二十章 開閉戦争
 

 天門、それ自体はどうでも良い話だ。厄祭の復活もたいしたことではない、それから来る被害の事が問題なのだ。
 あの日、狼が死んだ日、新開は変わってしまった。それは本質的な意味で、彼は狼に価値を与えられた、その瞬間彼は勇者から人間に戻ってしまった。彼が生まれて以来十数年、その蓄積された人間としての部分が悲惨に現れる。

 彼は自分が、今まで結果的にとは言え人間で会った部分を、喜怒哀楽の感情全てを押しとどめていた。
 それが今全て吐き出されている、それでも狼の言葉が彼を最低限狂気でとどめているのだ。問題はそこからだ、彼が正気こそが問題なのだ。祭厄の息子が、厄祭の娘同様まともであるはずが無い。

 それはまさに厄祭に会う前の祭厄のようだ、自分を押しとどめて結果人間と擬態していた。祭厄の息子が厄祭に出会う、それは全てを逆転させるといわせた男に出会うのだ、狂っている男裏返ればそれは正気になるのは当然である。ここで問題なのはその戻ったときの話である、狼が死んで二ヶ月の間での話しだ。新開は間違い無く本性のままに荒れ狂った。

 北海道戦線、そして出雲宮、その二つの末路は悲惨の極まりないものだ。
 出雲宮に関してはそれほどではなかった、だが北海道戦線は違う。新開は力場兵器を振るってなどいない、どういうことが起こったかさえ誰も理解できないままに、同士討ちを始めたのだ両軍が、それは知らないものもいるだろう。厄祭と祭厄が振るいし最悪の秘奥、転換期の再来とまで思わせるほど効率的に彼は動かしてしまったのだ。

 これは本当に厄祭と世界の大戦争を髣髴させてしまう。

 剣王はその事実を認めた。新開の本性こそが、狼の願望をねじ伏せる凶器だと、空っぽの器を埋めた狼の価値、その価値を全て湧き出す器を流すために。そして厄祭と彼が敵対する確信を刻んだ、そしてそれからだ彼が天門を開く事を決めたのは。だが誤算もあった当然だ、厄祭と新開の戦争における被害、それを許さなかったが為に彼の仲間は減ってしまった。

 しかし彼もこれ以外になかったのだ、厄祭と同じく劣悪の狼の申し子を殺す方法は、そしてなにより狼のその支配を破壊する方法は、その二つを同時になさなくてはならない方法が。
 だからこそ春義は彼を裏切った、裏切らざるをおえなかった。この世界のためではなく狼との戦争を優先した剣王を春義は許せず、そして厄祭と同格であろう最後の祭りをこの世界に産み落とさないためにも。

 そして二人の王は今眼前に向かい合っている。周りの怒号が耳朶打つ中を、その引き裂かれんばかりの地獄の血溜まりの中で、二人して赤く顔を濡らし武器を突きつけあっていた。

 開閉戦争とよばるその戦争の末に、そしてこの最前線の中で、狼を二人して食い破るために眼前の存在に笑顔を振りまく。

「久しぶりだ」
「まったくだ出会って恐悦至極、さっさと血祭りに上げられて生き死ね」
「断る、貴様こそ死ね。それで世界は万事回る」

 冗談じゃない彼は首を横に振って、銃を放つ。

「断る、俺はこの戦争に全てを託した。仲間全てを信じてだ、お前にそんな仲間がいるのか楽しみだ」

 共に凄惨たる王者の面構え、視界にはすでに仲間など見えていない。俺の敵以外の代物はもう彼らには無い、地面を抉り殺しながら血祭りに舞う。力場兵器なんて起動する事すらしない、だがそれでも両者の戦いは誰にも侵攻し得ない。二人は確実に武器を持っている、己が得意とするその距離における戦いを可能とする武器を。
 真っ赤に染まる視界の彼岸花のような手折れやすい世界の均衡を保ってきた二人が滅ぼしあう。

 そこには聞こえもしない、狼の遠吠えが響いていた。 

***

 正直な話戦争とはもうそれは言いがたいものだった。始まると同時に、遮二無二になった兵達が勝手気ままに攻撃を始めた。
 新開にしても、剣王にしても、いった言葉は突撃だけだ。それと同時に一番最初に自分から戦場に躍り出た。総大将が自ら陣頭に立って突っ込めば兵がついていかないわけには行かない。

 一瞬の間の後、全員が走り出した。

 それは春義自体止める事のできない流れであった。正面衝突といったって、策はいくらでも用意できる。だが、ここまで来てしまってはもうそんな状況じゃない。だが彼の役割は新開の腹心、この状況であって誰もが狂喜し突撃する中でも冷静にいなくてはならない。

 誰もが消える中彼一人だけ冷静に思考を回し続ける。勝利を求めるため彼はどんな手段を用いても行わなくてはならない。
 新開の作戦が大雑把に書かれた紙がある。そこには一つの勝利への道がかかれてあった、それこそが彼に託された新開の信頼の証。出陣三十分前に彼に渡された作戦書だった。

「ここは普通お前が出る場所だろう新開」

 しかし新開はそれを彼に託した、つくづく仲間に甘い男である。だがこの戦いも全ては春義の力を信じての行動だ、この紙は軽いというのに果てしなく重い。手放したくなるほどの重さだった。

「その信頼重すぎるにも程がある、手放したくなるだろうが」

 怯えるようにその紙を何度も彼は見ていた。手は震えてる、その重責の重さか、それともそれ以外の何かか。彼に託された最後の命令、だがその命令は彼にとって重すぎて、そして何よりこの時代を容認して良いか悩んでしまうものであったのだ。

「決断の時間がなさすぎだ、お前が行けばこんな事にはならなかったというのに、俺は裏切り者だぞ、ふざけるな、この信頼は無いだろう!!」

 戦場から一人だけはなれ叫んだ。そしてふっと彼は表情に影を落とした、多分それは技術の機動する。その戦争が最も激しさを増したとき、春義は戦場から姿を消していた。
 
 そして一枚の紙が空を舞いながら、戦場におち千切れて果てた。

***

 彼の腹に幾つもの刃が生えてきた。それは統制された兵が大将を討ち取らんとして放った一撃、これは戦争だ対象同士の戦いだろうがなんだろうがその伝染された凶器は二人が戦っていた当初の高潔さを全て唾棄させた。ただ大将を狙い、打ち込まれた刃は彼の心臓や能の機能を奪うことは無い。ただ銃弾を撒き散らして、剣王に向かって彼は吼えた。

 すでに自分の血か他人の血か理解できないほどの死に化粧を彼は塗りたくっている。
 
 また一人銃口を口につっこみそのまま弾丸をぶち込む、そのままその死体を力に任せて盾にしながさらに数人。彼の射程範囲からいなくなった剣王に向けて走り出す、新開はすでに的だった。戦況的には五分であっただろう、しかししながら新開は死にさらされ続けた。
 それは当然だ対象一人敵陣に突っ込むだけならいざ知れず、仲間を置いて敵の陣中の真ん中で荒れ狂っているのだ。彼の体はまるで結婚式の空き缶のように幾つも体に繋げて走り続けている。

 獣の方向のようなそれは、もう別の何かに変わり。悪魔祓いどころか天使後とその全てを近寄らせることは無いだろう。この男は悪魔も避けて通り天使が拒絶するような生き様しか出来ない男だ。

「剣王、何で逃げる。ここでお前と俺はお終いだぞどうせ。後悔はなくしたほうが良い」
「黙れこっちは負けるわけにはいかないのだ。貴様がこうやって生きている以上確実に勝利する方法を考えなくてはならない」

 だがここで彼はへらついた。
 それは怒りだ、つまらないと叫ぶ彼の本性だ。

「駄目だ、絶対に駄目だ。世界の変わり目がそれほど適当であって良いわけが無いだろうが、死を愛しめ、生を愛せ、必死に生きずに世界なんて帰ることが出来ると思うな!!」

 彼は首を左右に強く振る、右に左に、その否定はさらに敵からの攻撃を与える隙となるがそれでも彼はそのまま否定した。
 また溢れるように咲いた、刃の花をものともせずに、剣王の腕を銃弾が打ち抜いた。まるで腕をさらうようにして放たれた銃弾は彼の腕を再起不能に落としいれる。

「命をかける気が無いならここで死ね」
「そんなもの賭けたところで役の糞にもたたん。そのためなら自分を殺してみろ」

 手段と目的を履き違えるなと剣王は怒鳴り声を上げる。どちらもが意思を押し通すためだけに、動いているのだ主義主張が違ったところで何の変わりもありはしない。ここで新開を殺せるのならそれに越したことは無いのだ。だが剣王としても気味が悪いにも程がある、新開は死なないのだ人間であればもう何度も死んでいるような攻撃でも、だからこそ彼は部下を使って新開を殺す方法を見ていたのだ。

「大体貴様のその人間としての性能差を考えてからほざけ。どう転んでも俺に勝ち目があるわけ無いだろうが卑怯者」
「あ、お前よくも言ったな。大将のくせに逃げばかりで兵に悪いと思わないのかこの卑怯者」
「冗談じゃない、直接戦って欲しけりゃその反則再生能力をやめてからいえ、これで五分が正しいは!!」

 腕をその場で押さえながら新開をにらみつける。だが彼が気になったのは新開の義手だ、彼のいくら傷を受けても再生していたというのに彼はなぜ腕をなくさなくてはならなかったか。力場兵器がこの状況で使えるのなら彼も使っただろうが、この戦争において力場兵器だけは使えないのだ、それを使えば間違い無く新開がその力場を遺憾なく起動させるだろう。
 それではいけない、力場使い同士の戦いなら確実に新開が上なのだ。

 そしてこの戦争ではそれだけは許されない。もうこれは個人の戦いではない、そう言う舞台を作り上げたのだ。この二年で、あの二人はそのために彼らは時間を要した。

 あえて二人して五分になる環境を作り上げる。そしてその技手から明確な解が出たとき、彼の握っていた武器が一瞬の起動を行い、それと同時に彼は牙を向くように躍り出た。その武器こそ技術使いの中でも最強の頭脳使い集団が作り上げし力場技術の補助システムEEである。

「ようやく」

 銃撃が剣戟を阻む、殆ど近接戦闘でありながら二人の振るう攻撃はまた違った何かを見せる。二人の武器は銃と剣である、だと言うのに二人して武器をぶつけ合うようにして戦っていたのだ。技術使い同士の武器とは言え、その郷土にも限界があるはずだ、ましてや新開の武器は銃、殴りあうために用紙された代物ではない。

「やる気になったさ新開」

 なんてことは無い、かつては人類史上最悪の本能使いと呼ばれた母親と、世界を騙しきると言い放ち誰一人否定させなかった男の息子の本気だ。これぐらいのこと出来て当然だ。身体機能における完全開放、通常の人間が出来る代物では無い、だが彼には再生機能があるだからこそ人間の制限を越えたところに踏み込めるのだ。そしてまたEEも同じく力場兵器ただしくはBT設定に体を会わせる為に使用されるもの。

 ある意味これは新開にとって初めて本気を出すのと変わりは無いだろう。だがこれこそが中距離戦最強と歌われた新開の本領、刃と銃口がぶつかる瞬間に弾丸をぶち込み弾き飛ばす。銃弾といってもこれは技術使いの代物、別に通常の弾丸が出るわけではないからこそ可能な戦いだ。銃弾から打ち出される全ての弾丸は所詮圧縮された空気に過ぎない、だがそれも技術使いの知識に掛かれば十二分な凶器となる。

 依存と呼ばれる知識の結晶の一つ。
 だがそれを完全に制限解除された頭脳が振り回す一刀。

 それは無意味でありながら、無価値ではない戦いを作り上げる。しかし二人が本気で戦いだした頃だろうか、その二人の将の狂気に伝染させられたように一つの異変が置き始めていた。
 その二人の戦いを見ていた兵達が一人、また一人と武器を落としていく。

 狂気がまさに伝染する、最初それは多分偶然だったのだろう。それは見たことも無い風景だ、戦場でまだ武器を振るう事を止める兵がいること自体、戦争は終わっていない。だが止まってしまったのだ戦争が、そんな事起こらない、起こるわけが無いというのに。

 だが王二人は気付かない。二人はもう後ろに退くが許される立場でも状況でもなくなった。だってそれは人間と言うには余りに禍々しくて、それは人間と言うのは無様すぎて、どれだけ知識を深め空から宇宙(うみ)へ戻ったとしても、変わらない変えはしない。所詮地を這う獣に相応しい場所はその地面だけだ。

 そう二人して叫んでいるようだった。空だろうが海だろうが宇宙だろうが関係ない、自分達が立って歩む場所こそがその全ての証明だと。彼らが無意識に叫んだ世界へ宣戦布告、地を這う獣が全てを決めてやる。知識を深め何度滅んだとしてもこの潰える世界を塗り替えて見せると、無駄な抵抗のように喚き散らかす二人。声は響かず、ただ態度がそういっていた。

 まさに王者は君臨していた。天だろうが地だろうが構った事かと、二人の武器は余りの過剰な使用により内部から崩壊を向かえつつあった。過剰な処理が、新開の手を焼き、剣王の腕を焼き、かぎたくも無い匂いが二人の間を漂う。

 しかしそれさえ二人の戦闘では均衡を崩すものだった、剣王の剣技の冴えが失せ、新開の高々精度の射撃が落ちぶれてゆく。理解すると同時に二人は戦闘のスタイルを瞬時に変える。といっても根本的なところが変わるわけじゃない、新開の再生にしてもそうだ、EEにしてもそうである、この二つには限界がある。使用制限とも言うべき時間が、二人は同時に距離を空けた。

 剣王の身体能力なら今の距離で銃弾が当たる事はまずありえない思われる距離、といっても辛うじて両方の間合いから外れた程度の距離だ。踏み込み体を両断する事も脳を打ち抜くことも容易いであろう距離。
 ふと空気が一度変わった。

「ははははははは、ち……ちょ、はははは、こりゃ、あはあははっはははははっは、このタイミングかよ春義、よくやったよお前は」

 新開は笑い始めた。とまりそうに無い笑いに彼は、武器を投げ捨てた。
 これじゃあ勝てないといわんばかりの態度である。

「いや、いや、存外容易かったな。忘れるなよ俺はお前を殺さないんだ、どれだけ俺が殺されてもお前だけは絶対に殺してやらない」

 剣王は理解できなかった。新開は今確実に勝利を確信していた、だが同時に彼は感じてしまった。背筋が走るほどの掌握力場の範囲を、新開は腕を振り上げる。理解できないなら、後悔しろと、

「瞠目しろ、刮目しろ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。俺の名前を忘れるな、狼の咆哮を音に聞け」

 その眼前に完全に現れたのは間違い無くその男の本性。正気を取り戻してしまった新開と言う男の存在、引き裂かれんばかりの笑みを世界に刻む。ただ新開は腕を突き上げる。それは勝利を確信するだけではない、宣言世界は変わらない、この世界はあるべきままにあると。

 だが新開と剣王しかその変貌を気付いていない。

 いきなり狂うように笑い出した新開が異常に見えるだけだ。だが彼の言葉が終わって数秒、世界に光が振り落ちた。

***

 それは戦争が最高潮を迎えたときの話だ。春義は、ただ一人だけで出雲宮に侵入した。
 ただ手元に、全能力場と呼ばれた力場兵器を所有して。

 新開の作戦はきわめて簡単。全軍を持って、剣王と戦いその結果、全軍をおとりとして天門を破壊しろ。

 そのためだけに彼は、あれほどのデモンストレーションを行なった。彼は断言していた、戦争であいつに勝てないと。

「だから俺を信用するか、確かに俺は天門の場所を知っているけどよ」

 しかしそれだけではない。彼はBT設定の力場行使すら天門は効かないと言い切ったのだ。自分は囮にならなくてはならない、だから死んでくれと彼はそう春義に頼んだ。世界最大の力場行使とはすなわち力場崩壊である。世界最強全能力場を誇る燕以外それを破壊することは出来ないだろうと新開は確信を持って告げたのだ。
 だが力場崩壊は制御できる代物ではない、彼に兄がそれを成し遂げたが、新開はそんなことで無いと断言している。暴走させること自体は容易いが、それを摺るということはもうすでに死ねといっているのと変わりない。

 あらゆるものが重すぎた、新開の信頼も逃げることが許されないようなその死が押し寄せる恐怖も。

「無茶言うな、俺だって怖いんだぞ」

 ただ信頼している、そういって彼は全能力場を彼に任せた。この信頼は重い、新開は仲間を裏切らないそれだけは絶対にしない。
 だからこそその信頼が重いのだ。死にたくないが、裏切りだけはお断りだ。

「決めろと新開、いくら俺の技術でも力場崩壊から逃げれない」

 けれど彼の足は止まらない、顔は真っ青で手は震えている、足取りも重い。ただ止まれないのだ、新開だけじゃない、彼も見てしまった。新開が望む世界を、確かに彼の過去よりもそれはきっと厳しい世界だろう。けれど、そこには確かに過去には無い光もあった。

「死にたくねぇ、死にたくねぇ」

 重い足取りだけど彼は、歩いていた。間違い無く確実に、ゆっくりと間違い無く。
 新開に伝染された狂気が彼にそうさせているわけでもない。信頼が重いけど、何もかもが重いけど、彼にもとまれないだけの理由が出来てしまった。

「誰だってそうだ。けど認めるしかない」

 新開の言葉はうそでは無いと。

「認めた以上動くしかないだろう!!」

 彼はかつては歴史のために動いていた。過去のためだけに戦っていた、だからこそ剣王についた。そして過去が見えなくなったからこそ新開についた。
 そして見てしまったのは可能性の無い過去ではなく、可能性ばかりの未来。見えてしまえばこれほど綺麗な世界は無い。

 止まらない足取りを彼は震えながらも認めるしかなかった。

「それになにより、十代の餓鬼を三十近い俺が犠牲にするのは性に合わない。声も聞こえないけどよ、厄祭でもそう思うだろう?」

 そこには天門が存在している。彼はにらみつけることを止めない、ただ確信を持って俺はそのための犠牲に相応しいと彼は確信するように言い放った。
 聞こえるはずが無い、けれど自信はある。今彼は全ての決着をつけることを許された。

「それに貴様を殺す権利を与えられるんだ。上等だ、貴様を殺す、未来を作れる、こんな死に様あとにも先にもありゃしねぇ」

 すがすがしく彼は笑った、もう確信を持っていえるのだ。新開から託された最強の力場兵器、彼はそれを天門に殴りつけるようにはなった。

「華々しく散ってやる。これで俺達の勝ちだろう、厄祭にも剣王にも世界にも、俺達は全部に勝利したんだ」

 一瞬、力の流れが壊れる。そして破壊された兵器が渦を描くように、世界に圧縮される。
 彼本人でさえ始めてみる、力場崩壊。気付いたら滅んでいた世界ではなく、彼の過去はこうやって滅ぼされたことを確信した。
 そして一つの波が世界を渡る。

 そして彼を全て奪いつくす光は、彼の全てを作り上げる光に変わり、彼の存在を吹き飛ばした。
 
***

 その日、出雲と呼ばれた場所は全てを吹き飛ばし消え去った。
 当然その影響は新開達の軍にまで襲っていた、誰一人許されることもなく力場になぎ払われて、過半数が死んでしまった。その被害は当然だが新開にもあった、彼は死ななかった。
 だが意識を取り戻したとき、仲間の過半数が全て瓦礫に飲み込まれ死んでいた。

「けれどそれも当然か、力場崩壊を制御する術を持つ人間はおれだってひとりしか知らない」

 周りにも当然仲間はいた全て過去形だが、けれどその中で生きている者たちも当然いる。だが新開はその全てに解散と告げる、俺達の勝利で終りだ、満足して生きていけ。そういって彼らと別れた。
 頭を下げての感謝を忘れることは無い、お前らだけはどんなことが会っても救って見せると約束して、彼は歩き出した。

 これ以外手段がなかった。これ以外の方法を彼は想像することができなかった。だが出雲はすべてが滅んでいた、誰もが死んでいた。

 目の前に見える全てが新開が起こした業だ。この全ての更地を、そしてこれからの世界へ興奮を、彼はようやく全てをなくした。

「犬が一匹、まだ俺に寄生しているようだが、まぁなくなったのも同じだろう」

 未だに壊れていない銃、それは彼が投げ出したはずの代物だ。呼べば尻尾を振って彼の元に飛んできた、細胞登録のお陰で持ち主の下に勝手に転送されるようになっているのだろう。
 彼はその銃と共に見慣れた敵を見つけた、多分彼が銃を持ってきたのだろう最後の決着のつもりだろう。

「さて剣王最後の話だ。俺の勝ちで良いな」
「最初から負けていたの事ぐらい分かっていた。俺が最後まで過去に依存し継承ができなかったときから」
「それでも足掻いたんだろう、楽しかったか?」

 剣王は頷くしかなかった。面白かったに決まっている、世界の帰趨を決めるという戦いに立ち会えたのだ、それも最前線で最高の敵と見える形で。

「それは重畳だ、貴様が殺せなかったのが不服なぐらいの者だ。あと負けた事が、必死に考えたが悔しい限りだ」
「そうだろう、そうだろう、お前のその顔が見たかった。けどあの作戦は本当にぎりぎりで思いついた、春義を犠牲にする方法でしか出来なかったが、お前良い線まで来てたよ。正直あれが泣ければ負けてたのは俺だ、開始三十分前だこれはふざけた勝利の仕方だ」
「だが負けだ、俺はもうこの世界に不要だというのに貴様は」

 新開は頷く。

「当然だ、お前なんか殺してやらない。もっと苦しめてやる」
「お前に負けたことよりも苦しめる方法があるのか、そんな方法思いつきもしない」

 あぁ、あるさとっておきの方法がな

「やっとこの復讐ができる、お前をこのために生かし続けた。お前は負けたんだ、俺の言うことに服従してもらうぞ」
「そうか受け入れるしかないか。死ぬことすら許されん」
「よし、じゃあ受け入れろ」


 この後の世界をお前の力で守ってやれ


 それが新開の復讐、剣王は眼を丸くして笑うしかなかった。もうここまで来てこの復讐だ、未来と言うのは度量が深いにも程がある。

「お前が狼を受け継げ、お前が俺のあとに続け。俺はもう狼にはなれない、所詮犬だ」
「分かった、これほど悔しいことがあるとも思わんが、参った。完敗だ貴様の王にもお前にも」
「そりゃそうだ、俺の王は最強に決まっている。だがこれで剣王お前にも会わないだろう、任せたぞ俺はどうせのたれ死ぬだけだ。ただお前も言ってやれば良い、死んでいった奴らに、羨ましいだろうざまあみろって」
「それは当然の事だ、生きている限り俺はこの苦しみだって笑ってやる」

 そう言うと二人は腕軽く振って別れた。これから裂き彼らは生涯二度と会うことは無い、剣王はただ新開との約束を守りただひたすらに世界を守りより良いものへと変えていく。狼の意思がどれほどの物か知らないが、彼のまた狼を殺し狼を継承した男だった。
 生涯結婚することもなく彼は生きていき、その世界のために一生を殉じる事になった。それが復讐だと言うのに彼の生涯は、やけに満足したものであった。

 新開は敵の姿さえも産み無い、終わったすべてが完璧に終わったのだ。

「これでようやく何にも本当になくなった」

 勇者だった、王になった、そしてようやく彼は人間になれた。
 もう後ろは見ない、彼は全て後ろに追いやって独りになった。親が死んで、仲間が死んで、兄弟が死んで、王が死んで、信頼できる友が死んだ、それでようやく彼は人間になれた。

 その顔はやけに落ち着いている、押さえられていた狂気が全て現れたのに彼は笑っていた。目の前の世界を見て、王の言葉をようやく思い出した気がした、こんな更地で何も無い場所なのに、世界はこれほど光り輝いていた。

「さてこれからは、本当に一笑懸命生きていこう。一つ笑って命を賭ける、こんな良い言葉は他には無いんだ」

 それが祭害と呼ばれる、最後の祭である彼の大きな一歩であった。

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