五章 明王くんだら
 




 俺にとっては人生の中で第一位に入るほどの不機嫌さを今相手に振りまいているだろう。
 どうみても同い年ぐらいにしか見えない再生の炎だって操る人類の卑怯者が、目の前にいるせいで逃げ出すこともできやしねぇ。
 その隣に控える男はやけに激しい視線で俺を見ている。

「その視線気持ち悪いし、男に見られても吐き気しかしないから目取り敢えず抉り出してくれないか」
「黙れ、言動師の孫でもなければとっくに無礼打ちしているところだぞ」

 うわ、超人間的に駄目なやつだ。
 無礼打ちって、言ってて自分が惨めにならないんだろうか。何気なくそう言う感情を不動明王に視線で伝えてみたら、あきれ返っていたから孫の一番駄目なところがここなんだろう。

 しかもあっちはあっちで、適当にあしらってといった感じの視線を向けてくる。

「うわ、仮にも明王候補が不意を打たれて気絶したのに、負け犬のと遠吠えなんて惨め過ぎる。鷺宮の羅刹女的にもこれは酷いだろう」
「ええ、とても無残な感じに負け犬臭が漂っていますね」
「そうだ、こんどから明王候補筆頭は不意を打たれて気絶したら権力で相手を叩き潰そうとするって伝えてみるよ」

 あれ、なんかいきなり顔が真っ赤になった。
 なんでだ、俺は特に何も悪い事は言っていないのに。これだから昨今の若者は人間的に駄目だというんだろうな。

「聞いていいかい、なぜ君はそう簡単に人の神経をさか撫でるんだい」
「あなたにとって図星だからじゃないでしょうか。何しろこの鷺宮でも倒せそうな実力で明王ってのは流石に片腹痛い気がしますし、なによりこの程度で怒ったりするような人間の精神力で明王って、ねぇ」

 不動明王に軽く視線を流す。肯定意見なのか軽く首を縦に振った。
 鷺宮は馬鹿のように私が明王候補に勝てるとか、聞いて喜んでいるようだが、だって実際どうにでもなる程度の能力者だしなこいつ。
 けど本当にこの化け物は本物だよ、勝てる気がしない。奥の手を使って三割って、どうやっても戦わない事が正解だよ不動明王は、孫は本当にどうにでもなるし。

「それに慣れたって便所神だろう」
「それを言うな、なぜそこまで私に喧嘩を売るのか理解しがたいが」
「え、事実しか言ってないのが喧嘩を売る事になるのか、まずそんな自分の姿を改善した方がいいんじゃないだろうか」

 だって嘘なんか一言も言ってないし。
 でもどうやらあいつは俺を軽く見ているらしい、なんて扱いやすい。非常識な炎能力者とは言え、どうにもこうにも性根がカスだ、プライドを根こそぎへし折れば再起不能になるだろうとか思っているが、不動明王の前でそこまで出来ないか。

 それに俺は弱いんだから、搦め手以外じゃなかったから勝てる気がしないしやっぱり弱いんだろうから、徹底的に心の隙を作り出さないとな、そして戦わなければそれですむだろうが、このババアが許すはずが無い。なにしろ家のばーさんをして、あれほどの負けず嫌いはいないとのことだったからな。
 孫との戦いだってこいつからすれば十二分なバーさんとの戦いになるに決まっているのだ。だったら俺は騙して嵌めて貶めて、正々堂々と相手を嵌めつくすしかないだろう。

「なら勝負しかないだろう」
「寝言は寝て言え、してくださいと頭を下げるのがお前のまず最初の一歩だ」

 俺は戦いたくないんだからな。戦わせたかったらそれ相応のお願いの仕方があるんだよ。
 戦わない方法をまず模索してみる、不動明王はどういう態度をとるかわからないが、これも戦いのうちだ我慢しろよババア。

「じゃあ私と戦ってください」
「死んで寝言を言え」
「えー、私だって戦いたいんですよ。もうプロレス技はいやです」

 何でお前が立候補するんだよ。プライドと葛藤して苦しむ男の姿が見たかったのに、とても不愉快だ。
 そんな時ババアが俺の近くにやってきた。残念そうに俯くアホはともかく、こいつから出る言葉次第じゃ俺は本当に戦う必要があるからな。

「どうやらあの明日香さんの完全な後継者のようだ。私からもお願いだよ、戦ってくれ」
「お前もだよ、俺はとても闘いが嫌いなんだよ。なの命を奪われるように勝負を挑まれるからしぶしぶ叩きつぶしているだけだ。戦いたかったらばーさんとでも戦ってなババア、おれは興味も無いね」
「富士山の噴火は見たくないだろう。あなたさんの言葉次第では、それもありえると言う事を忘れないよう」

 ほらみろ、俺はこんなばーさんの命令を聞く必要がある。
 視線だけは外さず表情も変えず。ババアの耳にそっと言葉を吐いてやる。

「やってみろよ、うちのばーさんと母親に親父と俺とを纏めて相手にしたかったらな。お前の大切なもの根こそぎ奪ってやるぞ。俺とあれを戦わせたかったらまずそちらが、意欲を出させる努力をしろババア」
「わかったよとりあえず早めておいてやる。一族ともなると勝率が消える、それに故郷を滅ぼすのは忍びないかですし。しかたないので否が応にも首を私いる間に降らせて上げますよ糞餓鬼」

 本音で言うと普通に戦ってりゃよかった気がした。
 けど我慢するもん、本気で怖いけど、相手に俺の戦闘意欲を出させる努力をしろといっただけだし。俺は戦いたくないからそんな事になることは無いだろうけどね。
 まだ俺の言葉に怒り狂いながらも理性を保つ男は、プライドゆえに頭も下げる事ができず苦悩しているし、当分無視していいだろう。余裕を見せる俺と、不動明王だが、きっと間逆のことを考えているんだろうな。

バーさんもこんな奴の息の根止めちまえばよかったのによ。

***

「じゃあ私と勝負してください」
「ふざけんな、俺は戦うのが死ぬほど嫌いなんだよ」
「そんな事はありません、私と始めて戦った時なんて、力負けするほどの能力を平然と使ってたじゃないですか。戦う相手が弱すぎて、面白くないだけでしょう」

 あのねそんな事は無いんですよ。
 俺は過大評価されるのが大嫌いなんだよ。あの写島の後継者とか言われたり、偉大なる後継とか昔は言われたもんだ。そんなこといった奴らは全員丸坊主にした記憶がある。

「そんなこたない。面倒な事は全部嫌いだ、俺は強くないといっているだろう。大体明王と戦ったらまた注目されるだろう、俺はそう言うのも嫌いだしな」
「え、なに無理を言ってるんですか。あなたと明王候補の戦いは、既に確定した事実じゃないですか」
「ちょっとまてよなんで、アレだけ暴言はいたのに戦闘が決まってるんだよ」

 首をかしげる女は、今更何をといった態度をとりやがる。

「いやあなたならありえますね。明王と写島ですでに確約が取られていますから確定ですよ。そう言うむねを伝えた書類が送られたはずですが、本家の書類は全部見ないで捨ててたようですね」
「え、おい、お前そりゃないだろう。相手に頭下げなきゃ戦わないといったばっかりだぞ俺、だから不動明王も俺とあいつ他が戦う事を確信してたのか」

 最悪だ、また面倒な思いをしなくちゃならないのか。
 写島が発言すれば国家が動くのだ、名家よりも時としてその言葉は重くなる。それに一応英雄の血族とか言われているし、不動明王関連では俺たちはキチンと動く必要があったりするのだ。
 それ以外は出される事は無いが、まあ俺たち一族は不動明王関連の政治ごとに拒否権は無い。それが未成年の俺でも変わらないのだから最悪だ。

「くそ日本から逃げ出してやろうか」
「いや写島を他国に出すような政治家はこの世に存在しませんよ」

 そうなんだよ。何でこう面倒な制約がついているんだ。
 まぁ国外逃亡も視野に入れよう、亡命だってありさ写島ならきっと受け入れてくれる国はあるはずだ。

「なんか物騒な事考えてますけど、皆さん期待してますよ。次世代の写島と明王の戦いですから」
「負けてみるか」
「それは無いでしょうだってあなたは、強くないといっているのに負けるのは嫌じゃないですか」

 たしかにそうなんだよ。俺は過大評価は嫌いだし面倒ごとは嫌いなんだけど、負けたくない。
 何しろ所詮ランクCの能力者が、高能力者と戦って負けたら殆ど死ぬ。それぐらいの力の差があるのだから負けるわけにはいかない。

「そりゃ敗北イコール死亡だからな、負けるわけに行かないんだよ」
「なるほどだから無敗の写島とかよばれるんですね」
「そう言うことだ、しかし政府からの本家への援助が消えたら。あの歩く災害が打ちの実家に来るのは確実だから困るんだよな。あー面倒くさい戦わなかったら余計面倒なのが家に来る」

 そうなったら俺は実家に帰っても心が休まる事がなくなる。
 ああ最悪だ、逃げ出したいのに逃げ出せない。いやいっそここで逃げ出して海外逃亡への布石を整えるべきではないだろうか。
 いや隣の女がそれを許さないか、政治と言う意味では写島は所詮最後の手段だ。この日本で不覚から政治に関わってきた六道名家にはかなわないだろう。そしてこいつが意地でも逃亡を止めるのだろう。
 鷺宮はそれだけのパイプと力と実績を持っている。

「ここで一発写島の実力を見せてあげましょうよ。玉音放送の後に起きた不動明王敗北の再現を見せてください」
「あーあー、了解しました。どうせこの日本からは俺は逃げられないしな」
「そうですよ英語の成績最悪なんですから、他の言語も覚えられませんって」

 多少むかつくが全部事実だ。
 時には見せてやるべきだろう、他の能力者と隔絶した弱さを誇る写島の一族がなぜこの国で最悪の名前を得ているかを。
 名家はどうも忘れかけているようだしな。

「久しぶりに本気で戦うんですか」
「まさか、俺はいつもで大真面目に戦っているだろう」

 そう言うと面倒な名家連中の賞賛の言葉を浴びてババアのところに向かう。
 孫の話をしているのだろう、俺の視線に気付くと見たくも無い老婆の笑いが浮んでいた。まだもう一人のほうは俺にも気付いていないのだろう。
 ゆっくりと近寄る。後二歩ぐらいのところでようやく気付いたそれは、怒りに顔を真っ赤に染めていた。

「きたようだね写島の後継は」
「いやそろそろ言いたくなったと思ってね、そこの無礼千万極まりない七光り、いい加減お願いしますの言葉は言えるようになったのか、頭を下げてお願いしますといってくれないか」

 相手にとっての逆鱗にあえて触れてやる。
 それをするまで本気も出さないという明確な喧嘩の売り方だ。したくも無いことをさせるのだ本当は全員に土下座させたって気がすまないのを一人にしてやるんだ。

「格上に戦えとかほざいているんだ雑魚は礼儀ぐらい示せ」
「貴様と言う奴は」
「どうも貴様よりは強い写島美春だ。頭を下げるまで本気も出してやらないから、さっさと頭を下げるか、このまま戦うかはお前のプライド次第だ」

 だが視線を合わせないぞ、あわせるのはあくまで不動明王。
 あんたみたいな面倒なのがいるから、俺の様な低能力者は常に勝たないと命の危険に晒されるんだよ。時にはそれを理解してふざけたその満面の笑みを投げ捨てろ。

「闘士としての覚悟も無いのか!!」
「そりゃそうだろうこんな最初からわかってる出来レースの為に寿命を使ってやるんだぞ感謝して欲しいぐらいだ」

 怒りで溢れているのだろう炎が、心臓の鼓動と共に激しくなっていく。
 こんな炎に当たれば一瞬で死んでしまうだろう。だが人間一人を倒すのにそれはいらないだろうと思うんだよな。

「だからとっと『倒れさせてくれ』」

 その瞬間ぐしゃりと潰れた。突如として襲い掛かる重力や風があいつだけに激しく襲い掛かる。
 耳栓デモしているのなのに何故だと驚愕し顔がその表情に染まっている。別に言霊使いは人間だけに作用する能力じゃない、自然現象だって操る事はできる。

『そのまま倒れたままにしておいてくれ、足掻こうと無力である現状を突きつけて欲しい』

 まだ炎を蓄えているのだろう。倒れているというより潰されているに近い状態だというのに、よくもまあ頑張る。
 その必死さはほめてあげたいが、そりゃ無駄だ。

「それと『能力は邪魔だ、発動次第自爆しろ』、ちなみにだが発動したらいくらお前でも死ぬからやめとけ」

 不意打ちによる完全な奇襲。怒りで相手の行動を読むことも出来ないままの完全封殺。
 それでも残心の状態のまま、敵を見続ける。取り敢えずこれぐらいしておけば、少しの間は静かになる、能力者として上位である以上直ぐにこんなもの剥ぎ取る事は可能だ。

「はい終了ついでなんで『意識でも狩っておいてくれそれで全命令は終了』」

 どうせこれじゃ倒せない。俺は能力者を甘く見ないが、高く見るつもりも無い。その俺の態度を見て、不動明王は憮然とした表情をしていた。

「いやそれは流石に私の孫を甘く見すぎでしょう。明日香さんの孫らしくも無い、戦いの終わりでありますよ」

 ああ、とてもよく分かっているよ。鷺宮はこのあと俺にそのまま能力を叩きつけてきたんだからな。
 しかしそこにいる鷺宮、明らかに俺を見て楽しそうに笑っているな。流石戦闘狂、俺のある程度真面目な戦い方を見て興奮して恍惚とした顔をしてる。

「知ってるよ、だから攻撃を待ってるんだろう」

 愕然とした顔が見れた。不動明王もこんな顔をするんだとは驚きだが、俺とバーさんの戦い方は根本的には違う事をようやく把握したのだろう。またすました顔に変わっていた。

 しかし不動明王といい、鷺宮といい本当に係わり合いになりたくない奴との縁ばかり繋がっていくよ。
 そんな思考と同時に襲い掛かった炎が、俺の視界を完全に阻む。だがこれも全部出来レースなんだよな、奥の手は出せない。
 俺としてもまだ殺人をしたい歳じゃないんでね。

 まぁその時炎に巻き込まれた俺の姿を見て、俺の敗北を確信した奴らの顔は覚えた。そいつらの為にだけは働いてやるまい。心の底から深く、そう思っています。 

『火傷するような自然現象は消えうせる』

 そう呟いて、第二ラウンドとなる戦いの思考を俺は考えていた。お願いしますはいつ言うのかそれだけが気がかりです。

***

 あの炎を喰らえば普通はこの国の名家連中でも相当のダメージを受けるはずなのに、煤すらついていない彼の姿に、アサヒさんや他の人たちは愕然としていらっしゃいます。

 しかしです。

 これが、これが明日香さんの後継者ですか。

 仮にも明王に成るべくして成る様な力を持つ子が使う炎をたかが言霊でねじ伏せるなんて。相も変わらず裏技のような言霊です、自分の発言に一つたりとも揺らぎが無いからこそ発言できる現象が目の前で起きているんですから。

 それでも本来の孫ならあの程度の攻撃でここまでの失態は演じないと言うのに、小細工まで祖母そっくりと言うのも驚きを隠そうにも隠せません。
 ただここで驚いていない鷺宮の娘は、少なくともここまでの彼は見たことがあるということでしょうか。
 最低でもあと三段階ぐらいはあるはず、彼の祖母がその程度の実力を昔は持っていたのですから。ただの炎じゃ彼をつぶす事は出来ない。

「まだお願いしますは無いのか。全く無礼な奴だ」
「貴様ほどじゃない、お願いしますなどといってなるものか。本気を出させればいいだけでしょうが」
「いや無理だと思うな、鷺宮にも劣るよそれじゃ無理だって」

 そうやって挑発しているのでしょう。攻撃に無駄を用意させて、自分のランク内で処理できるようにイメージを膨らませる。言うのは容易いけど、こんな状況生成能力に意志力と想像力を高次元で持っている必要がある。
 あの未来視にも似た予測能力と、私でさえ手に入れていない意志力はまさに明日香さんの後継者。
 けれどまだ未熟ではある、まだ介入する隙がある本当に本気など出していないのだろう。それでも圧倒的過ぎる。

 アサヒさんはどうも相手のペースに乗せられている。それは仕方ない事でしょう、私以外に負けないと思っていたプライドを根こそぎへし折られているのですから。
 それさえ予測している観察眼は、もはや魔眼といってもおかしくないのでしょう。

 能力だけじゃな敵わないと見ると、アサヒさんは近距離戦から通り抜けようと考えているようですが、私もあちらさんも元は同じ一族の出であることを忘れているのでしょうか。
 そしてあちらさんはアサヒさんの攻撃を呼んでいるのですから、カウンター気味に一撃喰らいました。軽く意識でも飛ばしたのでしょう、その場で立ち尽くします。それも想定しての攻撃だったのでしょう、そのまま流れるように体を動かし、二度三度アサヒさんを殴りつけます。

 関節を固めると耳栓を外しました。ああ、終わりましたねこれは確実に。

「じゃあ終わりだ『両手足を叩き折って押しつぶせ』、そういえば忘れていたけどさ俺って男には容赦する人間じゃないからな」

 治るだろうけどこの国ではまともに歩けないようにしておいてやると、アサヒさんの耳元で呟いていました。
 これだから、これだから写島は能力者の例外と呼ばれるのでしょう。本当にCランクの力の能力をその意志力だけで鍛えつくした結果なんですから。
 どう考えてもこの国どころか世界的に見ても、これほど弱い最強の能力者はいないでしょう。

「ここまで容赦なくするとは思いませんでした」
「うっさい鷺宮、あれだけ徹底的にやれば面倒ごとが俺に近寄らないだろう。一番厄介なの意外な」

 彼の勝利を当然と思いながらも喜ぶあの子は彼女か何かでしょう。
 鷺宮の娘を捕まえる辺り本当に明日香さんそっくりですよ。あの人は私を倒す理由が惚れた男に頼まれたですからね。
 確か根元林のあと取り息子だった気がします。けど私を倒してしまえばと言う約束を守った所為であまり能力の高くない妹が継いだという話がありましたね。
 それはどうでもいいです。いまは勝利者に賛辞を送りましょう。

「おめでとうございます。さすが明日香さんの後継者といわれる方です」
「うるせえクソババア、俺はこんな事をしたくはないんだよ。次からは断るからな、それとその馬鹿に人の言葉に乗せられすぎと言っておいてやれ。鷺宮と同じクラスの実力がある奴の戦いじゃないぞあれ」
「あの子はどうしてもプライドが高い子ですから。本当に申し訳ないです、美春さんの実力も出して上げられなくて」

 あら嫌な顔をしていらっしゃる。
 けど仕方ないでしょう。あなたはそれだけ、私の宿敵に酷似しているのですから、戦い方はともかくその有り方が、ならあの程度であるはずはありません。
 鷺宮の娘さんは、私を見てさすがと言うようですが、唯一の敵のことぐらいしかこの歳になると考える事がなくなるんです。

「伝えておきましょう。アサヒさんもいつかあなたに再戦させてあげたいのですが、困った事にあなたはどうやら明日香さんの死後は私の獲物になりそうです」
「冗談じゃねーよ。俺は面倒ごとはしたくないんだよ」
「けど困った事にこの国の法律じゃあ、写島は不動明王の相手をすることが決まっていますよ。そして私はこの国だからこそ敬意を払って、形式的に戦いたいといっているだけです」

 本当なら明日香さんとは本気で殺しあいたいぐらいなんですよ。
 それを折角生まれ故郷だからって我慢してあげてるんですから、国外逃亡ぐらいしてもらいたいものですよ。本気で殺し合いをしてあげますから。

「お断りだ。戦闘狂は一人でいいんだよ、鷺宮が要るだろうこれが一応俺の敵らしいからな。若い方がいいんだこよっちもな、再生の炎まで作り上げて生きてるんじゃねーょさっさと死ね」
「こちらも戦い以外で死ぬつもりはないんですよ。そう思うならあなたが私の寿命を根こそぎ殺しつくしてくれますか」

 本当に素晴らしい逸材だ。
 これだけ完璧に後継者を作った明日香さんは羨ましい。それ以上にありがたい、あなたの死後は彼をついばみ租借してあげたいです。
 心臓の音が炎を体内に溢れさせる、ここで喰らってやろうか。

 けどそれ以上に心臓が高鳴る声が響いた。

「そりゃ相手が違うのぐらい理解できないのかい、また地面に叩きつけられんと自分の諸さも理解出来ないのかいめいさんや」

 なんでここでくるのでしょうか。
 私の最大最強の敵は、我が最高にして最大の怨敵は、何でもうも憮然と大胆に存在してるのでしょう。しわに歪んだ顔も、年老いて体力もなくなったというのに自分の敵は今もなお勝利を確信した態度をとる。

 それは無いでしょう、あまりにも完璧な私の敵過ぎる。折角つけた理性がはがれてしまうじゃないですか。

「それは素晴らしい、また私と戦ってくれるとは」
「なにいい加減にこっちも寿命で逝きそうだし、その前にあんたとの関係に白黒つけてやろうと思ってね。そのためにあんたの来日を仕組んでやったんだよ。取り敢えず前哨戦の孫の戦いは終わったろ」

 ああ、孫なんてどうでもいい。素晴らしいほどの敵だ。
 また強くなってるなんて思いもしなかった。孫と同格かそれ以上の魔眼を持って私の全てを見出すんだろう、前と一切違うところを見せ付けてやる。
 そういえば彼女の孫がいってた気がする鷺宮の娘が敵と、ならもしかしたら私の後継者は彼女の方がふさわしいかもしれない。
 ならここで私の後継者候補を作り出すのもまた一興かもしれません

「鷺宮明さん、ちょうどいいから一つ助言してあげる。あの化け物共と戦いたいなら、あいつらの戦いを見るなんて行為は無粋、この私の戦いを見なさい。これがあなたが進むべき道ですから」
「ここで後継者選択までするのかい、随分命がいらないと見えるよ」
「いえ後継者に見せる姿など背中だけで十二分と言う当たり前の事実を忘れていただけですよ」

 だって写島に負けてなお立ち向かい続ける子なんて物を見たのは以外初めてだ。
 あれに挑む力があるのならどうにでもなる。それを理解しているのだろう明日香さんも、あいつも変な女に目を付けられたと同情して笑った。

「さっさとやれよ、孫の戦い食って戦うんだから。俺に面倒ごとをかけるなよ」
「美春そりゃむりだ、この戦いで一番迷惑を被るのはあんただよ」
「当然でしょう、後継者なら諦めて受け入れたらどうですか」

 その言葉を聴いて苦虫を噛み潰したような顔を作る。
 けど諦めたのだろう溜息を吐いた、それが二人の戦闘の合図。彼女の為に考え続けた戦闘法を見せる、愛しております我が宿敵、だから今回で負けて死んでくれますね。

「お断りだよめいさん」

 もう、それぐらい受け入れてくれてもいいでしょうに明日香さんは意地悪な人ですね。

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