二章 喜べ人間 貴様らは時間に屠殺される豚だ


 人間は人間を壊す方法を良く心得ている。殺す方法も然り、生かしたまま壊す方もう当然の話。
 人間は人間と言う、その純粋理性からこもれ出る衝動のままに、その凶悪性を証明する事ができる稀有な動物だ。

 皮膚が剥がれた、それでも人間は死ねない、人体標本のようにありありと、一皮向いた人間の姿が存在していた。それだけで、ただそれだけの行為で、人は人じゃなくなるのだ。その様を人は絶対に、人間とは言わない。どちらの意味でも一皮向ければ、人間は人間じゃなくなるという話だ。

 そこに針を当たり前のように刺していく、死にそうになれば回復魔法を使い、それを繰り返せば無限サイクル拷問の完成だ。最初のころは釘で打たれていた体も、その行為自体が面倒になったのだろう、逃げないように両手足の腱を切り落とされ立ち上がる事すら出来ないでいる。

 すでに海晴には喋ると言う機能は失われていた。襲い掛かる激痛に次ぐ激痛、やがて脳は磨耗を起こすように、彼の体に痛みを感じる以外の選択肢を失わせた。
 だがマイゼミはそれでも彼に対する拷問をやめない。ここまで来ると何かしら彼の肉親でも殺していない限り飽きそうなものだが、彼は一日たりとも飽きるという事がなかった。

 賢者の血に連なる膨大な魔力、そして英雄の息子に相応しい悪を許さぬ高潔な精神を持っている。だがそれ以外は駄目だ、正義の反対の言葉は別の正義である、悪と言うのは、被害者のことに過ぎない。力の弱きもの、ほら今の状況に完全に統合する。
 まさにこれこそ人間といわんばかりの、クズその者の所業。人間と言う存在であるなら誰もが、その強弱を問わず行なう事であった。
 
 だがいつも同じ反応では誰でも飽きが来る。だからこそ、人間の歴史の中で躍進的に膨れ上がって言った多種多様の拷問法がある。あらゆる国でそれは実行され、忌み嫌われている。
 が、それはなくならない。人間は精神的にどうしてもといっていいほど、残虐性を秘めている。そしてなによりも、自分がしていないと言う免罪符を持っていればどんな事をしても許されると本気で思っている。

 だがこれは無残だろう、皮をはがれ鼻を落とされる。
 文章にすればこの一言だ、だが少し文字を増やす。何の抵抗も出来ない人間の、鼻をゴリゴリとナイフで削る。

「あ……、あう…………、ぃ――――ぃああ、ううう」

 痛みで漏れ出す言葉はただの嗚咽、簡単に人体が切り落とせるはずも無い。ましてや骨がある部分だ殆どそれを強引に切り裂きながら落とす。こんなときは日本刀でもあればと、地獄を感じていた彼は心の中でそんな郷愁をわかせるが、そんなもの泡沫の代物だ。
 一瞬で痛みが彼を占領して、蚤のようにもがき続けるだけ。激痛が極限に達すれば一瞬で意識は飛び泡を吐き始める、そうなるとまた回復魔法を使い蘇生。そして水をぶっ掛けてまた意識を戻す。

 一度話を戻すが、人間には飽きが来る。それはマイゼミも同じ事だった、こう言う拷問をしたら、こういう悲鳴を上げる、それを理解したら最初はそれが楽しかった。だが次はそれに対して飽きが来る。そうすればいつの間にかマイゼミは拷問界の冒険者になっていた。それがほめ言葉でないのは当然の話であるが、その泡のようにのたうつ彼の姿を見るのが、英雄の息子が唯一楽しいと思う娯楽であった。

 だがこれは方向性が違うだけだ、母親は平和を追求した、息子は拷問を追求した。ただ目的が違うだけの話。

 マイゼミだって最初は、海晴をこうしようとなんて考えてはいなかった。ただちょっと生意気だった平民に、冗談のように、お仕置きをしてやろうと思った。だがいくら殴っても彼は受け入れてしまったのだ。それが彼にさらなる興奮を与えてしまった、いくら殴っても屈服しなかった海晴がちょっと世話になっている酒場を壊されたぐらいで屈服した瞬間、なんともしようがない興奮に突き動かされた。

 そしてその興奮に押し上げられるように彼を監禁して拷問をした。
 そのときだ、完全に海晴の心を折ったのは。彼はその人間を手折る興奮に、飲み込まれてしまった。それは暴力に飲み込まれた王と変わらない。一つ違うとすれば、それは性的な興奮を加えていた事だろう。

 実際、海晴は拷問が始まって二ヶ月もすればマイゼミに陵辱されるようになる。
 そしていつの頃からだろうか。
 マイゼミは海晴に暴力を通じて恋愛感情を抱くようになっていた。彼にとってそれは恋愛感情の表現に変わっていた。それは吊橋効果のようなものなのか、また別の理由があるかどうかはわからない。

 海晴に自分の逸物を咥えさせ射精する。尻に精液を注ぐようになり、やがて海晴の声から快楽が灯り始める頃、彼はようやくそれに気付き始めた。その頃から彼の拷問が変わってきたのだろう、全てが性に関するものに変わる。男が体中を嘗め回す、海晴はそのことを考えることすらなくなっていた。

 ただいつものように尻に精液を注がれ、快楽に喘げば良いだけだ。当初、メイドが運んでいた食料もいつしマイゼミの口移し以外で与えられることはなくなりそのメイドも殺された。

 拷問は厳かに終り、悦楽の踊りが歌う。

「あ、っふ、ぬ、ははは……、なんて、楽しい」
「んっ―――、あ、くうう、あ」

 いつの頃からだろう、それは当たり前のことになっていた。本当に当たり前のように、腰を振り腸内を犯していく男、いつの間にか開発された体からは、男の喘ぎ声が零れていく。体を何度も白濁で汚されながら、マイゼミのものは休まることさえなかった。
 いくら吐き出しても彼のそれは萎えることさえ知らない。当たり前のように彼の口内を犯しながら、だらしなく口を広げて唾液を海晴の体に溢す。拷問されていたはずの体は、母親達の虐待の跡も含めて全てが魔法によって消え去り、傷一つな玉のよう肌に快楽の赤を染め水玉の汗を腰を振る音の体に合わせるように地面に落とす。

 二人の声と、その激しい非生産的な交尾は夜通し続く。
 結局最後は二人して絶頂に達して、だらしなく二人して股間のそれから精液をこぼして終わりだった。

 そしていつもの様に、海晴の口の強引にそれを押し込み掃除させる。もう一度彼の口内に吐き出せば、彼は学院に向かう。
 そこでの口付けも当たり前のこと、腱を切り落とされた彼は動くことは出来ない。もう涙の流し方は完全に忘れた、そして覚えたくもない男を満足させる術だけは体に刻まれた。

 舌を噛み切ることさえ許されず、なんども海晴は満足に動かない体を呪い続ける。
 一箇所たりとも動く気配を見せない体に、うまれて始めて彼は怒りを覚えた。今までなら受け入れられた、家族のためにとその言葉で自分を代償にして、だがここは違うここは彼の世界ではない、それなのに彼は受け入れようとしたこの世界、だがこの世界は彼を受け入れてくれることはなかった。

 地下室で、ただ疲れ果てた男を喜ばすだけの体に成り果てた。その自分の姿の無様さと無力さにさえ何も浮ばない、目の前に光の指す階段があるというのに、それさえ手を伸ばせない。ただ彼はこの世界の、いや人間の最終到達点を思い出す。所詮力だという絶対的理論を、無力だから自分はこうなった。結局自分が生きているのはマイゼミのお陰だ、尻の穴に注がれた金を必死に舐めているのと変わりはない。

 それが全てを受け入れた、四ヶ月たった彼の姿だ。
 だが一度ここでマイゼミは、原点を思い出すように、彼にまた過剰な暴力を振るい始める。鉄のたわしのようなもので彼の体を削り始めた、海晴は反吐を撒き散らし、また思い出した痛みに心を折られる。肉はまるでガムの塊のようになって地面に肉を撒き散らした。

 どれだけ動いても意味がない、それは全てマイゼミを喜ばせるだけだった。これから彼の性交は、こういった苛烈さを催し始める。

 ただの衆道では耐えられなくなったのだろう彼は、そのサディステックな精嗜好をまったく違う方向に変えてしまった。今思えば体を鉄のたわしで削られることさえましだっただろう。

 三日後彼は解剖された。

 鳩尾辺りから膀胱付近に一本のナイフで切り抜ける、解剖されて生きている理由が分からないほどの血があふれ出している。
 それでも彼が生きているのは、この世界の異常であり。現代の世界が持つ事を許されない技術である回復魔法であろう。

 世界はその常識によって彼を苛み苦しめる。溢れ出た腸に何度も射精が行なわれ、体中の臓器と言う臓器に、精液がぶちまけられる。それはマイゼミが、海晴を自分の物であることを刻み付けるための、匂い付けする犬のような行為にも思える。いや実際にその為だけに彼は体を解剖し、解剖された蛙されたのだ。切った皮はマイゼミの行為を楽しませるためにピンで留めて人間の体の中身がどんなものか分かりやすく、描かれていた。

 それは完全な蛙、白目をむいて理解できない息を吐きながら。それに同調するように、彼の体はマイゼミによって陵辱される。

 結局それは彼が、異世界に着た全ての理由になりつつあった。泡を吐き、目を白目にさせ痙攣を起こし、精液をかけられる。これが彼の全てだ、誰一人救うものはいない、彼もそういった希望は四ヶ月前に捨てた。

 結局彼に残されたのは男娼となって、自分の尻の穴に注がれるものを必死に舐めとりながら生きていかなくてはいけないという事実。
 彼の腸を使って自慰をして快楽に染まり腰を必死に振るマイゼミはまた彼の腸を汚した。

 そして一度話を変える。
 海晴だ、彼はいつの頃からか受け入れる事をやめていた。簡単に言えば開き直った、痛みには慣れた、このくそのような状況にも慣れた、もう心が折れたって直せばいいだけだと、思い始めていた。
 そうなれば彼の心に湧くものは一つだけである。彼の目は腐っていく、それは世界が彼に与えた地獄の苦痛の果て。ただ彼は認めてもらいたかったがそんな願いさえ叶う事はなかった。どんなに努力をしても当然のように家族に嫌われて虐待を受けた、それでも認めてもらおうと努力してでも無理で、心が潰れて自分が居なくなれば、それで自分を認識してもられえると願ったからこそ、家から離れて自分と家族どちらもを満足させようとした。

 けれど、それは何一つ意味が無かったと言えるだろう。

「あははは、誰も、誰も認めてくれないんじゃないか」

 忘れていた声に灯がともる。ここまでされてようやく彼は心に怒りを燃やすことが出来た。

「認めてくれってそれだけじゃないか、何で俺の唯一の願いだって許してくれない。難しい事じゃないだろう」

 燃え上がれば後は止まらない、怒りはきっといつか燃え尽きるだろう、だがいつ燃え尽きるか理解できたもんじゃない。もしかしたらその怒りの原料である本人が燃えているのならそれは死ぬまで終わらない。
 光のともった目、だがそれは救いの光じゃない。

 炎は燃えるものだ、そして燃やし尽くすものだ。世界はこの選択を後悔するだろう、逆鱗と言う物があるならきっと彼らはこの逆鱗に触れた。支える物さえない男が、ようやく自分の足で立つ、よりにもよって怒りで、それは煉獄を要する地獄とて生ぬるい。

 世界も彼もどちらもその享受を拒絶したのだ。ならばその炎は燃え上がるだろう、人間を糧にして、その煉獄の赤き柱を打ち上げるのだろう。
 だが今は彼は無力だ、ただ男に犯されるだけの哀れな尻の穴に過ぎない。
 世界は誰一人救ってくれないという事実だけを彼は受け入れながら、ただ一瞬の復讐を待つ。もうこの炎だけは止まらない、これよりまだ裏切られる彼の人生の執着がようやく目に見えて光りだした。

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