皮膚が剥がれた、それでも人間は死ねない、人体標本のようにありありと、一皮向いた人間の姿が存在していた。それだけで、ただそれだけの行為で、人は人じゃなくなるのだ。その様を人は絶対に、人間とは言わない。どちらの意味でも一皮向ければ、人間は人間じゃなくなるという話だ。 そこに針を当たり前のように刺していく、死にそうになれば回復魔法を使い、それを繰り返せば無限サイクル拷問の完成だ。最初のころは釘で打たれていた体も、その行為自体が面倒になったのだろう、逃げないように両手足の腱を切り落とされ立ち上がる事すら出来ないでいる。 すでに海晴には喋ると言う機能は失われていた。襲い掛かる激痛に次ぐ激痛、やがて脳は磨耗を起こすように、彼の体に痛みを感じる以外の選択肢を失わせた。 賢者の血に連なる膨大な魔力、そして英雄の息子に相応しい悪を許さぬ高潔な精神を持っている。だがそれ以外は駄目だ、正義の反対の言葉は別の正義である、悪と言うのは、被害者のことに過ぎない。力の弱きもの、ほら今の状況に完全に統合する。 だがこれは無残だろう、皮をはがれ鼻を落とされる。 「あ……、あう…………、ぃ――――ぃああ、ううう」 痛みで漏れ出す言葉はただの嗚咽、簡単に人体が切り落とせるはずも無い。ましてや骨がある部分だ殆どそれを強引に切り裂きながら落とす。こんなときは日本刀でもあればと、地獄を感じていた彼は心の中でそんな郷愁をわかせるが、そんなもの泡沫の代物だ。 一度話を戻すが、人間には飽きが来る。それはマイゼミも同じ事だった、こう言う拷問をしたら、こういう悲鳴を上げる、それを理解したら最初はそれが楽しかった。だが次はそれに対して飽きが来る。そうすればいつの間にかマイゼミは拷問界の冒険者になっていた。それがほめ言葉でないのは当然の話であるが、その泡のようにのたうつ彼の姿を見るのが、英雄の息子が唯一楽しいと思う娯楽であった。 だがこれは方向性が違うだけだ、母親は平和を追求した、息子は拷問を追求した。ただ目的が違うだけの話。 マイゼミだって最初は、海晴をこうしようとなんて考えてはいなかった。ただちょっと生意気だった平民に、冗談のように、お仕置きをしてやろうと思った。だがいくら殴っても彼は受け入れてしまったのだ。それが彼にさらなる興奮を与えてしまった、いくら殴っても屈服しなかった海晴がちょっと世話になっている酒場を壊されたぐらいで屈服した瞬間、なんともしようがない興奮に突き動かされた。 そしてその興奮に押し上げられるように彼を監禁して拷問をした。 実際、海晴は拷問が始まって二ヶ月もすればマイゼミに陵辱されるようになる。 海晴に自分の逸物を咥えさせ射精する。尻に精液を注ぐようになり、やがて海晴の声から快楽が灯り始める頃、彼はようやくそれに気付き始めた。その頃から彼の拷問が変わってきたのだろう、全てが性に関するものに変わる。男が体中を嘗め回す、海晴はそのことを考えることすらなくなっていた。 ただいつものように尻に精液を注がれ、快楽に喘げば良いだけだ。当初、メイドが運んでいた食料もいつしマイゼミの口移し以外で与えられることはなくなりそのメイドも殺された。 拷問は厳かに終り、悦楽の踊りが歌う。 「あ、っふ、ぬ、ははは……、なんて、楽しい」 いつの頃からだろう、それは当たり前のことになっていた。本当に当たり前のように、腰を振り腸内を犯していく男、いつの間にか開発された体からは、男の喘ぎ声が零れていく。体を何度も白濁で汚されながら、マイゼミのものは休まることさえなかった。 二人の声と、その激しい非生産的な交尾は夜通し続く。 そしていつもの様に、海晴の口の強引にそれを押し込み掃除させる。もう一度彼の口内に吐き出せば、彼は学院に向かう。 舌を噛み切ることさえ許されず、なんども海晴は満足に動かない体を呪い続ける。 地下室で、ただ疲れ果てた男を喜ばすだけの体に成り果てた。その自分の姿の無様さと無力さにさえ何も浮ばない、目の前に光の指す階段があるというのに、それさえ手を伸ばせない。ただ彼はこの世界の、いや人間の最終到達点を思い出す。所詮力だという絶対的理論を、無力だから自分はこうなった。結局自分が生きているのはマイゼミのお陰だ、尻の穴に注がれた金を必死に舐めているのと変わりはない。 それが全てを受け入れた、四ヶ月たった彼の姿だ。 どれだけ動いても意味がない、それは全てマイゼミを喜ばせるだけだった。これから彼の性交は、こういった苛烈さを催し始める。 ただの衆道では耐えられなくなったのだろう彼は、そのサディステックな精嗜好をまったく違う方向に変えてしまった。今思えば体を鉄のたわしで削られることさえましだっただろう。 鳩尾辺りから膀胱付近に一本のナイフで切り抜ける、解剖されて生きている理由が分からないほどの血があふれ出している。 それは完全な蛙、白目をむいて理解できない息を吐きながら。それに同調するように、彼の体はマイゼミによって陵辱される。 結局それは彼が、異世界に着た全ての理由になりつつあった。泡を吐き、目を白目にさせ痙攣を起こし、精液をかけられる。これが彼の全てだ、誰一人救うものはいない、彼もそういった希望は四ヶ月前に捨てた。 結局彼に残されたのは男娼となって、自分の尻の穴に注がれるものを必死に舐めとりながら生きていかなくてはいけないという事実。 そして一度話を変える。 「あははは、誰も、誰も認めてくれないんじゃないか」 忘れていた声に灯がともる。ここまでされてようやく彼は心に怒りを燃やすことが出来た。 「認めてくれってそれだけじゃないか、何で俺の唯一の願いだって許してくれない。難しい事じゃないだろう」 燃え上がれば後は止まらない、怒りはきっといつか燃え尽きるだろう、だがいつ燃え尽きるか理解できたもんじゃない。もしかしたらその怒りの原料である本人が燃えているのならそれは死ぬまで終わらない。 炎は燃えるものだ、そして燃やし尽くすものだ。世界はこの選択を後悔するだろう、逆鱗と言う物があるならきっと彼らはこの逆鱗に触れた。支える物さえない男が、ようやく自分の足で立つ、よりにもよって怒りで、それは煉獄を要する地獄とて生ぬるい。 世界も彼もどちらもその享受を拒絶したのだ。ならばその炎は燃え上がるだろう、人間を糧にして、その煉獄の赤き柱を打ち上げるのだろう。 |