十二章 極限の敗北王
 

 
 

 



 本来串刺しとは彼の領分であった、思考構築と呼ばれる転換期に入る前に彼自身が作り上げた技術だ。
 思考を読み取り物質を動かす技術である、だがこれは物質しか変貌させる事はできない。既に定型と化した物は、変貌にまで多少のラグある。元々はこれも力場技術の応用である、だがその中でも操作、創造をメイン作り上げられたものだ。
 そんな名かで最も使用しやすいのは、やはり土や空気といった、不定形な代物ばかりと言っていい。その中でも物質として加工しやすい土を彼は扱う。その攻撃手段として簡単なものが串刺しという手段であった。

 力場使いとさえ互角にやりえるだけの技術を彼は持っている。技術者クリエイターそれが、彼の本当の字である。

 十二章 極限の敗北王

 彼が、詐欺師と呼ばれる頭脳に出会ったのは、2070年頃のことだ。転換期が2073年であるのだから、丁度その二年前の事である。
 まだ高度成長を続ける日本で十歳の彼は、三代目チームFLYのサブリーダーであり。2060年に彼らが起こした事件がある、飛翔同盟に中心学区などの全ての世界を支える組織を全て敵対しその世界の尽くに勝利し、目的を果たすと同時に投降し世界経済に大打撃を与え、一時的な物ではあったがふた月ほどの世界中に大恐慌が訪れた。そんな事件の首謀者の一人であり、全ての罪を一人で被った男それが彼である。

 最もそれもたいした罪に問われていない、ただし研究資金の援助の無期限停止、脳害指定甲一種除外による特権の削除の二つである。最も彼の頭脳を欲しがらない存在は居ないため、企業からの資金援助がなされ特に金銭面で苦しむ事も無い物であった。
 神父は、当時期待されていた脳害甲種指定の子供であった。中心学区の十二学派の一つではなく学長直轄である統一学派に、彼は入れられる事になる。甲一種はすべからく管理されるこれは国の政策であったのだ。
 統一学派で、神父と変態は出会った。冗談のような話だが、この当時は王崎と呼ばれていた変態は、正真正銘の深窓のご令嬢と言うやつだった。

 この時代ある一人の男が世界中で大暴れしていた。その対策として彼と戦った経歴を変われて詐欺師は統一学派に、その男の対策チームのひとりとして呼ばれることになった。この時に彼らと会ったのだ、2060年におけるチームFLYが罪に問われなかった理由の一つである男、彼は世界やそのすべてを相手取り勝利してしまったのだ。だがこの対策チームには、当時彼が仲間としていた一人も加わる事により、世界犯罪者ワールドオーダーに対する対策は万全かと思われた。

 それこそが世界を滅ぼす事になる、転換期の創生者。厄祭の象徴 偽言真人 である。

 これが当時大戦争と呼ばれた物の始まりであった。その戦争は地獄のようであったというしかない、最強が這い蹲り、究極が拐かされ、彼と唯一互角に渡り合ったのが、人外と詐欺師、彼ら二人で彼一人分程度の力だった。いや実際世界という数の暴力が無ければ彼を止める事すら危うかったかもしれない。
 そんな時、助手として彼らが宛がわれた。この時期本当に世界は切迫していたのだ、飛翔同盟の復活、どうやったか分からない大企業の不祥事の山、金融機関の相次ぐ破綻に犯罪率の増加。
 その中で一番多かったのが十代の偽言の模倣犯罪コピーキャット、世界で最も悪辣な男の模倣が大量発生したのだ。

 ネット野などの情報により、彼が世界を相手取り戦っている事ぐらい世界中で知らない者はいない状態。挙句に人類最高と呼ばれた頭脳集団チームFLYに勝利したものと繰ればそれは、英雄たる資格を持つ者と勘違いされても可笑しくない。

 本人の性格は間違いなく、屑や塵、どんな調理法でも食えるような代物ではない者だ。

 実際神父や変態は、彼の手段を思い出しても悪辣極まりないと、毎日のようにストレスが溜まっていた。結局あの厄祭と、戦い続けた結果楽しそうだったのは、祭厄と詐欺だけだ。だが結局は世界は滅びたのだ、そして何時の間にこさえたか分からないが、転換期最高の英雄にして最大の問題児が生まれる事になる。
 実際時代の滅びの最前線にいた彼らは、その後もその二人の助手として研究をしていくのだが、転換期直後暴徒となった民衆が次々と技術者を殺して行ったのだ。力場と呼ばれる技術の暴走を起こした人間に対する怒りだったのだろう。そうやって技術者達は、岡山などの犯罪都市や技術を捨てて隠れ住むようになり、いつの間にか文明は破産していく。

 詐欺師なども同じだ、元々いた岡山に隠れ住むようになった。丁度その頃生まれたのが、新開である。
 唯一厄祭に勝利さえしていた祭厄の女の教育による致命的な価値観の崩壊、詐欺師による力場兵器などの旧世代の技術の使用法を刻まれた。後に空の転換期と呼ばれた大戦争、当時存在していたFS全ての大崩壊。BT設定と呼ばれる機能を持たない全ての力場支配機構が暴走し結末をむかえる。
 だがその際終幕の事、戦争を起こした人間と、それと戦った人間の戦争の直接対決にまで陥っていた。だが力場兵器の恐ろしさを知る、究極の頭脳川守元央は戦いの最中、その全てを破局させる。

 それが一応空の転換期と呼ばれる事件だ、色々な内容はあるがその戦争の終盤。厄祭と祭厄の戦いにより、最強の兵器燕の奪還には成功する。結果はどうあれ、厄祭との戦いは痛み分けとなった。それが烏以外全ての力場兵器を彼が持っていた理由である、反則に近い彼の能力は、こうやって育てられえていき。

 神父に弟が出来た、変態に弟が出来た、

 教育が施される前の彼は、一言で言えば白い色をした子供だ。よりにもよってそこに色が塗りたくられてゲルニカのようになったのだ。その過程を見ていった彼らだが、その二人が死ぬ事件が起こる、と言ってもそれは本当の意味での厄祭と彼ら最後の戦い。
 それの戦いにより岡山と言う県は完全な犯罪都市に変わった。その戦争の結果は悲惨極まりない、当時存在していた集団明元、大麻、革新、王国、魔王が現れる間に統治していた、集団だが尽くが崩壊した。唯一残ったのは王国ぐらいだ、と言っても三王ではなく王と呼ばれたカラスと呼ばれる力場を持ったリーダーが魔王に殺されると言う始末だったが……

 この最後の戦争で、王国は三王が権力を持ち、魔王の勢力が現れ、ほか全ての勢力が分派し大量の勢力が現れる事になりこれが結局文明が完全に衰退する止めと成った。

 そして一年間ほど最終戦争は続いた、結局勝敗自体どうなったか分からないが、祭厄と詐欺師は死亡、厄祭は生き残った事から彼らは負けたと言う事ぐらいは分かる。この戦争に参加していた神父と変態は、その二人の死を確認し埋葬した後、新開を探すがこの間に何が起きたのか分からないぐらいに彼は変わってしまった。
 つまり今の状態だ、目的が無い伽藍堂の器が出来ていた。その癖に、単に壊れた事は行なってしまいそれを器に満たすような事を繰り返し続けていた。だが結局は足りなかった、だが一つ言い切れることがあり彼は過去に戻ることだけは死ぬほど嫌がる。

 その間に何かがあったことだけは理解するが、それ以上のことは二人は分からなかった。

 だが既にこの世界の常識に染まった彼と彼女もまた、戻ることを拒絶した。そしてようやく完成したのが極限の敗北王。それから魔王と戦い、そして彼が認めたからを満たす全、四人の国でどうなるわけも無いというのに、どうにかなりそうに思えるその状況。それは嘗て、彼が憧れた詐欺師ようで、そして何より目的を求めるその飢餓感は、何よりも彼が怯えた男であり、新開の母親である祭厄そのままだった。

「あんなのに飲み込まれたのが俺の運の尽きって奴だろうな王崎」
「へぇ、よりにもよってあんたがその名を使うって事はそれなりに真面目話って事。けど実際そうでしょうね、あの人たちは憧れずにはいられなかったもの、そのために私はこの技術を作り上げた」
「まぁおれもだな、これを作り上げた」

 それが彼らの武器だろう、破壊論理、構築論理、その二つこそ彼らの技術の集大成。
 これをまともに使うのは魔王大戦以来、と言っても両方力場兵器には劣る程度の能力だ。破壊論理は、対物質用能力に過ぎない。最も人間にも効果はあるが、崩壊力場や浸食力場のような応用性は一切無い。
 力場関係の攻撃さえも受け止める事は許されない、そういった類の代物だ。

 しかし彼らは仮にも、魔王を超える災害である厄祭と戦ったもの。

 その技術を知り尽くし、操りつくす存在が、力場使いと戦えないわけも無いのだ。力場とて完璧ではないと言う証明だろう、いつまでも変わらない戦闘の準備を行い、嘗ての過去を思い出す。それこそはまさに血戦、過去を思い今を作る、あの時代が戻ってきたような高揚とそれ以上の期待。

 次に死ぬのは敵か味方か、正直この四人にはどうでもいい話だ。

「面白くあれか、あの男の言葉の意味が少し分かった気がする」
「厄祭ねぇ、あれは少し度が過ぎてる気がしないでもないけど。あの男の言葉に少なくとも嘘はひとつもなかった」

 過去を笑い続ける、まぁ笑わずに入られないだろう。そこにいるのはかつての仲間ばかり、勇者に選ばれた塵どもの集まり。
 最強と呼ぶに相応しい力を持つ鳥達の使い手である力場兵器のマイスター。既に何羽もの鳥が地面に落ちているが、未だ空をとび健在なものの方が多い。それにもうファーストラインが岡山駅につく、誰が派遣されてくるか分からないがそこに全ての戦力が集中するのだ。

 本格的な戦争が始まる、これはきっと魔王戦争なんて比べ物にならない段階で動く。

 ファーストラインから彼らの望むものが現れるが、それは想像し得ないレベルの戦いの始まりに過ぎなかった。その瞬間、多分このアイユーブと言う都市は崩壊する事確約されたとしか言いようが無いだろう。
 筆頭騎士がそこに居た、一人じゃない三人、そして王が居たそれも三人、力場使いが居たそれを除く全員。

「「はっ」」

 二人の枯れた声が響いた。

「最悪の最悪最悪か」
「違うでしょうが最高の中の最高の中にある最高よ」

 笑うしかない、つまりは北海道戦線さえ蹴り飛ばしてこちら側に居ると言う事だ。三千の屍が来ようとも彼らが居れば戦況は変わる、破壊力の極点の軍勢がそこに居るのだ。二人はかみ合わない歯の音に気付いている、かりかちとやけに音が響いていた。
 体中に震えが走っているのだろうやけに行動があやふやだ、だがこれが彼らの相手である。増援は勇者だけ、彼らの至上命令は足止めであり、アイユーブの経済中枢の死滅。そして王国の抹消である。

「なにをやってる、震えて尻尾を振って穴でも晒す気ですか、仕事だキングからの絶対命令です。最悪だろうが最高だろうが、そんな事戯言に過ぎない、あの程度が厄祭と同じだと思いますか? 否、絶対の否定形でしか語られない、鬼とあっては鬼を殺せ、人に会えば人を殺せ、神と逢えばその権能如墜し晒せ、忘れるな厄祭の敵だった奴ら、個人で世界が相手に出来る確証を得るだけの経験をしたんです。この私達が出来なはずも無い、一つ笑って、盛大に笑って死んでしまおう」

 その瞬間、全てが動く。BT−EAGE、世界最強が作り上げた力場の頂点、サポートではないメイン、御伽噺はいつまでも終わらない。

「そろそろ全てのマイスターどもに教えしえてやる必要がある、鳥をそろそろ狩りに行くぞフェアリーテイル」

―うぃっさー、お久しぶりの、久方ぶり、まいますたー

 その瞬間誰もが気付いた、圧倒的な情報量を支配する事で動く最強の力場使いの権能を、衰えたとしてもそこにいるのは世界最強を誇る力場使いであった勇者。空間の動きを支配する独特の拘束間が世界を包んだのだ。その範囲は、既に一つの国を丸呑みし、それを破壊として行使されれば地球と言う存在自体が削げ落ちる破壊を示すだろう。

「アクセスポートが崩壊しただけか、社長まで騙す辺り逝かれているが、俺らの言葉に本当があるはずも無いか」
「あれが本当の燕じゃないの、少なくとも私達が見ていた燕はあれだった」

 人間は行き着くところまで行くと色まで似てしまうものなのだろうか? その力を操る様は、まさに厄祭のようで、だがその表情から見て取れるのはやはり祭厄。詐欺師の影は見えもしないが、そのどこか豪快で後先を考えない姿はまさに祭厄である。だがその操る力と性別の所為でいやでも、厄祭に見えてしまう。

「キングの命令だ、いいかげんアホ面どうにかしておけ。アクセスが直接出来なくなった今この力だって二分ともたん、これは既に時間制限付ださっさと潰すぞ。三王はお前らに任せた、俺は一人ばかり因縁のある奴がいるからほかをなぎ倒して殺してくる。
 行くぞ、楽しい狂気の鬼狂いだ。どうせ俺たちの言葉は後からしかついくることは無いんだ。それが俺たちだろう?」

 もし彼らの嘗ての仲間が居たら目を細めた事だろう、何しろその言葉は彼の父親が血戦の前に好んで使用していた言葉なのだから。

 その言葉を聞いた彼らは獰猛な牙に、狂気を宿して駆け出す。四足の獣が、地面を跳ねて獲物を喰らう、それは力場兵器の使い手の一人だった。だが新開の前ではそれさえ一般人と変わらないのだろう。六つの暗い瞳が淡く光るように写った、その牙からは既に血が滴っていたのだろう。その姿だけでそこに居るもの達は恐怖で顔を歪めた。思い出したのだろう、勇者とは違うもう一人の力場使い魔王を、少なくともその程度の空気を彼は持っている。

 時間制限もあるだろうが躊躇いなく次々と、他のマイスターを蹂躙する。平然と構えれるものなど居るはずも無い、狼が現れたのだよりにもよって狩りに、それはつまり殺して餌にするまで終わりはしないという話。そして彼らは人間だ、狩りとは仕事、仕事とは復讐、その狩りが終わるまで彼らは動く事をやめるはずが無いのだ。

「お久しぶりだ諸君。偽言派遣会社仕事のために皆殺しに来ました」

 そしてその宣戦布告たる狼の遠吠えは甲高く響き渡たり、獲物は悲鳴を上げる、喰らわれる以外の選択肢しか持たない彼らは、もう生涯を安寧にすごす事など許されはしない、狼に狙われると言うのはそう言うことなのだから。

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