十三章 窮鼠の叫び
 

 
 


 新開が本気を出すと、その言葉を聴いたとき三王の目は裏返ったように見えた。彼らはいやと言うほど理解している、満たされた器がどれほど悲惨な事になるのか。
 嘗ての大戦争を経験しその前線にいた彼らは知っているからだ。と言うよりも、その大戦争に関わったものが最初の勢力を作り上げた、それが最強と呼ばれた力場使い集団 個人軍隊ワンアーミーの一人であるが故に、その目的を持った化け物の力を知っているから。

 彼らと世代が違うものはいくら勇者でも、力場兵器がなければ御するのは容易いと考えているようであるが、それは否定だ。人生とは目的の連続だ、それは楽でもなんでもいい、目的を持ち行動する事はそれだけで力になる。嘗てそれだけで、世界を屈辱に彩った男もそうだった、最もあれは目的が手段であり、結果などどうでも良かった男では会ったが、誰もが目的を持って行動してこそ初めて力になる。

 それに気付いているのは、三王そして串刺し公だけ。いくら口にしても彼を甘く見る事をやめなかったもの達、仕舞いだ。

 だがそれでも硬質力場の守護を起動させ、奇襲には万端かと思われた。だがそれこそが怠慢だ、力場が完璧だなどと誰が言った。それは現状である最強の力と言うだけだ、ここでBT−EAGEについて深く語ることは無いが、万能力場と呼ばれるその能力、全ての力場兵器の基盤となった母ともいうべきシステムだ。嘗ては無視であったシステムに鳥が組み込まれた始めての代物。
 大樹の枝に過ぎないほかのシステムの始まりである。そして、その力場に使えないものが無いということは、この世に二つと無いはずの禁断の力場兵器、神職力場を使えるということである。

 それこそが人類最強の頭脳使いが、作り上げた最高傑作のひとつ。いくら最強の防御を誇る硬質力場であろうと、殺虫剤とは違うもう一つの対力場戦用力場の前では、その全てが無駄になる。

 彼が最初に狙った獲物はその盾の構築者だった、最強と信じていた盾が薄紙の様に切り落とされるのだ。驚愕が張り付いた表情を満足そうに彼は確認しながら、腕を振り下ろす、切断力場が武器ごとその体を切り払った。
 抵抗なんて無い、溶けたバターを思い起こさせるほどあっさりと人間が縦に分かれた、その匠達が打ち上げた刀よりもなお鋭い一振りは、一瞬切れたことも体が分からないほどの静寂を司り、その間臓物の異臭さえも消え去った。

 振動力場が人体そのものを液状化させ、衝撃波が人間だったその何かを辺りに撒いた。異臭と共に辺りに粘着性の酷く聞きなれない音が響く。擬似思考力場体を瞬時に二十ほど発生させ、全ての人間をなぎ払った。その衝撃でファーストラインは横転しこの世界最高の交通機関は、破綻した。

「さて、これで逃げられないわけですが。特に領空侵犯いや、残飯食い日嶺お前は特に殺しておかないと不味いです。ですからさっさとそいつを破滅させろ王崎」

 思考読解、思考定着、論理侵攻、模倣偽造祭厄

「とっくに結末付けたわ、この状況で逃げもしないで呆然と立ち尽くすなんてそれ程以外なの? まぁ当然ね、この中にあいつ以外で力場兵器の本当の使い方を知っているものはもういない」

 心臓を射抜く腕に、場は再度凍りついた。
 これほど容易く力場使いが殺されるなどと誰が考えるのだろうか。皮膚を侵食、破壊し心臓と死滅させる、びくりと一度体を震わせただけのたうつ事もなく、筆頭騎士の一人が容易く落とされた。
 だがそれですまない、死体から零れ落ちた武器を掴むとそのまま破壊した。彼らは忘れている、余りに強い力を持ったからこそのこの結末、生物としての弱さがなくなったからこそ、その弱さを奪った力に猛進するからこそ、この世に絶対と言う言葉が無いことにさえ気付けない。

 そんな思考の停止が彼らの命を奪ったのだ。ましてや、その弱さを持たずして人間として最悪になった男は、人かどうかも分からない化け物に変貌したのだ。
 その程度の覚悟も抱けない最強達が、慢心したこと自体がおかしな話、彼らはいつどこで勇者を超えたというのだ?

 闇討ちでしか倒せない存在が、それ以外の選択肢が浮ばなかったもの性質が、王のごとく道を練り歩くという事自体、新開達すれば予想外。彼らの行ったおとりだった、所詮変われるだけの生存していたもの達の本質など、拒否以外のものは無い。彼らは虫の如く、這いずればよかったのだ、そうすれば勝機さえ見えていたというのに、彼らの言葉から出る全ての事実は嘘であるというのに、それを信頼した彼らの失策だ。

 そしてもう一人、ぎがと言う悲鳴とも取れない悲鳴と共に、人間が砂の槍に貫かれそれが分かれるようにした砂の木が生える。適当に人体を侵略して言ったのだろう、体中から汚物をぶちまけて死体ができる。流体力場の使い手は、容赦なく体を破局させて死に絶えた。

「いやいや慙愧に囚われる光景だ、嘗ての仲間たちがこれほどまでに落ちぶれてるとは私は、笑いがこらえられません」

 線状力場を展開させ、敵である力場使いたちを纏めて祭り上げよと、起動させた。力場使いであればあるほど異常な光景なのだ、力場は単一機能でさえ、応用が利き殆ど万能に近い能力を発揮する。それは人間の頭脳をかいして演算され、無意識的にその力場を行使するのが通常の人間であり、有意識的に力場視の演算が可能な人間は化け物といわれる。
 魔王や新開などは、これをまともに扱えた最後の人間だ。
 元々この使用法は脳への障害を覚悟して使う代物だ、BT設定と呼ばれるものよりも人道的に問題がある代物である。彼はそんな障害を気にせずに操れる、魔王、厄祭、いやでも彼らが思い出すのはそんな悪夢。

 そしてその処理能力から積み上げられる、最悪の手の声。だがそんな電撃戦も長くは続かなかった、唯一つ不釣合いなが武器が振り下ろされた。

「そう何度も奇襲がうまくいくとでも思ったのか新開」
「いや全く、当然の話だろう。それよりもだ、この短時間に力場使いが三人も死ぬ体たらくに、私は文句を言っているんだ。犬がなぜ警戒しないか理解しがたい、それにここではそいつを狙っておしまいだ」

 ゆっくりと指を刺すのは、当然のように串刺し公である。
 だが彼の発言と同時に、力場が消えうせた。機動限界が来たのだろう、だが彼は全く落ち着いた様子だ。

「二人とも後の雑魚を殺しておけ、まあできるだけ死ぬな。あと神父、小千鳥を渡しておけ、流石に力場無しであいつに敵うかといえば疑問になるしな」
「了解だ、まぁおまえの所為で俺は、あの失敗作相手にこの俺の最高傑作を使うなんて羽目になるとはな」
「悪いと思っている、残念ながら完成品は俺獲物だ。すまんがほかの獲物で満足していてくれ、それにさして侮辱するような代物でもないあいつらに油断はなくなったぞ。これで十分手ごわい」
「当然の事じゃないの新開、失敗作とはいえあの人達の最高傑作が選んだ力場使い。油断なくして勝てるほど甘いわけが無いことぐらい理解しているわ」

 そこに居たのはまだ幼い頃の新開、彼の至上とする王にさえ見せない本性。
 王は気付いているのだろうが、彼が見せることの無い忠誠心のかけらも無い一人の人間の有様を、いや気付いているからこそ彼に背景エキストラと呼んだのだろう。彼が未だにその本性を舞台に晒すことさえなかったのだから。

 流体力場が一つの機能、流動が発動する。これは主に不定動作力場の支配を主としたもので、細かな計算が不可能な代わりに広範囲にわたって力場支配を可能とする、その中でも主となる機関が流動である。
 基本的には流れ動く力場である、単純な力場だからこそこの扱いは多様性を極めるのだ。大容量力場支配を可能とする対戦争兵器、範囲における破壊であれば振動力場の一つしたと言う力場へ力、といっても大戦争でもまともに力場兵器は使われたことは無い。

 転換期よりの魔王戦争、そしてこの戦いぐらいだ。全力場使いが、己の力を駆使して戦うのは、それがどれほどの規模になるのかは想像しがたいが、その被害を撒き散らす方法は一つしかない。だが現状でそれほどの破壊を可能とするものはごく僅かだ、それこそがBT設定、現状において魔王と勇者しか使用し得なかった設定であり、そのとき初めて世界を滅ぼすほどの異形性を秘めた力場兵器の本性が現れるのだ。

 だが壁の処理速度を圧倒的に上回るその駆動に、想定外とも思える衝撃が一度彼以外全ての人間の体を打つ。

「三年前の蓄積確認させてもらうぞ浩二」

 いつの間にか口調が主と対するものではなくなっている。
 周りの人間に彼と戦う言う選択肢は無い、力場使いとして魔王を超える彼の戦いたいわけもなく。ましてや単一力場で、あれほどの制御を簡単に行なう化け物と戦うなど正気の沙汰ではないのだ。

 そして目の前には戦うには、手ごわいにもほどのある敵だ。三王はこの二人を知っている、真に厄祭と互角に遣り合えたあの二人の後継、力場使いどころか対人間戦であれば、どんな手段をもってしても勝利を得ようとするに決まっている。
 手段を選ばない事こそが、あの大戦争の中心にいた人間の強みであり厄祭との戦いを長引かせた一つの要因だった。

「新開あくまで私なのか!! あくまで、君の標的は僕だと」
「そうだ、あの地獄を作った人間からの依頼だ。 浩二、お前は経験したはずだあの劣悪なる地獄で、そして覚悟したはずだその存在を負の極限に叩き落す事に、その常識への絶対的な殺意、そのためにここまで生かしてやったんだ。 いい加減その覚悟を、俺に見せて欲しい、なぁなぁ崩しで許されないぞ、人の命が尊いとは一切言わないが、それを見せなければお前が今まで積み上げた犠牲は一切消え去るだけだ」

 液体のように流れるという性質しか操る事が許されない流動力場、それはつまり常に動くという性質だ。
 そしてその動きは常に上から下へ、この性質ゆえ一方向と言う限定でしか使えない。しかし破壊の質量は膨大だ、レーザーのような力場が幾つも吹き飛ぶ。それは砲撃力場の分類であり、その予想外の攻撃に串刺し公は反応できずに吹き飛ばされた。

「あ……、ぎぅ、げ……ぁ」

 手加減でもしていたのだろう、致命的なダメージを及ぼす事はなかった。
 だがその衝撃は尋常ならざるものだったのだろう、途中で力場を発生させなければ地面に体を削り下ろされるところだったのだ。

「どうした? なぜそんなに無様なんだ?」

 完全な不意打ちであったが既に最初から戦闘体制のままのはずだ。だというのに彼は無様にも何の抵抗も出来ないまま彼の牽制のような攻撃に、地を舐めさせられた。
 そして流動力場の真骨頂である大量の力場使用による蹂躙。
 激しい音はしているがそこに何が起きているのか、力場使い以外には理解も出来なかっただろう。何しろここに起こる自然の動き一切合財全てが彼の支配下におかれたのだという証明なのだ。
 彼が圧縮力場を完全に駆動させても、支配権は一割程度しか奪うことは出来ない。余りに理不尽な使い手としてのレベルの差に彼は、自分の無力を痛感する。

 ただの上から下へと言う力場の汎用性は非常識だ、圧縮力場は内への力を、切断力場は一方向、その力の動きを支配するのだが、力場はその使い手によって支配領域と言うものがある。たかが一割の圧縮力場では対抗も出来ないほどの物量だ、実際彼がその気になればその一割さえも剥奪されるのだろう。

「それじゃ駄目だろう、何を今まで考えて虐殺してきたんだお前? 人類の負の極限勇者、それが結末なんだろうお前の、魔王は悪魔じゃない魔王は純然たる人の意思だ、勇者も魔王も根本は変わらない、人間が勝手に作り上げた永劫の奴隷の事だ。 そんなものになると決意したからこそ、俺はお前の勇者の字を与えてやったと言うのに、折角魔王を拝命してやったというのに、俺の見込み違いか?」

 その言葉を聴いて、驚いたのは新開と浩二以外の人間だった。
 新開が魔王を拝命した事と、浩二が勇者になったこと、つまり過去の最大の戦争魔王戦線の復活である。その牙を持つと新開に認定させた串刺し公は、今の状況では間違い無く殺される。

 だが新開はそれを許すつもりは無いのだろう、ここで簡単に死なれては魔王でさえなくなる。
 だが人の心をもてあそび遊ぶのは、彼の父親の得意技である。その父の血を受け継ぐ彼に、その程度の事が出来ないはずも無い。一瞬の思考、それは酷く粘性に溢れた哂うだった。
 ぬたりとする様に空気に張り付く表情は、酷い嫌悪感を催す。

「まさかこれを言わないと、本気を出せないのか?」

 それは酷く凶暴な感情だ、魔王の致命的な弱点はその慢心にある。だがその慢心ゆえ勇者は魔王を殺すことが可能なのであるが、今は違う。勇者が認めた勇者と、人々が認めた勇者、所詮どちらも人間のいけにえと言う点では変わらない。
 ゆっくりと近寄り、楽しそうに彼の体を踏みつける。バキバキと折れたわけでもないのに悲鳴を上げる体に、浩二は悲鳴を上げそうになるが、目の前に笑っている勇者に呼吸止めるほどの恐怖を感じた。

「難しい事じゃないだろう、ほら、覚えているだろう。お前のする事はそれと何の代わりも無い、あの水島のな」

 呼吸が抹殺される、心臓が跳ねるのは恐怖の鼓動だ。
 
「勇者であるなら思い出せ、あの絶望を輝かんばかりのお前の栄光だ。 殺すことその一点における地獄を経験したお前なら分かるだろう?」
「新開、しんかぃ」
「全時代、前世代、どちらでもいい過去の圧殺者。 過去に楔を打ったまま動けないからこそ分かるだろう」

 言わせてはならない、その言葉だけは言わせてはならない。
 そう分かっていても世界が止まったように動けない、何を今まで見てきた川から無い絶望の眼が彼を世界に楔打つ。だが聞きたくない、聞きたいわけがない

 「やめ」悲鳴を上げるように浩二は、止めようとする。だが許さない新開はそれを絶対に許さない。地面に彼は縫い付けられる、絶望が彼の言葉の全てを阻んでくる。それは、それは、酷く残酷な過去を思い起こさせる。

「しかしまぁ、今の浩二はあの時と変わっていないんじゃないか? 無力で無力すぎて、絶望に縛られたあの時と、なぁそうだろう、そうだといってくれよ。じゃないと哀れだぞ、お前が、お前が守りたくて守りたくて成らなかった」

 一度彼は言葉を止めて染み入るその時間をゆっくりと待つ、地面に縫い付けられた男は怒りの形相を変えることもないままに暴れまわろうと力場駆動を何度も行なうが無力なままだった。それどころかさらに重圧は襲い掛かる力をなお加速させるだけだ。

「お前が、喰らい、犯され、殺したあの女をただ見ていたときとなんら変わらない。 絶対に宣言してやる、力場兵器を持っていようとあの女はお前の所為で殺された、お前が殺した、時代を否定して、現実を惨殺し、最悪を作り上げた。
 違うな、全く違うお前が自分の意思を持って、あの女を殺した最後の地獄をお前は今での絶対に実現するよ。 例えばそうだ、こんな風に」

 それはタイプエッジが作り上げた具造力場である、それが彼の体を痛めつけての行為だろう、口から血が溢れて地面に零れ落ちる。

 地獄があった、そこには地獄があった、そこには地獄しかあるわけもないのだ。

 来る、来る、吐き気を催すほどの地獄が走りよる。今も見る地獄だ、走り出してきた過去に、その膨大な過去に彼は潰される。そこには具造である彼の守りたかった存在が、ましてやその姿は彼女の最後の姿、手足はない達磨のような体、尖った歪な骨が彼女の心臓を貫いている。

「この現実がお前を作り出した始まりだ。いい加減、腑抜けてもらっては困るお前のしたのは須らくこう言う事実だ。走りよってくる過去に轢殺されろ、それがいやならこの映像後と俺を破局させればいいだけだ」
「新開、新開しんかいしんかい、しんかい、貴様、それをそれをを私に見せるか!! あの地獄を、あの終りを、あの終焉を」

 何を心外だなと、彼は一度嘆息する。

「何を言っているあれは始まりだ。今のお前の始まりだ、喜べ良今のお前があるのも全てあのときのあの女の犠牲の結果だ」
「黙れ、黙れ、聞きたくない。貴様はあの光景を見ていたんだ、そして助けもしなかったんだろう」

「当然だ、

 あんな面白い見世物を見逃せというのかそんな事自体狂気の沙汰じゃないか

 楽しかったよ、一人の人間が終わっていく様は、今の現実に染められたお前の姿は、あの女の死に様も全て」

 幻像が、達磨になんて心臓を打ちぬかれた。

 ようやく、撃鉄が振り下ろされる。それは断罪の咆哮、殺して何かされないと思うほうが大間違い。
 支配の四割を強奪される、予想外とも思っていないのだろう。彼は満足そうにうなづいて、映像を抹消した。

「ほら見ろ、ようやく本気を出した。ここまでせずに、さっさとすれば良かったんだ、お前がそうなっていれば死ぬことさえなかった奴が大量にいるのに」
「殺す、新開、貴様は貴様は、その屍骸全てを陵辱しつくしてなお足りない、死ね死ね、その最後の肉のかけらまで殺しつくしても足りない」
「やれやれだ、お前が殺してきた奴にその言葉を紡げばいいだろう。殺したければ殺せばいい、今はそう言う時代だ、この世界こそが俺の始まりであり終わりでなくてはいけない、退化論者死ね、お前らの過去を俺たちの未来で滅ぼしてたまるか。勇者お前が俺の未来をその膨大な過去で圧殺するなら、俺はこの膨大な未来でお前達を轢殺するだけだ」
「所詮お前の意思は、何もないくせに! たかが一人の小娘の意志のために、あんな矮小な小娘にために、ましてあの厄祭の娘のために!!」

 力場の滝が彼を蹂躙するように放たれた。そこには手加減などあるわけもない。力場が砲撃のように放たれた、力場を圧縮させ攻撃を阻むが、その激しい振動が大地を滅ぼしてゆく。その破壊の向こうに見える劣悪は、飢えた狼の如く激情に身を染めていた。

「なるほど、なるほど、言うことに欠いて、たかが、矮小、小娘、黙れ哀れな犬だと、だからお前は誰も救えない。もういい、もういい、喋る事もないだろう、笑え、死ね、狂え、お前の現実を根こそぎ破局させる」

 静寂さえないままの轟音がさらに加速度的に暴走を開始する。
 震度八という振動が局所的に発生し、一つの都市の終焉が始まる、絶望が加速的に膨れ上がり過去を求める声が破裂する。だがこの直接のきっかけとなった人間もまたその平穏を望み、それを利用された。

 この後、最も過酷な処刑をされるこの原因である人間達は、そんな事実も知らないままに消えうせていくのだ。

 この世界に幸せもハッピーエンドもありはしない、あるのはただ終わっていくその経過とそれまでの永遠だけである。当然の話だ、誰もが笑って生きていける世界なんてものはこの世には存在しない。殺さずして生きていくことが出来ないように、死なずに生きていく権利を有さないのと同じ話である。

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