幕間 疑念払拭
 

 
 

「新開が宣戦布告した」

 王卓にて、筆頭騎士である串刺し公が、殆ど強引に中心期間に殴り込みをかけたといっていい。
 実際その彼の告げた内容は彼らにとって恐ろしいものである。

「お三方の力を借りたく参上しました。私だけの力では、アイユーブは落ちてしまいます」
「理解している、すぐに用意を済ますが、力場使いでなくなった新開に貴公は負けるというのか?」

 それは当然の質問だったのだろう剣王は、力場使いではない彼の強さにそれほど代わりがないというべきかと聞いてきたのだ。
 彼は確信を持って頷き返した。

「当然です、逆に聞きますが力場使いではない新開に三王の方々は勝てると断言できますか?」

 その質問の答えは沈黙だった。負けないと思う、だが自分達が勝つビジョンが一切浮んでこないのである。魔術王は剣王とは違い、押し黙るわけではなかった一度頷くと、串刺し公を射抜くように睨んだ。
 世界最強の長たるその力を具現するような瞳に慄くが、ここで引いてしまえば王国の基盤が破滅する。現状の勇者を見て、過去の彼を思い起こせば今の方が怖いのだ、無価値の瞳ではなかった、何も感じず、何も求めない、それが魔王戦線の勇者パーティーの長 勇者新開であったのだ。それは時代が望む英雄の具現化だ、人々の希望と言う呪いを受け止めそれを実行する殺意の執行者。

「そして何より、彼は既に我らの願望器ではなくなっている」

 人々が望み人々が抹消する勇者と言う名の殺戮執行兵器、今の新開にその姿はないと串刺し公は断言する。

「つまりあの無価値が、満たされるというんだね串刺し公」
「その通りです御三方、私にはあれに勝てる自身がありません。 筆頭騎士として断言します、私は新開を殺すことは出来ないでしょう」
「賢者の精神破壊で仲間を攻撃できないはずでは?」

 魔術王の台詞に呆れたような態度を示す騎士、

「まさか自分達があいつの仲間に成ったとでも言うつもりですか? 裏切り騙し、見方につかぬすべてのものを殺しつくした我らが、あの新開の仲間と」

 その言葉に魔術王は紡ぐ事さえ忘れる。そう、忘れてはならないのだ自分達は、時代の反逆者。永劫を地獄に染める悪逆の魔人に怯えるが故にそこで、言葉に詰まるのだ。

「我らは既にあれの敵です、あいつを満たすだけの地獄が完成した。あいつは言いました、私に勇者の名前をくれてやると、その代わりに魔王を名乗ろうと。つまりはそう言うことです、我らはあのときに殺せなかった代償を払わなくては成らないのです。
 どうせ嘘でしょうが、あいつは私を勇者と任じた。あいつの狙いは私でしょう、そしてあの二人が居る。人類暴虐の頭脳と厄祭と対等の女 祭厄 あいつらの、最初にして最終の弟子が、そして敵の主格はよりにもよって最大の厄祭の一人の堕し子 狼王 、人類最悪の結晶です。もしかすると私達は、逆鱗に触れたのかもしれません、ですが既に過ぎた事」

 だがそこで空気が一度凍りつく。三王は異常なほど視線を鋭くして、串刺し公をにらみつけた。

「まて、新開の母親は最強ではないのか?」
「それは絶対にないですね、あいつらは相棒であって恋仲ではなく、敵であって味方ではありません。対等で、同等で、それでもそれ以上ではありません」

 そう彼らはようやく理解した、最初から自分達が失敗していたことを、

「予言器の入力から逝かれていただと、つまり我らは無用の悪夢をくみ上げたと。それが事実であれば冗談ではないぞ」
「だが検索大名七羽は、いやしかし確定ではないのが世の常です」

 アイユーブの崩壊は確定し、眠れる龍を起こしてしまった。それ以上に、信頼するべき仲間を裏切ってしまった彼らの後悔は凄まじい。信仰すべき最強を彼らは裏切ったのだ、その全ては世界を戻すため、ただそれだけの事だったのだ。

 だが今知っても変わらない、終りだ。
 三人は後悔に俯くが、一瞬だそれは殺すと決めた過去が押し寄せてきただけに過ぎない。魔王大戦を超えるその戦いに、彼らは眼を合わせて頷く。
 しかしながら浩二はそれでは止まらない。今の発言が事実であれば彼の今までの行為は、全て無駄になるのだ。

「王よ、その事実が本当であれば我らはなぜ」

 その表情はからは焦りと追及が、だが剣王はいたって冷静だった。

「賢者黙らせろ」
「これは当然の処置ですか」

 彼の言葉を待つつもりは無い、精神解体の糸が、浩二を貫き思考を寸断する。強制的な記憶の消去に、彼は容易く意識を飛ばした。

「だがこれは流石消しておく事実でしょう。我ら以外にこの事実を知るものは少しばかり具合が悪いですし」
「だな、奴の復活以上に具合が悪い。賢者、その事実は殺しておいて間違いはない、だがそはそれだ。新開をいやあの化け物の軍勢をどうするんだい?」
「消すしかないだろう、全力で消す以外の方法はない」

 ゆっくりと起き上がる浩二に対して、三王はゆっくりと口を開いた。
 きちんとした場所で見ていたのならそれは苦虫を噛み潰したような、表情であったのだろうが、朦朧とする浩二の前で、その土地自体の処刑宣告を行なう。

「全ての力場使いを集める、我らも出る。もしもの時は、アイユーブを物理的にすりつぶしてでも止めるしかないだろう。一時間で北海道戦線を終わらせその足で、新開を殺しに行く。サードラインとファーストラインの自由権限を与えるお前は仲間を集めろ、理解したな串刺し公」

 その発言がいやでも彼の思考を覚ました。それはつまり魔王戦線の再臨、勇者の発言がそのままの通りになったようで彼は震えた。だがもうそれは決まった事、まだふらつく思考と足腰を去勢して了解をする。

「了解はしました、ですがいくらなんでも大翼の岸を全て用意する必要はないのでは?」
「卿が言ったことだ、これより先は王の権限を使う。理解したな、所詮我らは裏切り者だ、絶望を絶望で上塗りした挙句の失態が存在したとしても仕方のないことだ。我らは時代を戻すそれだけ考えていればいい」

 今それ以外のことを気にしていられるほど、自分達は器用ではない。
 この手で作り上げた最後の妄執に、構ってやる最後の事だろう。

「これは最後の戦争だ、我らが残した最後の結末。賢者、魔術王、串刺し公、この世界の全てを終わらせるぞ、これ以上戦いたくなど俺はないのだ」

 力を貸してくれと、彼は弱弱しく頭を下げて。三人は了解の忠誠を捧げた。

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