船、これはそれの前払いだ」 触れた唇の柔らかさに、一瞬気持ちいいとさえ感じてしまった。 「ふぁ、……ん、ぁ……」 その声を最後に俺の意識は消え去った。 |