十四章 絶望会戦
 

 
 



 現状に浮ぶ全ての総戦力、この中で最も地獄を経験しているその状況で二人は、圧倒的な戦力差に体を震わせ、自分たちの弟のことを思い出した。
 これが彼らの信頼の証だと思うと、そんなもの熨斗つけて返したいと思う。が、一応の年長者二人子供の命令を聞きながらもこの状況を楽しんでいる。二つの武器の領域干渉が、絶望を累乗するような戦いの始まりを告げていた。

 と言ってもだ、完全に殺す気で掛かる力場使いの攻撃を受け止める事も、攻撃を当てる事もできない状況。殺されないように、なおかつ二人の元に増援をやる事が許されない状況だ。規格外の防御力と破壊力をもつその存在と戦う事に彼らは、既に慣れてしまっている。
 大戦争を生き延びた英雄の一人であり、最前線に存在した化け物の後継。格上と戦うのは慣れている、勝てる戦いも出来ないが負けない戦いが出来ないわけでもない。地獄から離れて、殲滅を選んだ彼らと、己の知識の集大成であるその武器を操る自分達、どちらが戦略における勝利に近いか思考するだけだ。

 そうこれが普通なら。

「何年ぶりか、これだけ絶望的な戦は」
「まだそれ程経っていないじゃない。あの化け物を最後に見たあの時以来、あの時は手出しさえ出来ずに立ち尽くした。さて今回はどうかしら?」
「そうだったよな、これだけの暴力よりもあれの方が俺達には恐ろしいと言うこの帰結、なら怯えるところも震えるところもなく、ただ攻略するその一点に思考を結べば言いだけだな」

 いつもの彼らであれば間違い無く、無謀は選ばないし、無茶はしない、生きる為に最高の行動をとるだろう。
 しかし彼らにその選択肢は既に無い、この戦争が最後に成るであろう最大の地獄、誰もが新開や浅木を恨み続けるであろうことが既に確定した終り。その終りについていくものが、この程度の苦難を受け止められなくてなんと言う。
 そこに浮ぶは艱難辛苦の城塞、その壁を打ち砕くべく二人は祝詞を唱えるように一つの言葉を紡いだ。新開であれはそれは死亡フラグとでも笑っただろうか、それはそうだろう最終戦争の彼らの憧れが紡いで消え去った限界を超えるための一つの手段、安易に手が届くがその代償は痛烈だ。だが彼や社長ならこういっただろう、それは当然の事だと、まぁそれでも我らには負けはないぞ、笑ってそういったに違いない。

 それは頭脳使いたちの最秘奥である思考制御、論理使いの終末点、旧世代が残した負にして第一世代最悪の脳害甲一種、進化第一種の中でも上位に食い込む真に異形を感じる能力を開放し、それに応じて己が武器の制限を外す。
 
 その瞬間、空気が力場支配を略奪する。これこそが力場兵器に対抗するべく作られた詐欺師最高の技術。領域操作、実装段階に到ったものは三種類しかなかったとはいえ、その一つである彼らの武器は、力場に干渉しえる力を持つことになる。
 だがこれは同時に両刃の刃に過ぎない。領域内の支配には、力場以上の計算を使用しなくてはならない、実際これのテスト段階の実験ですら十数名の死者を出していた。

 脊髄から脳に到るその過程で、熱があふれ出し心臓が否応なしに金切り声を上げる。零れる息はまるで炎のように熱い、体中が燃え盛るようなその得体も知れない灼熱感に二人は悲鳴を上げそうになる。

「自殺でもするつもりかあの二人は?」
 
 王を除く最強の筆頭騎士 即興曲はその二人の変貌振りの誰とも知れず呟いた。それが先の大戦最後の英雄の姿、負けたとはいえその凄まじき能力と意思は、彼らに及ばぬ通りはない。
 旧世代最高の技術である力場支配だが、それはあくまで限定解除されたBT設定を使用しているときに限られるそれ以外はあくまで操作なのだ。領域支配も元々は力場となんら変わらないが方向性ではなく指向性を決める。その範囲は残念ながら力場兵器には及ばない、だがその支配率であれば確実に力場兵器などに負けることはありえないのだ。

 その結晶である二つの武器、彼らが作り上げ積み上げ、押し上げた結晶。

 世界全てを騙し通すとされた詐欺師の真似事    思考構築さんじゅうごろう
 厄祭と唯一互角といわれった祭厄の模倣にて欠陥品 破壊論理けっかんろんり

 彼らの目指した結果を作り上げようとする。厄祭との最後の戦いで死んでいった二人、だが彼らにとっては唯一の憧れだ。
 普段一切使うことの無い第一世代としての能力を開放する。その能力は二人とも変わらない、当たり前だそのために彼らはあてがわれたのだ、その脳害こそ模倣。人類劣悪と人類最低が死んでもなお対抗できる存在を作り上げるために。

 劣化しているだろう詐欺師、劣化どころか届いてもいないであろう祭厄、それは当然の話だ彼らに及ぶものがあるわけが無い、所詮模倣は模倣、個人は個人に過ぎないのだ。それは英雄と言う名の暴虐者を模倣した王崎、葛街と言う個人、彼らの技術を応用し自分として使う別の人間に過ぎない。

「私が先に行く、筆頭たちは後ろに下がっていろ」

 そういって飛び出したのは乱軍王麹町らんぐんおうこうじまち、具造力場を操る男であり生贄として飛び込む事を自分で決定した男である。この二人の力を理解させる事なく死ぬ事は許されないが、ここで死ぬのはもう彼は理解している。
 勇者が来た、勇者が来たのだ、あの勇者が笑ってやってきたのだ、あいつの笑う世界にはもういたくない。それは彼に襲う過去、自殺に等しい特攻止めるまもなく敷き詰められた刃と言う名の力場だがその威力はやはり究極、自殺者が望む最強の攻撃だ。監獄にして拷問器具、普通であれば悪夢と思うような刃の牢が彼らを突き抜ける。

 しかしそれはやはり一瞬の出来事だった。

 最初は刃が消えうせた、その間隙をつくように麹町は領域に掌握される。同時に彼は自分の死を確認したのだろう、瞬時に力場兵器を三王に向けて投げ捨てる。自分がいなくなろうと、それが使えるものがいればまた王国は復活する事を彼は知っているからだ。

「二つ見せた、王よ、友よ、過去を戻せ。目の前にいる悪魔どもは過去の英霊だ、どうせ筆頭でもない翼使いでは倒せもしない。厄祭とやりあうような化け物と戦えるような性分ではないもので」

 体よりは出でる違和感に、死にたくないと言う悲鳴が溢れる。それを無理矢理押し込めて、自分の死に様を見て色と言わんばかりに敵をにらみつけた。ぶちりぶちりと肉を裂く音に悲鳴を上げる。
 救いの刃を放つ前に彼らの体から、骨が剣山の様にあふれ出した。それで絶命である、生も魂も尽き果て死をその体を持って体現するのみだ。

 次の一人は何も出来ないうちに、その兵器ごと破壊される。次の一人は体が爆発物に変換され吹き飛んだ。

 理不尽すぎる死が押し寄せてきた。仇を討とうにもそれさえ出来ない、次々と死んでいった。それは意図も容易くだ、屍が積み上げられそのことに悲鳴を上げている暇さえない。最強と言われた力場使いの集団の王国の騎士達が理不尽なまでに簡単に殺されていく。十人以上いた騎士が既に五人を数える、どういう悪夢だと失神しそうに成るのを三王は耐える。

 既に残った力場使いは三王を含めて後八人、もうおしまいと言って良いこのままあれに動かれるだけで彼らが全滅するのは明白だ。
 だがこれには致命的な弱点があることは三人は既に理解していた。この領域支配が世界に浸透しなかった理由がそこにあるからだ。使い手はただ一人だけ、詐欺師だけだったところからも見て取れる。

 いやそれ以上に彼らを見ていれば分かる、足元は既に覚束無い。視線は強暴だが空ろに見える。
 ここでようやく理解するのだ、移動力場が破壊された理由を、時間稼ぎをさせるわけには行かないから。だが理解したのなら早い、領域支配をさせないように八人は同時に力場を起動させる。
 簡単にはこれで彼らに支配させる事は無い、それを超越しようとさらに演算速度を跳ね上げる事でさらに彼らの体に深い傷が刻まれる。

 並列接続による情報量の増加と、力場支配の共有化、普段は余りしない技術であるがそれを含めさらに情報量を上げていく。だがここにいるのは模倣と同期を繰り返して人類の英雄の一人と数えられる存在、燃え焼ける体中の細胞に悲鳴が上がり、幾つ死のうと動かないわけが無いと信じて支配領域を圧倒的に狭めて貫いた。

「後六人、行けるか王崎」
「当然でしょうが、四階大事変に比べればこんな戦いなんて苦境でもなんでもない」
「これは大海蒸発事件だろう、間違えるなあんな事件たいしたことじゃない」

 本当は喋る喉の振動でさえ激痛だと言うのに、彼らは喋る事も諦める事もしない。皆殺しか全滅以外の戦いは既に存在しない、不意に振動が破裂するその瞬間回避も取れない二人は、弾き飛ばされた。
 地面にただ転がるだけで卸しにされたような痛みに叫び声を上げそうになんどもなる、だが些細な顛末だ。既に二人は歩く事さえまま成らない、その体を無理矢理起こすためにまた支配領域での変換が行なわれる。緊箍児に絞められる孫悟空の痛みだってこれほどではあるまい、足はまるで怪物のように周りの物質を組み替えた代用品。全方位に破壊領域を展開させて攻撃を跳ね除ける。

 いくら最強の力場とはいえこの前では問答を無用にして破壊されていく。そういっている間にまた一人、無残な死に方をしていく。時間を稼ぐ方法だけを考え、既に彼らの敵は戦おうとすらしない。それは容赦の無いワンサイドゲーム、だが相手は自滅するのだまともに戦うだけ馬鹿らしい。
 力場の攻撃は確かに無力化されていくが放たれるたびそれを上回る処理速度で破壊を侵攻させなくては、彼らは容易く殺される。つまりさらに異常な計算を要求されるのだ。内臓まで障害を及ぼすほどの計算速度、いつの間にか鼻血まで零れていた。もう計算どころではないこれは自滅だ、だがそれでもやめることは出来ない。敵はそれを察知してより一層の砲火を加えてくる。

 痛みが飽和し、一瞬全ての感覚が失せる。言葉は消えうせ喋る事さえ許されない、敵はもう四人ただし彼らの限界は既にそこにある。

「なぁ、この光景見たことあるよな。お師匠様が殺されて、たった一人で厄祭と楽しく遊んでいた祭厄の最終末に」
「そうね、私は足を砕かれて動けずに、あんたは師匠の泣きながらに絶望して立ちすくんでいた」

 だがあの時よりましだ。それだけ成長して近付いたと言う証明、えいえいおーと二人は呟くと熱で白く焼けた何も見えない目に敵を写す。既に眼は無いといって良いその代わりに葛街がそれに変わる映像を領域より真他の神経を改ざんして伝えるように変貌させる。もう彼らは人の形をしていない、これがこの時代の人間だ、負けないと言い張りながらそう生きていく。
 人間であるから人間らしく戦おうとするのではない、人間だから自分らしく戦おうとする。

「化け物どもめ、あれが旧世代から外れた外れたものだ。あれが新世代、我らが忌むべき存在」
「馬鹿ですか知っていますよあれが、魔人旧世代の最上位の英雄の成れの果てです」
「理解してるさ、だが理解したくない。あんなのだから厄祭と相対する事が許された、それだけの事だろう」

 罵倒のように三人はさえずる、だが聞かずにはいられない。なぜそれほどまでに勝利に固執するのかを、既に形容は化け物しかし死にかければ体を作り変え脳を組み替え生きていく、殺せる気がしないいつか自滅するだろうがそんな時期が理解できない。

「王崎、葛街、貴様らはなぜそこまで身を落として勝利を勝ち取ろうとするのだ!!」

 剣王は叫んだ、それは君が悪いからではない。怯えているからですらない。
 理解しがたいから、それが出来るほど新世代を知ろうとしないからだ。だが彼らの意識は実はそんなところには無い、戦う以上負けたくない、負けるとしても全てを尽くさず負けることが彼らは考えたくない。

「教えてやるさそんなこと」
「当然の話よそれは」

 だが教えてやるのだ、これだけは確実に、彼らであるが故にしなくては成らない事があると、

「「弟を裏切った下種共を許す肉親がいるとでも思っているのか?」」

 弟に手を出して簡単にお前らが許されるとでも思っているのか?と、旧世代の常識を持つ新世代は、消え去った目の光の紅蓮を燈した。冗談じゃない、これが自分達がここまで滅ぼされる理由だった。

「つまりこういう事ですか、我らの翼が折られる理由は、その程度の事だったと」

 だが世の中は往々にしてそんなことだらけだ。

「当然の事でしょう、まさか過去の因果が未来の自分を縛らないとでも思っていたの馬鹿ねぇ賢者。
 私と同じ名を手に入れながらそれどまりなの、冗談よして頂戴。この名はあの人より与えられた私の至宝、変態を上につけたのは弟の暴挙に過ぎない。あの馬鹿の事は許しても、お前にその名をくれてやるどおりはどこにも無いのよ、最低限ここで死なないならその名前を挙げるわ。絶対に殺してやるけどね」
「生きてもいないくせに、生者面をするんじゃない!!」
「だからどうしたの売女、処女面をして男に穴でも開いてればいいじゃない。私の名前を奪ってまでそう名乗るのなら私に開いてもらえると大歓迎なんだけど」

 ここで間で平然と喋る事のできる賢者の姿に葛街は、世界最悪の人間の片割れを思い出した。
 彼女は確実に近付いている、あの憧れに、そして誰よりも憧れより遠くに走り出している。同じ道は歩けない、それは模倣と言う障害の延長として理解している。だが一度息を吐くと世界を拭う、それだけで世界は明るく写った。

 だから言うのだ彼の弟は、世界は素晴らしいものになると、厄祭は言うのだこの世界ほど素晴らしいものはないと。

 ここで彼は一度とまり思考する、そして歩き出したとき全てが変わった。死ぬのだ自分はもう確実に、命が止まる事は決定している。確定しているのに、なんてもったいない事をしたと、けれどこの明るい世界に気付いただけでも感謝するべきなのだろう。

「なぁ、一つ面白い言葉を思い出した。これはあの人が言ったんだよな、世界で遊べと、あの厄祭が言ったんだよな。今理解した、なぜあんな事を言ったのか」
「まあ、最悪で最悪な最高の場面で、最低最悪を思い出すなんて趣味がいいじゃない。 それには全面的に同意だけど、私達二人の寿命もそろそろ終り最後ぐらいもっとましな人間を出しなさいよね」
「悪いな、だが今俺達が死ぬのに、満足していったあの人たちを出すのは無粋だろう」

 そうね、同意を見せると同時に腕を振り下ろす。
 限界に近い脳の計算範囲を無理矢理に広げるために、二人はさらに脳の改造を行ない力を放つ。
 破壊の槍が地面を粒子に変えながら敵をめがけて打ち抜くが、四人は軽くその攻撃をそらし力場支配の強固にして行く。時間制限はもう切れるまでそう遅くは無いだろう、そんな中に四つの砲撃が打ち込まれ二人の体を抉り落とす。魔術王の攻撃だ、筆頭騎士を超える転換期最強の力場使いの集団の個人軍隊の一人がここになって本領を発揮する。

「黙れ、所詮新開の金魚のフンだろう。 所詮負け犬の有様に過ぎないとなぜ理解できない、あれは既に英雄ですらないと言うのに」

 砲撃力場その特性は横の移動だ、対立する力場を切断とする。物体の射出ではなく、横の動きを支配する事を可能としたその力場は、破壊力で言うのなら全能や浸食を外した力場の振動の次である第二位、領域特性が極めて高くそれゆえに破壊領域を貫き生きた屍を抉りつけた。
 しかしその元の威力は、地球に一生刻み付けるほどの威力であったであろう力場。地面ではない地表を剥ぎ取るほどのその一撃のはずだった。

 一瞬にして破壊の力を見せつけらはした物の先ほどの一撃は彼らの体を十二分に破壊するに値した。

 その音は倒れて摺る音ではない、肉を摺りつけたような音だった。鉄と肉が混じりそこにアスファルトの悲鳴が上がる、彼らを抉りつけたのは足に心臓、首に、腹、ころりと転がった頭に、彼らが滅ぼした地面が逆襲のように石で彼らの頭を痛めつける。

「これが顛末だぞ、英雄達の顛末だ」

 しかしそれで勝利とならないことは彼らも理解している。それは既にパニックホラーの領域だった、創造領域は彼らの死を死と認めさせない。既に人の生体構造をしていない彼らが死ぬには、彼らを動かす脳と言う名の機能を抹消しつくす必要がある。だが彼らの脳は既に半分以上が死滅していると言っていいのかもしれない、だがそれでもまだ生きている。
 それこそが彼らが作り上げた技術の制限解除部分だ。脳が生きている限り代替計算機が、彼らの頭を補助する、しかしそれにも当然限界がある。それが消え去るとき彼らは死ぬ。破滅の道だけが開かれた中、吹き飛ばされた心臓を別の機器で代用し、ちぎれて地面に打ち付けられた頭を強制的に元に戻した。

「これで顛末とは片腹痛いぞ。まだ終末にさえつけぬほど遅い」
「黙れこの異形、お前らの前では力場兵器でさえ対抗できないらしいが、お前らはどうせ死ぬ」
「それがどうした、死ぬ事さえ自分で決めるのよ私達は、今を生きることが出来ない貴方達が私の生を勝手に汚さないでくれる?」

 それは人の姿と言うには侮辱的だ。
 首は既に金属や土、死んだ力場使いで代用される。生態部品に、それ以外の部品で彼らは構成される、それはもはや生きているとはいえないのかもしれない。焼け死んだ目に、壊れた思考、しかしその自分達の姿を醜いと彼らは思わない。

 それがこの世界の常識だからだ。

 どんな事をして生き延びようと許される、自分が大切だからこそ自分のために動く、猿である人間が集団から個に変貌し、美徳と言う美徳が全て破滅したその状況。彼らの王国の王が言った。王は言ったのだ。

 孤狼の群れが行くと、あくまで自分は個人だと言い切ったのだ。あくまで個人だと、それこそがこの世界の顛末で結末で終末、その悪夢のような表現がここにある。一瞬にして彼らの体を苛む、だが彼らはもう忘れた。忘れ果てた、それはただの妄執だと打ち切る。

 彼にとって、彼らが抱える過去は一つでいい、たった一つでいい。それ以外は全て未来に託せばいい。

「と言ってもこれで俺もお前も終りだな、動けない。もう俺の領域もお前を生かすことは出来ないぞ」
「理解してるわ、殺して構わないわよ。どうせ模造品はもう壊れたし」
「冗談だろう相棒、それは俺の知るところじゃない。まだやる事はあるんだから死んでもらっては困るぞ、最後の抵抗をするんだろう足元の武器を使え」

 殺した死体だけじゃない彼が集めたものは、ありとあらゆるもので彼は体を作り変えて動いてきた。その一つだ、敵が持っていたその武器の名前がある。白鳥と呼ばれる第八力場兵器 固定 、類似力場に圧縮があるがそれとは違い停止を決定させる。
 だがここでの使い方はそんなものではない、その武器を確認した王崎はここで一層凶暴な表情を見せるように、変容した腕を伸ばす。瞬時に葛街の志向を理解したのであろう、視線を合わせるまでもなく彼女は自分の死に様を理解した。

 一種の火花、赤熱するほどに圧倒的な回路暴走。停止は一瞬、彼女を中心に渦を描くように力場の暴虐が始まる。

 否、そこに一つの力が蠢くのだ。それが彼の相棒の最後の仕掛け、暴走と言うなの決定ではなく地獄の咆哮、押し寄せる暗黒に葛街は感じながら最後の仕掛けをくみ上げた。力場は所詮彼にとっては技術の一つ、暴走とは言えど支配できなければあの戦争には生き残れないと確信している。
 暴走する領域が臨界に達するその一瞬、その最後の力場に指向性を与えた。世界を滅ぼした一つの破壊、その力を絞り狙いを定めた。

 その瞬間彼らは動かざる終えなかった。破壊の最強 振動力場 それが幾層にも壁を張り威力を阻む。それは硝子を張るよりも意味の無いものだったのかもしれないが、砲撃力場がその破壊力を切り刻み、剣王がその外圧縮力場を起動させその力を貶める。

 オリジナルの力場兵器の暴走はこれが始めてだ。その威力は想像を絶する、それだけの破壊を切り刻んで抹消してもそれでも微々たる力に過ぎぬとその破壊は言い連ねていた。その瞬間、死を理解した一人がようやく動く、不可視の糸が一人の頭に突き刺さった。

「二人とも後ろに下がりなさい、ここでは私達の生きる可能性はこうしかありません」

 それは破壊が思いのほか遅かったからこそだ、それが唯一の救い。しかしそれから逃げられるほどではない、ハッキングは容易かった。幾つにも打ち込んだ洗脳がそれを容易くしたのだ。

「お願いします筆頭、私達王を生かしなさい」

 それは優しそうな声色から出てきた自殺命令に過ぎない。
 彼はうつろな表情で頷く、ゆっくりと歩むその歩みは殉教者のようだ。それはもう一つの力場暴走、破壊に体を削られながら内部で崩壊を起こす、それにより力場の殺傷力を消し去る、それだけの行動だ。

 その破壊は、肉体を消し飛ばす。破壊に渦巻く地獄で、筆頭騎士であった即興曲は目的を果たすまで死ぬ事さえ許されなかった。

 悲鳴を上げるように体は死滅していった。破壊は確かに収まった。破壊の渦は地獄のように周り火の咆哮をあげる、その咆哮がもう一つの破壊で完全に中和されるわけが無い。二つの巻き上げた破壊が、視界を消し去り地形を吹き飛ばす。
 それでも、確かに破壊力は過半数が消え去ったと言っていいのだろう。三王は確かに生きていた、力場使いを15人を消し去ったが生きてはいた。

「宣誓道理ね、最後の最後まで他人の犠牲の上に立つ気でいたあんたじゃ賢者には程遠い。 返してもらうわよ、私の名前」

 ただ一人を除き。そしてまた敵も喉を食い破り心臓を破壊し、鮮烈なる表情を刻みながら王崎は、最後の力を殺傷に変えて生き延びた。
 異形の体に勝利を喜び、自分の終末を彼女は感じていた。

「ねぇ、私はもう死ぬけど、私達の終りはまだよ。私の弟が要る限り、あの子みとめた王様がいる限りそれは変わらない。私達は梅雨払いで十二分、これから逃げるのは許されない」
「理解している、もう我らの望みは消え去れるだけだろうが、それを許しては今まで積み上げてきた我らの全てが終わる」

 あぁほんとうにそれで終りだ。

「じゃあ決着は見れないけれど、健闘を祈るわ。だって私達、所詮同じ穴の狢でしょう。自分のためだけに世界を変えるなんて、どちらが魔王なのかしら」
「知らん、だが負けるわけには行かないのだ我らは、お前らと同じであろうと絶望は、希望の前には無力であろう事を証明しなくてはならない」
「それでこそ剣王、あの時代で死ねなかった屍の一人。魔術王もそう、貴方は死ねなかっただけ、厄祭から逃げて、その現実から逃げられずに昔を巻き戻そうとしているだけ。理解しておきなさい、私達は始まり貴方達は終わりと言うことだけを、どう足掻いてもあの時代には戻らない、逃げる暇があったら戦いなさい」

 それは彼らも知っている、今の自分の行動が無駄な事ぐらい。

「だがそれでも今よりはましになるだろう。俺はそう確信している、お前が否定できるかそれを!!」
「出来ないわね、きっとそれは間違ってもいない。ただ私達がそれを許さないだけで、きっと間違ってなんかいないのでしょうね。 なら一層の覚悟をしなさいよ、これから貴方達が超えるそれを、いまだに個人軍隊にいながらBT設定にさえ到る事の出来ない、あなた達が戦う相手を」

 彼女は王を思い出す。その存在こそが唯一無二、勇者の空虚を満たすほどの膨大な存在を、まだこの理解さえ出来ない世界に唯一にして一人の人間の事を、自分達がこうべをたれる存在に。

「どうせあの子と、王がいれば……、いえ止めておきましょうか。どうせ見ることになるのだから、本当の意味の絶対と言うものが何か」

 その言葉を最後まで紡ぐ事は彼女はしなかった。近くに来るだけで分かる証明があるから、体中に震えを来たすほどの存在。彼女達が認めた最強、その声は天から降り落ちた。

「ほぅ、王崎貴様は負けたのか」

 君臨していた。そう言うほかを思考させないそれがいる、紅化粧のように与えられた紅を纏い小柄なその体に似合わぬ存在感に震えさえ与える最強が、長い髪を風に靡かせ死の匂いを放つ。その存在の歳を聞いてまさかと思うような風格に、白銀の牙が煌いていた。

「冗談でしょう主殿、絶望に身をゆだねる敵と目的の全てを果たした私、どちらが敗者というのですか?」
「ふむ、ではそこにいる負け犬をなぜ殺さない?」
「王、貴方に対する献上品と言うことが理解できませんか。筆頭騎士では食い足りないのでしょう、違うとは言わせませんよ」

 首を満足そうに上下する。目の前にいるのは王ばかりだ、極上の獲物の前に舌なめずりにも似た凶暴な笑みを作り狼の牙をちらつかせる。

「そうか、なら望みを言え。我らは褒美を取らせなくては成るまい、お前が我を主と言うのなら」
「では、止めをお願いします。ただ死ぬなんて私には似合いませんから」
「確かにそうである。お前はただ死ぬなんてことが合っては困る、葛街もそうやって死んだのだろう?」
「ええ、誰もがなしえなかったはずの力場崩壊を操って見せました。研究者としての生涯に、残したものはたくさん会ったのではないでしょうか?」

 後悔だけを考えて生きていけるほど彼らは強くない。
 それは王が好む人間であり、死にさえ満足を得ようとする彼らには素晴らしい生き様ではなかったのかと。

「ならいい、我があやつの人生を問う事はできもしない。では死ね、また何時かの現に会うことが出来れば僥倖である」
「えぇ、今度は奈落にて無間地獄ごとねじ伏せて見せましょう」

 それは未来と過去を一筋の光にて両断せしめる罪業、それは心臓の代用機関を食い破りそこから縦に脳を断ち切った。血と思しきそれは流れる事さえせず、それが人を越えたことの代償のようにも思える。

「では、お前らだ。お前以外に居ないな、我こそが狼王だ剣王、偽言人材派遣会社社長 狼王朝木だ」

 仲間に平然と止めを刺すその姿に、彼らは何を形容したものなのだろうか?
 不快感を隠すこともなく幼き王を眼前に捕らえる。 勇者を飲み込んだ本当の劣悪の姿、溌剌なその表情さえ隠してみればこの時代に生まれるべきその人間の有様とは程遠い。

「私達こそが王国の王の一人 剣王 だ。隣に居るものを魔術王と言う、そこの屍を賢者……、いや古都葉嵯ヶ守だ。これをそろえて嘗ての勇者パーティーと呼ぶ」

 だが一つ、鼻で笑うような声がした。

「何を言っているのだお前は? お前は既に一人だろう、葛街がただで死ぬはずが無いだろう。きちんと置き土産を置いている」

 心臓を喰い潰す痛みが剣王を刺す。
 目の前は真っ白になり、喰われた筈の心臓が金鳴り立てて、今目の前にいる現実を飲み込もうとする。

「甘く見すぎていたところだ。貴公の狼共は、死んでもなお喉元を喰らう獣ばかりであった、古来より大神おおかみと言うのはそう言うものであったものを、我は忘れていたと言う事か」
「愚かな配下や仲間が死んでなぜ激昂しない、内にあるのは怒りを制御しようとする浅ましき心根こころねのみか?」

 できるだけ冷静に物事を対処しようとする彼の姿を狼は鼻で同情する。

「感情を制御する必要は無い、そのうちにある感情は人間であるのなら間違い無く正しい。それは転換期であろうとなんであろうと間違い無くだと言うのに、制御なぞ浅はか過ぎる」
「厄祭め、貴様はその感情を操り侮辱し、笑い、媚び、諂い、泣き、喚き、慕い、望み、集い、人間における絶対的感情部分を操りつくし人を貶めつくすその血脈が何を言う!!」
「血脈は人格に影響などしない。環境が人を変えるだけだ、我にその技量は無い。お前の父親が大量虐殺者であるから、お前が大量虐殺者になったわけでもないだろう」

 それはお仕舞いの言葉だ、常識の違うもの達が己の論理をぶつけ合っても同調があるはずも無い、破壊の音の音が世界に蠢く全ての限定稼動力場を圧縮する。その力を両断するべく、天才の最終傑作 殺虫剤 が、その大気を引き裂き力場を抉る。
 
「まぁいい、我の下僕に負けた軍の王よ。遊んでやる尻尾を振って歩み寄れ」
「黙れ、愉快痛快に皆殺しに貴様をしてやるだけだ。ゴキブリの様に怯え死ね」

 それが王国最後の戦いであり、この世界における最悪の凶事の始まりでもある。これより先、地獄であった場所が本当の意味で地獄に変わる。
 岡山経済戦争その戦略的な勝利は既に偽言の名に掌握されている。これから始まるのは掃討戦、しかしこれこそがこの事件の本格的な始まりを意味していた。

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