一章 万能?無能?そこに何の差がある本当に恐ろしいのは尖鋭だ
 



 クレイジーだ、最高だ、ファンタスティック、いやテンションが少しおかしくなった。
 だがあいつらやってくれる、よりにもよってあのとうに大穴明けてくれるとは最高だ。チームFLY、彼らならいつかはやると思っていた世界最強天下無敵全世界で何を起こそうとも無罪になる存在チームFLY、万能無比の無限天才達。
 ありがとう、打ちの両親ごとあのとうを皆殺しにしてくれて、ようやく俺はひとりになれた。

 予想通りで予想外だ、FSの殺虫剤の効果切れの話は知っていたがここまで大げさに物事を進めると言うのは流石に予想していなかった。いや世界最強の天才がこういうことをする類の人間だとは思っていなかった。

 俺の予想では、かなりのあまちゃん。自分の立ち位置さえ分からないのに無意味に力のある子供と言うイメージだった。これには実際自信があった、だがチームFLYのメンバーがリーダー以外の声で動くとも正直考えづらい。何かに秀でたものは総じて人格と言うものを失う傾向にあるのは確実なのだ、それを纏めていたの峰ヶ森陽子意や彼女以外に纏める事が可能な人間がいるわけがなかったのだ。

 チームFLYのメンバーは、

 最強の頭脳使い 峰ヶ島陽子‐みねがしま ゆうこ‐
 詐欺師     川守大海‐かわかみ たいかい‐
 空狂い     大芝岳やぐら‐おおしばたけ やぐら‐
 反転者  私麻倉有‐しいあさ くらむ‐
 取扱説明書  言渡澄渡‐ことのわたり すみわたる‐
 究極敗者  窓見 空‐まどみ そら‐
 侵食毒  水深滲入‐みふか にじいり‐
 希代の頭脳使い 川守元央‐かわかみ もとゆき‐

 の計八人、その全てが先代に渡る二代目を凌駕する頭脳使いたちであり。時代が違えど何があろうとも何かしらの功績を残し世界にひとつの技術革命を起こしえる化け物共だ。いや違うか今は初代さえ超える化け物どもに変貌している、最強の頭脳の大橋太郎が作り上げた殺虫剤、正式名称は別にあるが本人がこの言葉を好んで使っていた殺虫剤が、破られたのだ。

 彼が紡いだひとつの言葉、三十年も掛かった。それほどの技術、現物はあってその完成品の設計図まで存在してなおも解けなかった完成品が破られたのだ。

 彼ら八人は天才だ、底なしの頭脳使いたち。だからこそ俺は嬉しすぎて顔の表情を変えることが出来ない。わんだふぉー、こんな面白いこと今まで作り出した事さえない。資金であきらめ人材であきらめ、そうやって俺が負けたことの一つを彼らは平然とやってのけた。

 流石がとしか言いようがない。彼らは完璧だ、各々が専門の知識を持っているわけではないと言うのにどの天才たちよりもどの分野でも上にある。彼らは素晴らしい天才たちだが別に専門分野がないわけではない。二つ名が彼らの専門といってもいい、1−8イエーガーさえ舌を巻く空狂い、世界どころか全てを捻じ曲げる詐欺師、この世界最高の謎を破壊した頭脳使い、いや心躍るね。

「さてどうしたもんか、情報が少なすぎる。NO-bookにでも連絡を取ってみるかな、いやあいつの情報程度じゃ今の盤面は動かせないか」
「あんた情報って、あれに対して何かするつもりなの」

 おいおい、同類それじゃつまらないだろう世界が。

「当然だ、考えてみろよあれはチームFLYだそれ以外にあんな事が出来る人類は断言してもいい存在しなんだぞ。だから世界は面白いくせに冷酷無比なんだ、たった八人に億の人間が負けるんだ、自分じゃ何も出来ないと思っているからな。無力は罪だが無自覚は怠惰だ、全者は許すが俺は後者は絶対に許さない」
「どういうことよ」
「簡単なことだろうが、正解の全ては無自覚なんだよこれが無くなってこれが無くなっただから敗北。まだ打たないといけない手はいくつもあるというのにそれを行わない打とそれを怠惰といわずしてなんと言うんだお前、増してや確実に対抗できる手段がありながらそれを行わないと言う事を俺が許すとでも思っているのか同類」

 自分でも分かる不甲斐なさ過ぎる、俺と最低でも同等の癖にこの状況が面白くないと思う事事態が許せない。塵である俺が言うのもなんだが、適応品の性なのか、それとも人類最高の天才にでも本当に押し潰されたか、下らないあの程度の天才でお前が潰されるなんて子とありえないんだよ。そう思い込んで自分に自覚させる以外の方法で、俺たちみたいな人間の劣化品が潰される事なんて起こり得ない。

「あいてはチームFLY分かってるの、人類最強の集団。ましてやあれには確実にFSのリミッターが外れている。分かるでしょう」

 その気になったら星ごとぶっ潰せるって事だろう、だがどう予測してもそんなことは起こりえない。目的を終えた後が想像がつかなくなるからだ、誰でも予想が出来るそんなことをするために世界の軍事力を停止させるなんて事が起こりえないことが、そもそも誰にもきずかれる間もなくそれを行えるのだから。

「だからそれの何が不満なんだ、そもそもあれが外れたからこそチームFLYは相手をするべき相手になったんだぞ。これほど手ごたえのある相手がこの世にいるか」

 これほどの獲物がこの世にいると思っているのか、各国の崩れた幻想達程度じゃこの面白さは味わえない。

「だからなんで私が、どう考えても勝てるわけないじゃない」

 はあ、なに言ってんだこいつ。呆れて俺は一瞬呆けた様な顔を取ってしまった。
 俺の表情は基本笑いと皮肉しか作れないようにしていると言うのに何でそれを簡単に崩すんだ。いやこれが同類としての無意識の力か、悉く人をコケにして悉く人間を玩具として扱う術、その一つだ。奥に見えるのは策略の炎、無意識ながらに使うかそれを、嘘の基本だな嘘の中に真実を含ませ信憑度を増させる。

 だが俺はその辺の一流詐欺師じゃない、超一流の自己中心だ。お前の意思なんか最初から介在なんかしていない、大体お前の方が俺よりろくでもないことを言っているのが分からないのか天然。

「俺はな勝てるかどうかなんて関係ないだろう、人生においてもそうだが過程が全て何だよこの世界。結果は終わりだ意味がない、面白い事はあり続けてくれないと困るだろう」

 お前のように勝利に対して一切の興味がないんだよ。何でチームFLYと戦って勝つ必要があるんだよ、楽しむ必要以外ないじゃないか。
 
「あんたなに言ってんの、どう考えてもまともな人間の思考じゃないわよそれ」
「世界は玩具だって言ったろ、それこそ当たり前のように何度も。それとな俺はお前のその態度が一番嫌いだ。混沌存在の癖に平民ぶるな気持ち悪いんだよ、一般人の振りしながらなんでそんなに嬉しそうに俺の話を聞いてるんだ」

 爛々と輝く瞳には好奇心を混ぜて、はやくはやくと次に盤面を進めようとしているくせに二の足をふむなんていう器用な事をやり遂げやがって。

 この俺が化け物みたいに見えるだろう。

***

 理解はしていた確実にこの男は精神を明らかに止んでいると、だが私はここまでとは思っていなかった。
 けどそれ以上に、この男のいった言葉に言い返すことの出来ない私がここに存在した事の方が私にとっては屈辱以外の何者でもなかった。
 見透かされている、私の知らない内面が抉り出されるようにしてこの男の前に引きずり出される。

 そう私はこの男の言うとおりに今の状況を楽しんでいる。

「え……、なんでよ」

 だけど認めるわけにはいかない、それは人間の思考で許されるべき倫理の範疇を超えている。この男の思考は限りなく理性的で度が過ぎるほど本能から離れている、究極の話、人殺しを否定するのは本能だ、けど人を殺すのは理性なのだ。
 狂人、いやがおうにもその言葉が浮かび自分もそれと同じだと気付かされる。それだけは認めるわけにはいかない、私は人間だ。

「同類、もう手伝うって言っただろう逃げられる訳無いだろうが。いいか口約束であってもだぞ、この世にこれほど他のしことがあるのか」

 ずるい手だ、初恋さえまだの私だがこれほどの胸が高鳴った事はいつ以来だろう。
 理性が疎めしい、こんな事を楽しいと認識させるのだ。これが本能の術ではないのは確実だ、恨めしい。

「いやよ、いやに決まってるじゃない。肉親と戦えって言うの、そんなこと私は絶対いやよ」
「駄目だ、何度も言うがその優柔不断振りは止めた方がいいぞ。自分を惑わすほどのレベルならやらない方がいい相手を惑わす程度のしておけ。さっさといくぞ世界がお前を呼んでいる」
「いやだー、そんな呼ばれかた。もっと才能とかで呼ばれたいわよ」

 一瞬で私を圧縮する空気が消えた。ぶるりと体を震わせながら男を見る、変わらないままに手を差し出し、最低でも不細工ではないはずのその顔にはゲームを買って帰るときの子供のような何が起きるのだろう楽しみだと心を跳ねる音が響き渡るようなそんな顔。

 空を彼は仰ぎ見た、そこにはまだ無敵戦艦であろう大十郎がぽんと浮いている。それを見てさらに空気を明るく戦ばかりに輝く、楽しそうだ。

「私以外の元のメンバーで見ればいいじゃん」
「無理、無理、何しろお前に会うためだけにそのサークルのリーダを勝手に止めちゃったからなら。本拠地はアメリカだったんだけど、まぁもともと国外退去命令下ってたし仕方ないか」
「まて」

 何を言いやがってるんでしょうかこのお兄さん。
 
「いやいや仕方ないんだこれが、ほらそのサークルがあるだろでなはっちゃけて遊びまわったんだよ。自由の女神全身を燃やすとかな、ハリウッド、聖なるホーリーウッドから針の木(針ウッド)にとかちなみにだけど日本人の面子以外笑ってくれなかったなこのネタは。なあ、この第二次高度経済成長のさなかの日本なのになったのにいまだに日本語を習得する外人率は余り多くないというのものも問題と思わないか」
「聞きたくない、止めろ喋るなこの大馬鹿」

 なって当然だ、というか間違いなく序の口と言う類の話から始めやがった。なにこの男冷静に馬鹿じゃないの、純正の理性からくる快楽衝動、なんて劣悪な最低人種なの。
これがこうなると面白いはずそれを思うままに実行できる類の人間なんて理性悪以外の何者でもない。

「だからさ同類がいちいちそんな事言うなよ悲しいだろ」
「きーこーえーなーい、聞きたくない。って言うか同類である訳が無いじゃない。私はそんなこと考えないししたくも無い、私は空を飛んでうろちょろするのが好きなの、将来は世界ランカーになって1−8イエーガーに入るんだからそれでいいじゃない」
「いや無理だろ、お前は俺と今からあれで遊ぶんだよ。あのさ日本語分かる、ちょっと可哀想な内容量の脳みそしてるとかそう言うことは無いか同類」

 なぜここ度同情されんと私はいかんのだろう、だが男は私の心情を一切理解しない。

「それにな、俺の親父とお袋はあそこにいたんだぞ……」

 そして指を刺すのは大穴の空いた場所、なるほどそう言う事情もあるのか。ちょっと反省してみた。

「殺してくれてありがとうって御礼に行かなくちゃ行けないだろうが」

 最悪だよこの人。人の感動フラグぶち壊して激進するなんて。
 大体、両親殺した人間に感謝しに行こうとしているなんて、よっぽど両親恨んでてもあり得ないことでしょうが。けど男の眼に揺らぎは一切無いんだからもう最悪、書き文字があるなら間違いなくワクワクって言う文字が入っていると思う。

「けど」

 いきたくない訳じゃないけどいく訳にはいかない。

「嫌だ」

 お前とは違うんだ分かったか化け物。

***

「駄目だ」

 それを許すわけにはいかないんだよ、どうしてもお前俺では絶対的な差がある。同類として欲しいだけじゃない、あいつにはFSを操る能力がある。
 残念ながらFSを操るには免許が必要だ、小学生からでも取れる程度の免許だが俺は残念ながら保有していない。だがFSはこの免許がないと運転できない仕様になっている。

 だがそんなものは実はどうにでも成る事でそれ以上に致命的なことがある、俺は高所恐怖症だ。

「いや駄目だじゃないでしょう、私は一般人あんな究極の動乱の中に飛び込むほど馬鹿じゃない」
「馬鹿に成ろうぜ」

 いや本当に、お前がいないと俺は空で何にも出来なくなるからさ。
 仮にも空狂いの指導と、対光速用対応機能EEを完全に操れる人間がそりゃ無いだろう。世界ランカーとさえタメを晴れるようなネタがそろっている三流なんてこの世にはお前ぐらいしかいないだろう。

「嫌だ」
「そこまで嫌か、やれやれだ。そこまで嫌か残念だ、こりゃ諦めるしかないわけだ」

 本当に残念だ。
 双山は驚いたのか大きく目を丸くして俺を見ている、その中に俺を疑うような空気があるのは間違いないがそれは当然の事だろう。

「残念だ、俺に手段を選ばせないという方法を選ばすなんて」

 ああ、久しぶりに容赦なく手段を振るうか。
 俺は回線を開く、かつてのメンバーの一人に手伝ってくれるかどうかは判らないがやってみるだけの価値はあるだろう。

 さてNO-WARお前はまだ俺に仲間でいてくれるかな。

『お久しぶりだリーダー、じゃがワシは今はチームFLYぜよ。そんなワシになにようぜよ』
「いやなにお前らと敵対するために、ちょっと手を貸して欲しいんだよ」

 川守大海。お前と言うかつてのメンバー最高戦力にな。

***

 それは当然だった、いきなりの来訪に近い。全能回線とはいえ流石に今の状況で回線から連絡があるとは思って誰もいなかった。
 だが大海だけは違うその音を楽しみにしていたかのように、当たり前の動作で回線を開いた。

「お久しぶりだリーダー、じゃがわしは今はチームFLYぜよ。そんなワシになにようぜよ」

 一瞬峰ヶ島陽子かと誰もが思った。だがそれにしては大海の警戒はゆるい、

「いやなにお前らと敵対するために、ちょっと手を貸して欲しいんだよ」

 そしてそれは男の声で、非常識なまでに図々しく命令する側人間だった。他のメンバーは誰もが頭のおかしい人間としか思考が出来なかっただろうが大海は違う、その人間の異端性を悉く自分の目で見てきた。相手からはこちらの姿が見えないが、チームFLY側からはその男の顔がはっきりと見える、その辺にいる学生のようにも見えるが移る笑顔は凄絶極まりなく、あの大海さえも圧倒するほどの何かを持っていた。

「おいおいリーダー好き勝手に暴れるだけ暴れてメンバーを辞めたくせに今更それが何でわしに命令するぜよ」
「よく言う、半分はお前の所為だろうが。けど、どれだったかな俺がやめなくちゃいけなかった原因は」

 首をかしげる、その瞬間大海はその仕草が余りにも自然すぎて腹を抱えて笑い始めた。

「けっけっけ、どちらがよく言うぜよ。リーダー、あんたはやりすぎて覚えてないだけぜぃ、どこの世界に悪戯だけで国外退去命令を下されるような人間がいるぜよ。それにやめた理由は確かにワシぜよが、ただワシはチームFLYで何かが起こるから一時期活動が出来ないぜよといっただけぜぃ」
「いやそれが原因だろう、チームFLYで何かが起こると着たら世界問題のレベルだ。こんな玩具を逃す手がどこにある、他のメンバーは萎縮して何も出来なくなるしそれなら俺一人で十分だろ、お前なら分かるだろうNO-WAR、NO-TITLEにその言葉を使う理由が」
「そうぜよ、そうぜよ、確かに多少打算はあったぜよが。確かにリーダーが出てくるのは確定だったぜよ、あのメンバーで来ないのは予想外だったぜよが、でどういうことをして欲しいぜよ」

 どこまでも下劣な男は平然とやはり世界を玩具と呼ぶ、そこに躊躇いは無く遵守も無い、ただ面白いことに手を出すために敵手さえも借りようと言う。
 どこか螺子の抜けたメンバーでもここまで思考回路が破算的な人間は見た事が無いだろう。

「簡単だ、峰ヶ島双山あいつをどうしても仲間にしたい。あいつがこの計画のメンバーの一人だってことにしてくれればいいだけだ、そうすればあいつだって俺に対して躊躇いを演じえている暇がなくなるだろう」
「おいおいリーダーそれは何の冗談ぜよ」
「いや本気だ、お前でもやっぱり無理か。あれはなしいて言うなら大橋太郎だ、天才が何も万能無限の存在じゃないってことだな。俺が選んだベストメンバーだ、相手をしてくれるときにはせいぜい隙を見せないようにしろよ。お前ならこの意味分かるだろう、俺は手段を選ばないからな」
「身をもって理解しているぜよ、リーダーに隙を見せるほどワシは愚かじゃないぜよ。ちなみにお願いの方は受け取っておくぜよ、ワシはそのためだけにこちら側にいるぜよからね」
「じゃあこれは俺からの最後通告だ諦めるかあきらめないか、久しぶりに十歳のときぶりぐらいに本気を出そうと思う。俺と敵対する覚悟があるなら、殺す気で来い、天才如きが俺に虚言で敵うと思うなよ」

 忠告だったのかそれとも舌戦の始まりだったのか、だが彼の言葉に対抗しようとするものはおらず。空気に呑まれていくのを誰もが理解していた、男はただ平然と遊びのためだけに命を賭けようとしているのだ。

 何てことだどの世界にだってそれは見ない目だ。日本人特有の目でありながら何処までも漆黒に濡れ、何処までも平然に告げる。彼は天才を如きと笑いながら彼らの力を認めている。

「理解しているぜよリーダー、だが異端如きが天才に頭脳で敵うと思うな」
「当然、悉く異端に対して手を尽くせよ。俺が敵に対して優しく笑っているのはただ面白いからに過ぎないんだからな、俺を愕然とさせるような事を見せてくれよチームFLY、どうせお前らは何をしても許されるんだ、徹底的に来い。
 遊びつくして、世界に疎まれるような存在に俺はなってやってもいい。尽く手を打て、約束を破ればこっちだって手段を選ばないぞじゃあなNO-WAR」

 そこで回線は切れた。大海は大きくそこで息を吐いた今までの態度のどこに緊張があったかわからないがそれでもかなりの精神の消耗戦だったらしい。
 いやそれは当然か、会話の間彼は何一つ彼の情報をくれてやることが無かった。それを搾り出そうとどうにか手を尽くしていた、表情から、会話から、その裏側をだが何一つ手に入れることは出来なかった。

 しいて手に入れたといえば峰ヶ島の妹が敵になるぐらいのものだ。それは彼が彼らに命令した事であって、それ以外の何者でもない。

 だが知るまい彼はいまだに策略一つたてていない事を、嫌だからこそ彼は今連絡を取ったのだ。やる情報が無ければマイナスはありえない、結論的にプラスしかありえない状況。発想がそもそもおかしいのだ、何の手段も考えていない状況で天才と戦うそれがどれほどの異常なのか分かるだろうか?

 戦争とは物量が多ければ多いほどいい。つまりは準備の段階をきちんと踏みそれに伴う行動を行う事が前提であるその状況を彼は破綻させていた。
 
「はあああああ、最悪の展開で最高の展開ぜよ。NO-NAMEのリーダーがここで出てくるか、NO-TILTE良くもまぁこのタイミングでアホな連絡を」
「NO-NAMEといえば兄さんが管理していたサークルですよね。チームFLYをやめてでも入りたがったって言う、どんなサークルであの人間はどういう類の人間だったんですか。明らかに兄さんと同じような空気を持っていましたが」

 「冗談だろ」口調を帰ることも忘れて、弟を彼は睨みつけるようにして言う。

「あれと一緒にしないで欲しいぜよ。あれは人間じゃない、いや人間過ぎるからこそ人間じゃないぜよ、唯一全能の理性使い、主義も主張もない快楽者NO- TITLEその名の通りの男ぜよ。一緒にいてあれほど面白い男はいないぜよが、敵にしてあれほど恐ろしい相手もこの世にいるとは思えない、イエローハウス事件、第二貿易センタービル前衛芸術事件、恐怖死刑囚達によるストリーキング、NBAをNWO変更、NASA有人ロケット地面に進む、上げればきりが無いほどの究極愉快行為を平然と証拠も残さずに遣り通した男ぜよ」

 聞けば聞くほどアホらしいにも程がある内容の事件ばかり。チーム全員が呆れた、大事件の一つとして処理されながらいまだに犯人が見つからないという事件ばかりが並んでいた。だがそれ以上に彼らは大海の顔を見て体を震わせる、まだ続く事件があった。

「だが本当に一番すごかったのは最初の事件、あいつはチームFLYを破壊した張本人だぞ。二代目、そして三代目になるはずだった峰ヶ島ではなく鉋響枷かんなひびかせをれっきとした知略戦でつぶし、本当ならワシの代わりに入るはずだった燈台守とうだいもりをその虚言で滅ぼし本来乗り気でなかった最強の天才峰ヶ島を強引に仲間に加えさせた張本人。もっと言うならおんしらだって関わってるはずぜよ、偽言真人ころごとまひと、2055年狂乱大宣言の偽言夫妻によって起こった飛翔同盟再結成宣言を、それさえ奴が親を操って行った可能性のあることぜよ。二代目が言ってたろ偽言を敵にするな、偽言と関わるな、奴らは厄祭だけを運んでくる神官だ」

 それは二代目リーダー将門雅門の有名な言葉だ、彼は事ごとくを偽言によって妨害され研究を破壊された。その結果の研究結果は微々たる物だった。
 この男はこういう人間から生まれた存在だ、そしてリーダーがこの言葉とともに2057年に自殺している。

「だが峰ヶ島の生まれも性質の悪い事だ世界最大の天才と、世界最大の厄災に見初められる同類ぜよか。だか資金を調達するNO-moneyも圧倒的な古式武装のNO-WEPON仲間にいないあいつがどうやるつもりなんだぜよか。……………あ、リーダーがいた」

 このときチームFLYのメンバーは流石にこの状況はやばすぎるだろうと唖然とした。

 そしてこの時彼らは一つの情報を手に入れそれに対しての手段を講じる事になる。所詮はただのあまちゃんの女に過ぎない峰ヶ島陽子、絡めとる手段はいくらでもいかようにでもある。そう思いながらとっくに策略を立てていたのは彼の弟、真人の要望を無理に加えながら全能回線で犯行声明を世界に叩き込んだ。

***

「うそぉおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 男の嫌がらせの内容を聞き届けられなかった私は騎馬兵上がりのAIによって絶望を煮込んで二日ばかり経って良く発酵しましたみたいな私には害しか残っていない内容の回線映像を私に見せた。

 なぜ、なんでよ、何でここに私がいるのに、チームFLYの反抗のメンバーに堂々と私が存在してんのじゃーーーーー
 
 この男半端じゃないぐらいにおかしい、絶対に間違いなく、あのメンバーに対して連絡手段を持っているというのにあっち側のメンバーになる事だって可能なくせに、私をメンバーにするためだけにこんな大馬鹿をやる普通。選択肢は残されてなんかいなかった、この男は私より上手と言うより手段を選ばなさ過ぎる、だから何度も了解を取ったのだとも理解は出来た。

 自分が手段を選ばずに行動するならそれは絶対に成功させるという確信を持つだからそれをしない為に頼んだり思考遊びをするのだろう。

 つまり選択肢のあるうちにこいつと一緒に行動をとればよかったのだ。じゃなければここまで私を追い込もうなんて考えもしなかっただろう、最悪だこいつ、本当に最悪すぎる、私の人生はここでお終いみたいな物だ。

「何でこんな事に」
「嫌がるから、これでお前は嫌でもチームFLYと敵対して勝利しなくてはいけなくなったわけだ。じゃ無ければお前の平穏な人生はここで終わり、嫌がらずに楽しめばよかったものを」

 邪悪だよこのお人、私の苦しむ姿を見て笑いをこらえる有様だ。
 道路の突っ伏す、なんと言うか完璧に敗北だ。ただ子供のようにいやだ嫌だ言ってれば諦める類の人間じゃないから意思を持って拒絶してみれば、私の平穏と言う名の前提条件をきっちりと破壊して自分の目的に嫌でも手助けしなくてはいけなくなるように行動を起こす。

 読めるわけ無いじゃんそんな思考、ここまで破天荒にされれば嫌でも私は手助けしなくちゃいけない。相棒とやらに成らなくちゃならない。
 大体気付く方がおかしいチームFLYのメンバーと直接的な回線で繋がっているなんて想像していなかった。というより全能回線を甘く見ていた、まさか散布アンテナがあんなあほな高度まで対応してるなんて思わなかった。そして何よりそんな馬鹿の言葉を実行するなんて思いもしなかった。

 そりゃ考えてみれば衛星高度ですら連絡可能と銘打って作られたチームFLY製しかも二代目の作品だ当然といえば当然だ。だが後者は予想外すぎる。

「予想外すぎる、ただの高校生じゃないじゃない」
「失礼な奴だただちょっとはしゃぎ過ぎて国外退去命令が下った以外は普通の高校生だ。今の学園だってその経歴を認められて入る事を許されたんだぞ」
「ろくでもない経歴で手に入れた学園入学の権利なんてどぶに捨てろ」
「何を言っているたしかに俺は昭和生まれやお前よりはましな頭脳を持っているがそれだけだぞ。経歴はちょっとすごいかもしれないが誰もデモできる事を当たり前のようにやっただけに過ぎないしな」

 誰にでもできることを当たり前にやって何で国外退去命令そんなことになるのか私は教えて欲しいものがあるのだけど。
 だがこれで選択肢はもう無いわけだ、あれと戦って勝つ以外に私の選択肢は残されていない。どんな事があってもこれ以降わたしは国に何らかの手段で関わっていると思われ重要参考人となるわけだ、少なくとも私の顔は世界に知れ渡った。

 どの国も私に対してリアクションをおこさないわけがない。この男は前提条件を破壊するのがうますぎる。こればかりは私でも敵わないと断言できる自身があるのだ。

「わかったわよ、わかったわ、やるしかないんでしょう。私にやってほしい事は、私に何をさせたいの」
「いや特に何も」

 ぶん殴った。
 なんか久しぶりに人が宙に待って地面に接吻する姿なんて見たんだけど、よくあれであごの骨が壊れないものだと私は思う。それぐらいのつもりで殴ってやったのだが、せめてもの仕返しだ。何しろ口で勝てない頭脳で勝てない勝ってるのは腕力ぐらいならそれをフルに有効活用するだけだ。

「いや、いや、半分本気ですが冗談でもありますよ。しいて言うなら玩具があるから遊ぼうそれぐらいのもんだいまはな、何しろ無意味に敵が増えた所為でいろいろと段階をふまなくちゃいけなくなったわけだ。とりあえず、お前の姉を仲間にしようと思っているけど」
「え」

 どういう事よそれ、姉さんはチームFLYと一緒にいるのが普通でしょ。

「あのさ少しは頭を使え、どう考えたってあんな甘い女が殺人なんて出来るわけがないだろう。というよりあの犯行声明がちめいてきだろ、涙ながらにFSを兵器に変えないとか言う女じゃないだろう」
「そう言えば、あの人確かに甘い人だけど自分の作ったものに対してはすごい冷酷な人だったような気が」

 そうだ確かにそうだったと思う。EEと呼ばれる対光速用機能の力は通常の人間だと持って数秒なのだ、それ以上を越えると体に何らかの問題が起きてしまい辛うじて死亡と言う結果が残っていないというものに過ぎない。

「あっちゃーしっぱいかー」

 今でも覚えている姉のお気楽ボイス、それで私を話術で騙くら化してEEを起動させていった言葉が「よっし成功」だったし。基本自分の思考に陥ると半端じゃないほど冷酷な一面はあった。

「結論はでただろう。あと確実に言えることだが今チームFLYの面子は大爆笑して死にかけている」
「すっごい納得できるのは何でだろ」

 いや本当に。

「まずはこの世界最高の頭脳に仲間になってもらって、次は飛翔同盟、やらないといけない事は幾らでもあるぞ」

 いや本当にもうなんて言うか、断言した方がよさそう。私は今うまれて始めて楽しいという感情に締められた、笑うしかないし笑わずにはいられない。
 これで選択肢がなくなったんだから、ようやく選択肢が無くなった、いやもう本当に笑うしかかいじゃないこうなったら。

 つまり私も手段を選ばなくていいわけだ、楽しい、笑える、笑えすぎて困る。

「それはきっと面白いんでしょうね」
「違う違う面白くするんだよこの世界を、昨日よりも明日は絶対面白くなる。世界は絶対に未来の方が面白い、明日の為に今を楽しむしかない、じゃないと死ぬための人生に価値なんて与えてやれるわけが無いだろうが」
「それは違うと思うけど楽しむための人生に死ぬという価値を与えてあげるために生きるんじゃないの」

 一体どっちが本当なのかちょっと気になるけど、

「けどあんたの方が面白い気がする。昨日より今日が、今日より明日が、絶対面白いそっちの方がいいかもしれないわね。何しろ世界は常に面白く回ってるって事なんでしょ」
「だな、俺は人生に面白い以外の価値を求めてないからな。今日より明日は面白い未来はきっと笑えすぎて困るような世界になる」

 無想論者の戯言でしかないのにこいつがいうと本当に世界は面白くなりそうだから困る。

「しかしながら世界を面白くするためにはとてつもない代償が必要なんだ覚えておくといい。例えば仲間を手に入れるためにろくすっぽ思考もせずに力技を使った場合どうなるか分かるか」
「例えば何よ、いや聞きたくないけど間違い無く私の事よね」

 正解だと笑いながら彼は答えた、つまり渡しは今この世界で起きている最大事件の重要参考人。あのチームFLYなら偽造も考えられるが、意味もなく彼らはそんなことをしたりはしないことをこの国の治安維持機関は嫌と言うほど知っている。
 そしてこの国で誇る事の一つに治安がいいというのが挙げられるだろう、つまりだこの国の警察組織は優秀。私を見つけて捕まえる事なんて造作も無いってことになると、

「さぁ、逃げるぞ。ちなみにだが警察組織だけだと思うなよ、今からいろんな組織が大挙してお前を狙ってくるぞ、楽しくなってきたとは思わないか」
「私の未来がいろんな意味で面白おかしくはなってる気はするけどそれ以外は考えられないわよ」

 之がスリルと言う奴なんだろうか心の奥底から心臓が悲鳴を上げるほど高鳴ってるくせに面白いと思う。駄目だ、駄目だ、これは本当に癖になる面白さだ。世界が一分一秒の単位で面白くなっていくなんてこんな楽しい事がこの世にあるんだろうか。

「五郎、FSの機動お願い。力場設定なんて無視していいから、最速機動を心がけて、全武装完全解除EE機動開始。最大人数設定に変更も忘れないように、っと忘れてた十分以内に私の場所に来ること」
「へー、五郎っていや馬鹿兄の方が作ったEE搭載型のFSのAIじゃなかったか。確かあいつの発案で作られた四世代目FSだよな、武器全てにFSがつけられていてFS行動不能ようの装備で固められた1−8イエーガー専用機体だって聞いたが。その中でも非常識な装備に近距離専用の装備があるって聞いたがその管制AIとして五郎は作られたんだよな」

 おや詳しい、本人から聞いたんだろうか。音速で飛ぶ機体になんで近接装備があるのか私には理解できかねる、EEと言う環境下に入ればたとえ音速で突っ走っているFSがあったとしてもとまったように見える。私はそれを操る事ができるからこそこの機体の持ち主になっているわけだけど、このEE制御に関して私の右に出るものはこの世にいないという自負だって持っている。しかしながらそれは私だけだ1−8イェーガーの中でもそんなことの出来る人間はいないつまり無用の長物のわけだ。

 だがこの近接武器は意外と使い勝手が悪いFSの基本設計に組み込まれた対象物との接触を禁止するために力場干渉による停止と言うものがある。通常はAIによっての自動走行だからそう言うことは無いんだけど、どうしても人間操作が必要な場合があると接触事故が起きてしまう可能性が上がるので停止させるというものだ。ちなみにいままでFSで事故が起きていないのはこういった機能が在るためなんだけど。強制的に力場に干渉させて相手の行動を奪うというものなんだけど接触が解ければ又普通にFSが起動してしまうので何の意味も無いのだ。

「私は使ったこと無いからわからないけど、あんまり役に立たない機能よ」
「使い勝手はいいだろう、これは対ウィルス処理を行った機体が出来たときの代物だろう。FSの基本設計に組み込まれている所為で絶対にこれを喰らえば停止してしまうって代物だ。警察などならやりやすいだろう、何しろ取り押さえがやりやすいからな。だがEEが無ければこれも無用の長物だろうな、犬の喧嘩がなくなった今の飛行体型で殴り合いってのも無茶な話だ」
「まだ無いでしょう。対ウィルス処理って、大体そのための対FS専用の停止装備でしょうが」
「あほか、物理用停止装備は解除が恐ろしいほど面倒だろうが。相手側から解除させないと言う設定が必要な挙句、専門の人間でも一日は掛かるんだぞ。たかが速度違反で一日も拘束するわけには行かないだろう。だから重犯罪者用としてしか使われない常識だろうが」

 悪かったわね、そんな常識知りませんよ。
 なら使った見ようかな今度、けど所詮EE専用装備なのよねこれ。じゃないと音速化での近接戦闘なんで簡単に出来るもんじゃないし、本当にあのチームは普通の人間のことを考えてこんな装備を作っているのか疑問だ。

「けどこれじゃ私が使うための専用装備になってない?」
「あの馬鹿兄貴だからお前スペックに作ったんだろうな。本当であればEE専用の補助具が出来て初めてEEは装備として行われるが最低お前のスペックが無いと使用は出来ない。ならお前に装備を合わせるのが基準になるだろう、つまりお前がこのまま行けばFSの国際規格になる」
「それは嬉しくない内容で」

 いきなりビィーと言う警告音が響いた。機動交通が近くにいるという証拠だ、あぁもう面倒なってそうか私一応指名手配者みたいなもんだった。
 男の方はなぜか呆れた目で私を見ている。すごい失礼、普通に私に対して何か言いたそうな目をしていた。

「まてや何で一般車に警察の力場設定に対しての警告があるんだ」

 何よといいたかったが当たり前のことを言ってきた。私を調べたならそれぐらいのこと簡単に思い浮かぶと思うんだけど。

「それね五郎が勝手に入れてるのよ。私の職業運び屋だからどうしてもあの手のやからに関わる事が多くてね」
「つまりスピード違反ばかりして追い回されてるってことか。だからいちいち機動交通にAIがハッキングして専用車の設定力場番号を記録、なるほどむちゃくちゃだ、実はお前かなり馬鹿だろう? それなら設定番号がでている場所を衛星とあわせてみればいいだけの話だろうがそれで安全経路をAIが算出、兜クラスのAIの無駄遣いだよな。
 いや今回の場合は使えるか、何しろお前は狙われているんだ」

 そ……、そんな、そんな手があったなんて。今までそんなこと一切気付かなかった。だが私の思考を破るように警告音はひどくなっている仕方なく思考を打ち破り機体に入ることを促す。

「って言うかさっさと乗りなさい。すぐに捕まえられるわよ、最初はどこにいく。今姉さんがどこにいるか私は知らないわよ」
「俺の家、住所はもうとっくに五郎に伝えた」

 私の後ろから肯定の言葉が響く。
 なんだろうねこの人必然的に私を無視して盤面を動かしていますよ。普通の状態なら男に家に誘われるというときめきもあったかもしれないけど不安しかない。しかもそれが同年代と乙女的なものではないというのも悲しいものなんだけど。

「後致命的なほどに言い忘れていたが、俺の高所恐怖症はかなりのもんで恐怖で簡単に気絶するんどそこんとこ忘れるなよ」

 役立たずだこいつ。

「ってまて。つまり大十郎にいるあいつをメインで倒すのは私って事」
「そんなことは無いがな。ただの移動にそこまで脳みそを使いたくなんか無いんだよ、俺の頭脳の壊れ方はその辺の頭脳使いの比じゃないんだお前の姉だって俺の頭脳の破綻には叶いやしないぐらいにな」
「へー、私はそんなことどうでもいいけど」
「適応者には分かりはしない悩みだよなこれは、まぁいい行くぞ。いい加減本当に警察連中が邪魔になってくる」

 ようやく機体に乗り込んだ私達はすぐさま機動。軽い機動音のあと一瞬で上空2000メートル程度まで跳ね上がる。軽い衝撃とともに一瞬ですべての地平を下に見る世界にたどり着くちなみにだが高度は大気圏ぎりぎりまでしか上る事は許されない理由は酸素などの供給による生命的な理由だ。流石にFSには酸素生成などのシステムは組み込まれていない。AIが強制介入して強引にその辺りでFSを止めてしまう。

 そこで後ろを見たらマジに気絶した馬鹿男を発見。この航空革命時に高所恐怖症ただのマイナスにしかならないのにまぁ可哀想といえば可哀想なんだけど私をこんなむちゃくちゃに巻き込んだ恨みは忘れない。

 多少乱暴目に私はFSを動かした。先ほど言われた対警察用の安全路を見出しながら最短路を駆け巡る。

***
 
 一年前ある大事件が起きた、それは中心学区と合衆国のテンプル騎士団にのみその詳細を残す事件である。
 デスバレー、そこで起きた不可思議な崩壊現象。
 
 偽言真人が原因で起きたFS暴走事件。初のFS自体が起こした大災害である。
 だがこれは日本政府と合衆国政府の間により詳細を全て中心学区とテンプル騎士団に預けられた。

 彼はこの事件により、国外退去命令を下される。これはどちらかといえば彼の身柄を守るためだった、彼はFSを解放してしまった。その詳細を知られるわけには行かなかった両政府による、優しさだろう。
 かつてのスパイ天国日本ではないのだ今の日本は、そこなら彼の身柄を守るぐらいのことは容易いはずそう言う判断だ。

 チームFLYに継ぐ最大の護衛対象として彼は見張られていた。
 
 そよ風と呼ばれた彼専用の監視用衛星は、常に彼を追い回している。
 物理法則を逆手に取った反則のようなシステム FS 、その封印を解除するもう一つの手段は彼の手にある。
 世界にとってそれがどれだけ大事か、判らない人間はいないだろう。

「学長、FLYと同時に」
「もう一人の切欠が、動き出したそうですね」
「どうするつもりですか!! 彼は私達を馬鹿にしているとしか思えない、あれだけ助けてあげたというのになぜ、峰ヶ島双山を!!」
「落ち着きなさい、燈台守。彼の性質は貴方も知っているでしょう、何一つ彼はあの事件の詳細を語っていない。殴ったら暴走したなんてそんなことを言っている子です。今更何をしでかすか想像がつかないことぐらい先刻承知のはずでしょう。寧ろこの一年が大人しすぎたといってもいいんですよ彼の経歴を考えれば」

 いや本当になんで暴れなかったのか疑問ね。自分の言葉を反復しながら学長 古都葉譚砂 は、彼の経歴を見て呆れながらにため息を吐く。

「合衆国の実在する都市伝説、大げさな小事件と呼ばれるなぞの愉快犯のことですか」
「NO−NAME、主題の無い目的の無い犯罪者。それよりこのチームのメンバーが異常なんです、チームFLY、TR(テンプル騎士団)、RK(円卓の騎士団)、RR(円卓の王)、甲一種クラスの障害者ばかりです」
「性格破綻者だけがそろった、そんな軍勢。その中にありながらあれはなぜか、リーダーであった。彼にそれだけの頭脳があるとは思えない、傀儡かと思えば作戦の提案は全てリーダであったといわれている。犯人が分かりながらそれでも証拠が見つからずに、捕まえる事すらできなかった。神様の贈りクリスマス事件とも密接にか川手板と聞いたことがありますが、リーダーが彼と言うのがガセネタだったというだけの事でしょう」

 首を振るう学長、それに反応して目を見開くようにして彼女は驚いた。

「証拠があるんですよ現メンバーからの。ほんとうであれば、貴方が今のチームFLYにいた。いえ、鉋響枷、船字春風ふねじはるかぜ鉞創まさかりはじめ突躑躅つつかせつつじ、候補第一位達全てがなぜか今のメンバーになっていない。正直な話しで言えば今のメンバーは、初代さえ超えかねない程メンバー、いまとなっては飛翔同盟統一総帥となった元中心学区学長 偽言昌ころごとまさしの決定によって対象にさえ入らなかったメンバーが入っていた。結果が世界に現存する最高学派であるチームFLYの完成だ」

 そもそも中止学区とは、2030年ごろから現れた。高度頭脳障害(サヴァン症候群)と呼ばれる、ある部門限定の天才が生まれてしまう障害の管理が主な仕事である。
 国家外の知識を出さないための政治的判断から設立されている。実際、20世紀と比べれば知的レベルから今の人間は格段の力を持つようになった、嘗てアインシュタインが今の人間の知識の普通レベルにまで跳ね上がってしまったのだ。
 その上で、この障害者はその上を行く。専門部門限定とはいえ、その分類を分けるだけでも甲一種から三種、乙一種から十二種、丙種と、なっている。甲種は国家レベル保護者、峰ヶ島陽子であげるなら彼女の生涯は吸収と発展、川守大海であれば構築、学問ではなく頭脳特性であるここまで来ると、これが甲一種その危険度、またはその能力の実用度に分けて一種から三種となっている。乙種は学問別、この分野は幅広いのだが一応十二としているだけである。ある程度それに分類している程度の事である。丙種は、甲種ほどの危険度、実用度がない、個人的価値といった具合にかなり低く見られている。ここには、運動関係の障害者も入っている。

 その中にあってチームFLYの分類は一応甲一種となっているが、甲一種の中にあってもなお選ばれた八人それを選ぶのは中心学区学長である。だが当時甲一種でもなかった人間を選んだ偽言昌は、十二学派によって学長を排斥される。元も大里河木と友好関係にあった彼は、飛翔同盟との関係を調べられた。それがまさか飛翔同盟結成メンバーの一人である事が確定した挙句彼の立場は統一総帥であった。
 一時的にではあるがとんでもないスキャンダルで2054年はかなり中心学区は、あわただしい一年だった。しかし飛翔同盟の総帥が選んだ人間がチームFLYであるというのも問題で当時は反対過半数であったにもかかわらず、彼らの脳障害を詳しく調べた結果が甲一種どころの騒ぎではない代物であったという事がわかる。

 そしてそれから後の2055年の狂乱大宣言であった。

 厄祭一家偽言は、こうやって名を知られることになった。彼はこの親にしてこの子ありと言う存在であるが、彼はこの年親に彼捨てられる。
 だが親の罪はこの罪と言う考え方は、この国にも当然ありそれによる被害を受けることを懸念した中心学区は、彼を合衆国に逃がす事を決定。燈台守が起こった理由はここにある。

「それに何の関係がありますか!!」

 確かに関係ない、関係ない筈なのだ。

「川守大海の確定ですよ。詐欺師が、確定しました。俺たちを選んだのは、親じゃない子供の方だ。ワシはそれを確定できるだけの材料と証拠をNO−NAMEで見てきたと、だからこそ燈台守は、ワシに劣ることは決定された。何より忘れてはいけません、貴方は完膚なきまでに彼に敗北した、詐術師燈台守は確実に彼に敗北したその貴方が証明ですよ。
 鬼才鉋響枷は、彼に知略戦で敗北を重ねた。人の感情と言う完全無欠の欠点にして盲点を疲れた挙句、貴方だってその一人でしょう大げさな小作戦、いえNO−NAMEに負けたのは貴方も同じ」

 逆鱗に触れながら学長の目は真剣なままだ。一年間停止していた反動がどれほどのものか想像しがたい、目の前の詐術師の程度の怒りなんてたいしたことじゃないのは確定。彼が何を起こすか分からない、敵対をするチームFLYよりも学長はそちら側のほうが恐ろしい、不確定とはそれだけで恐怖に連なる連名たる血脈がある。

「事実です、たしかに私はNO−NAMEに敗北しました。私独壇場であるだましの分野で、ですがそれでもあれで負けたと思いたくない!!」
「どういう問題ですか、完全な敗北でしょう。感情を巧みに操られた挙句、甲一種のデーターを奪われた。結果だけでも敗北、それを見越すことも出来なかった貴方の完璧な敗北、負けの負け完膚なきまでの敗北でしょう。まさか貴方がだます事が得意でもだまされる事が得意じゃないなんて思いもしなかったですがね」

 彼女は自然界さえ認識でだますような存在である。その結果、覆水盆に帰らずという諺さえ無意味にしてしまったほどだ。
 その彼女が敗北したのだ、しかも子供のような手法で。物量による思考の分散による障害、さらにはそこにあるデータが組み込まれていただけだ、全てが奪うだけのデータならそれほど彼女は苦もなく駆除して言っただろう。そこに普通では考えられない、と言うより普通の人間なら奪うだけのためにそのような事はしない手法を使った。
 強制的に無音状態を解除させた後、侮辱の言葉の羅列。

 しかも集中力を簒奪するような的確な音量と内容、人間である欠点がそのまま浮き彫りとなり。全200人の甲一種障害者のデータが奪われ、その次の日に返された。
 これがさらに彼女のプライドを傷つける。

 その返された言葉には一言だけ犯罪者の言葉が載っていた。

『このデータは流失もコピーもしていません、ただ奪いたかっただけですのでお返しをいたします。もう少し冷静にお仕事をしたほうがいいと思われますよ詐術師さん』

 負けたと思いたくはないだろう、だがどう言おうと彼女の負けだった。

「ですが!!」
「言い訳は必要ないです、貴方の敗北はどう見ても事実。下らないい訳をしている暇が会ったら彼をどうにかしてみなさい。言い訳よりも証明が先でしょう、貴方は既に騙しの分野で二人に負けているのです、それが出来てから勝利を口にしなさい不愉快極まりない!!」

 黙るしかなかった、彼女の怒りは消えてなどいないが、自分にはそれを証明する手段が無いことは自分自身が理解している。
 学長は、仮にも組織の長だ。人生経験で叶わず……、地位で叶わない、最も人生経験といっても学長も脳障害者の一人であり二十八歳である。挙句そのことを口に出したらどんな目にあうかと思うと身震いするが、今は怒りの方が強い。
 体を震わせるようにしながら顔を真っ赤にする。

「分かったらさっさと行けゴキブリ、私もいつまでも甘い顔ををしてあげるわけには行かないんですよ。蛆蝿のように蠢く昭和生まれのようにならないようにしてください。貴方レベルの甲一種障害者を捨てたくはないんですよ」
「了解しました、あの男を止めてきます。所詮、頭脳レベルで言うなら昭和生まれ程度どうにでもできます」

 空気さえ歪むような怒りを体に押し込め学長の部屋を去る。しまった扉を確認する学長は、いまだにその表情を緩める事はない、彼女にだって怒りと言う感情はある。
 何度も命を救ってやった、何度もだ、合衆国は薬を使った自供も考えていたようだが、それさえ救ってやった。恩を返す事を知らない糞餓鬼をだ、あの父親にさえ手を焼かされて。

「さてここからどうなるんでしょうか。あれが動くのは確定でした、あれが動くのも、あれもこれも動くのは確定だったのにその対処が出来ない。最悪の札ばかりです、仮にも保護してやってるんですから命ぐらいかけて死んでしまえ!!」

 それは年相応か、まだ人間として未熟な部分が抉り出される。
 燃え盛った怒りを発散させるように彼女は、机にあるものすべてをぶちまける。

「ちっ、まだまだ私も感情が抑制できませんか。くそ、一回怒る体力があれば何か出来たというのに!!」

 怒りと言う感情は簡単に抑制できるものではないが、彼女はその怒りに事態嫌悪を示した。

「理性使いの所為で、私の理性が弾かれるかどうしたものか。折角飛翔同盟の長も死んだというのに、これからだ私が動くための条件は、その中にどうしてもFSの解除は必須、あいつら異常が私のセイジョウに叶うわけもないはず。ではやりましょうか」

***

 FSの着陸を感じた恐怖による心臓の鼓動が安定値に変わった。
 呼吸が嫌でも安定するのが分かる、眼を覚ました先には見るものはいつもからないはずの第二東京タワーなのだが、今日はいつもと違いどてっ腹に大穴が開いている。それだけで嫌でも気分が高揚するのが分かった。
 今までの事が、夢でなかったという事実が目の前に浮んでいる。
 父親は死んだ、母親は死んだ、飛翔同盟は崩壊した。たぶんチームFLYはそんなことは気付いていないだろう、宣戦布告とFSの恐怖を振りまくための示威行為だ。偶然が一つの組織の長を殺したなんて誰もまだ気付いていない。
 強いて言うなら、中心学区の学長ぐらいか。まぁ跳び跳ねるぐらいに喜んでは、いるだろう。
 何しろ、眼の上のたんこぶ、脳害甲一種指定でありながら家の親父には、あいつは徹底的に手を焼かれている。いや多分怒り狂っているところか、なにしろあれだけ手をかけた俺が、平然と裏切ったんだ。俺としては敵が出来てくれて感謝感激、手を叩いて感謝をするだけだ。

「で、いい加減に起きなさいよ」

 ガンと機体をぶっ叩く音に思考が一瞬ぶれる。いきなりの思考の断線に、一瞬軽い痛みが頭に走った。
 そこでようやく、相棒に気付く。自分の本性を自覚したときから思っていたが、流石同類常識外の化けもんだよ。自分を自分の異常で偽るなんて芸当やらかして、それから開放された瞬間から、――――まぁつくづく俺ら同類は度し難い。

「なに笑ってんの、嬉しそうに笑うのはいいけどさ。今はさっさと作戦会議でしょう?」
「ん、いや、まぁ、正直特にない。作戦会議なんてものは必要ないんだ最初っから、何しろあっちは天才俺たちの思考する手段なんてものは、どうせきっちり読み解かれる。分かるだろう、侵食毒やつの思考の毒は人の思考を演算し読みきって始めて駆動する。
 あいつは思考の悪魔だ、あいつの脳害は元々読み取りにある。対人用行動なら詐欺師とも同格だ、いや人間の思考を破産させるだけなら侵食毒の方が上だ」

 呆れたような表情を見せるが、俺の言葉に多少納得するようなそぶりを見せる。当然か、何しろあっちはチームFLYの面子を知っている、ましてや姉が最強の頭脳使い峰ヶ島陽子が姉だ、俺よりあいつらに詳しい事だろう。

「つまり行き当たりばったりって事」
「当然、だがそれにも準備は必要だ。作戦は作戦である必要は無い、読まれると確信しているならあえて読ませればいい、そこから毒ではなく解毒の方法を思考する。侵食毒致命的な弱点だ、あいつは読み間ではなく読み取ることに優れている、あいつの毒は凶暴すぎるが所詮使い古された毒だ。勝てないわけがないだろう?」
「それだけじゃ読み取られるでしょう。ただの読み取りだけで、チームFLYには入れるほど簡単なものじゃないでしょう。水深滲入はその全てを凌駕したからあそこに入るのよ」

 然り、当然の事だ。だから読ませる全てを可能性の限り全ての事を、寧ろあいつを潰すならそこにしかない。

「全てを潰すには策略なんか入らない、俺達がするのは常識で考えてやる訳のないことだ。あいつだけじゃない、誰もが読み取れながら誰もがありえないと否定する形、それを思考していく、思考の穴を無理矢理広げる。といってもまぁ基本は、一切思考しないその場で一番面白そうなことをやる」
「あー、あー、つまりはやりたい方題しつくすだけで、特に何も考えていないってこどですか」
「そりゃそうだろう、勝敗なんか俺は最初から気にしてない。俺にとっての勝利はこの盤面でどれだけ楽しめるかだ」

 本当に想像するだけで笑えて動けなくなる。これだけやりたい放題で切る機会は、生涯をかけてここ位だろう。
 全力を出せる、これはなかなか起こることじゃないからなぁ。

「楽しませてよ本当に、あんたはそれだけのために私を」「違う違う」

 俺は途中でさえぎる、ひどい勘違いだ。楽しませるつもりなんて一切ない、同類はこういう時察しが悪くて困る。
 複雑なままの表情に、本当に俺のほうが呆れてくる。

「いいか何度も言うが好き勝手するんだよ俺たちは、そこで面白くするもしないも全部自分しだいだろうが」

 そこで得心言ったように、同類は頷いた。
 それでQED(証明終了)、後は動くために作業と行くしかないんだが。俺の部屋にいっての準備なんてものは実は、たいした事をするわけじゃない。もしものために必要なものと服とかそう言ったものだ。
 
「でだがな、お前の姉を引き入れる算段の話だ。実は恐ろしいほど簡単だ、お前は姉の弱点ないし他人に知られると困る恥部みたいなものを知っているだろう。最強の頭脳使いとはいえ所詮は人間、全世界にばれると困る内容があるはずだ」
「って、あんたそんな恐ろしいこと考えてるの」
「なぁ、楽しくなってくるだろう。いくらチームFLYでも全能回線は遮断できない、それになここから峰ヶ島陽子の恥部をぶちまけるためなんて知ったらあいつは面白いから鬼のように支援をしてくれるさ」
「それ最高、幾らでもあるわよ。姉の自堕落写真とか、一生懸命研究をする余り栄養失調で一ヶ月入院したとか、色々あるわよ」
「いや最も面白いネタがある、NO-bookって言うメンバーが痛んだがそいつから三年ぐらい前に入手した情報だがこれは面白いぞ」

 俺が本気で笑ったのは久しぶりだったよ。
 同類はその情報を渡した瞬間、顔を真っ青に染めて笑いを必死に耐えていた。まぁ納得だ、この情報を使えば間違い無く弩級の大物が釣れる事だろう、最強の頭脳使いにはご愁傷様、残念賞。別に俺は悪くありません。

「ちょ、ちょっと、何でそんなにひどい笑い方をしてんのよ」
「そりゃお互い様だ、俺たちは死ぬまでこんなもんさ。所詮どこまで言っても失敗作同士、完成品である川守元央のようにセイジョウではいられやしない、だが失敗作は、失敗作なりにするべきことが山のようにある。さて準備を開始し、世界と人で遊びつくすぞ」

 それしかありはしない、何しろ完全完璧なまでに失敗作である俺が、適応品なんて完成品のまがい物とできる事なんてそれ位にしかないのだ。
 チームFLYで遊び、中心学区を嘲り、1−8イエーガーを手玉に取り、この世界に存在するありとあらゆる人間を利用して、世界最高の遊びを始める。まだ先にある楽しい、楽しい人生、俺が手にした八十年程度の有限極まりない時間。
 他人にやるか、人の不幸は蜜の味、人の不幸は蜜の味だ。俺の不幸はゴミの味、なら当然俺は蜜を選ぶ。

 きっと俺は、誰もがドン引きするような笑みを作っている事だろう。だが同類はそれを受け取り同じような笑みを作る、最低限の服装と遊び方は完成した。

 世界で遊ぼう、人で笑おう、この世全ては面白い事ばかりでできているのだから。

***

 はっ、私はこれと同類かと思うと軽く悪寒が走る。
 なにしろ彼は、平然と自分の幸運のためだけに、他人を蔑にする覚悟があるんだから、それは仲間である私も当然のように含まれている。病気としか言いようがない快楽主義、深淵さえ見せないその地獄のような眼。
 だけど理解はしている、なにしろ私はあれと同じ眼をしているんだから。

 彼と会ってから一つだけ理解したことがある、これが理性だということを、そこに肉親の情は関係ない。血縁や集団と言った概念は、理性の前では泡沫だ。
 そこには感情はなし、情念なんて、まして感覚なんてあるはずがない、そこにあるのは個人だ。純正すぎるほどの個人概念、鳥肌が立つぐらいに他人に対して価値を求めない。
 世界に一人だけ存在していようが、孤独死することすらあり得ないようなそんな精神。彼はその部分が強すぎるのだ、いっそないと言ってしまったほうがすがすがしいほどに彼は、本能がないのだ。彼が起き上がるときに、感じたあの確認作業のような動き、どこの世界に本能以外で体を動かす人間がいるのだろう?
 生きていなかったと思えるほどに、その異常は目に見えて明らかだった。気絶するほどに、空がダメなやつが、空に対抗するにたたえるしかない、もし彼がそれを可能とするなら、きっと純正の理性でその恐怖をねじ伏せることになる。
 だがそれでも、普通に考えて疑問が浮かぶ。理性の根源のようなやつが、この作戦の欠陥に気付かないわけがない。
 
「敵はラプラスの悪魔とまではいかなくても強敵、そんな行き当たりばったりでどうにかなるの。姉さんは、面白いとは思うけどあの人ならきっちりと、そんな情報を流す前に止めると思うんだけど」
「だろうな、だがな。あの最強の頭脳使いが、何か行動を起こす。ましてやあんな秘密だ、知っている人間を根本から破壊するまで止まるはずがない。違うか?」
「いや……、まぁ、なんだ、ねぇ」

 確かに、私だったら殺している。それこそ肉の脳の細胞一片のこさず抹消してやりたいと思うだろう。

「ならば、おれたちを調べ始める」
「でしょうね」
「まぁ、あのあまちゃんだ殺すとまではいかなくても何かしらの方法で俺たちを見つけて、お前や俺の経歴をもってその情報を封殺する。特に俺なんかは問題だ、何しろ中心学区学長直々に情報の閲覧権限を極秘事項にまで挙げられている。ばれたら当然のように俺は、数の圧殺を受けること間違いなしだ」

 いやだからさ、あんたいったい何をやってきたのよ。
 絶対に何かおかしいにもほどがあるでしょう。悪戯で国外退去命令の挙句、中心学区のトップシークレットってそりゃ異常すぎ。まぁ、これだけの化け物だなにかあるのは間違いないんでしょうけど。

「私ねぇ、おねしょの経歴とか?」

 ん……? そういえば!!

「やばい、この前全裸の写真を撮られた」
「そりゃ残念なことで、かわいそうに、全国どころが全世界に公開か、いやいやご愁傷さまだ」

 同情なんてひとつもしていないくせに酷い奴。まぁ、別に恥ずかしいわけじゃないし公開されても特に問題ない。
 自慢じゃないが、私は体には自信がある。

「って、そういうわけじゃない」

 ぶんぶんと首を振ってい否定。
 封殺してくる恐れがあるのなら、絶対に何かしらのアクションがあるってことだ。ならそれをどうやって公開するように算段を付けるか、チームFLYにまた頼むというがそれは間違いなく愚の骨頂。
 それじゃあ面白さが半減する、映像配信局でも使う? いや、それは最後の手段だ。

「さて、お前は反対のようだチームFLYを使うことを、じゃあ何を使う? 今文明は破たんしている、映像配信局なんて使えやしないぞ」
「まともに使えるのはチームFLYの技術ぐらいってことでしょう」
「当然だろう、なら一つだけお前が持っている手段があるぞ。世界最強のチームが作り上げたFLYの詐欺師の最高傑作があるだろう? それしかもう手段はない、たぶんお前が持っている手段の中でEEなんて比べ物にならないほど最上位に位置する矛だ」

 それしかないわけね、五郎以外に。
 一応五郎は偽装系のAIなんだけどそれをわかっていながらむちゃを言いなさる。だが一応思い出したこともある、仮にも五郎は兜クラスのAIだ、それもあの異常者の。

「五郎、聞いてたならわ変わるわよね」
―あたり前でしょう主。その程度のことできなくて、なにがチームFLY製ですか。甘く見てると私が主の秘密を暴露しますよ。
「ちょっとなんで私を脅すのよ。私はあんたのマスターでしょうが」
―わたしをカマドウマ呼ばわりする人間や、能力を低く見る人間には容赦するなと言うのが家系でして

 いやどこにあんたの家系があるのか教えてほしい。

「すごいな、AIに脅されるマスターなんて聞いたこともないぞ」

 失礼な。というか本気で尊敬のまなざしで私を見るな。

「で、できるならさっさと始めるぞ。俺はまだ遊び始めちゃいないんだ」
「本気で、本当に、本当に最悪ね。あんたがやろうとしている事は、絶対この世界の人間に拒絶される方法よ。感情のままにこの事件を掻き乱して破壊するのだから」
「当然だろう」

 本当に楽しそうに笑う、化け物のように歪んだその表情はすでに武器だ。

「世界で遊ぶんだぞ、人で笑うんだ、この世は絶対に面白くないとおれは許せない」
「万能にかなうつもりなの、あそこにいる七人はまさに理論を作り上げる人間。たかが人間でかなうようなものじゃない、私はそれを否定はしないけどね」
「万能? それこそ何の意味がある、人間の脳は所詮限界のある器だ。その中で万能を極めたところで高が知れている。なら本当に恐ろしいのは一つを極めた化け物だ、円に何の力がある、ただひたすらに尖鋭を極めた一振りに劣るはずがないだろう」

 ははは、流石私をここまで堕とした人間の言葉だ。天才なんてその程度か彼にとっては、万能は最強ではないか。

「まぁ、いいや五郎始めて。私もそろそろ始めたいの、始まりは大胆に、盛大に、花火を上げるようにお願いね」
「お前も大概だよ。まぁ、楽しませて笑わせてくれよ」
―了解、盛大に打ちあげましょう。

 さて、あいつの言葉をまねましょうか、世界で遊べ、人で笑え、この世すべては面白いんだから。

***

 出雲宮、十二番外区。
 俗に東部エリアと呼ばれる出雲ではなく西部に当たる石見や隠岐といった部分に該当する場所である。彼女がいるのはそんな部分の医光寺といってわかるだろうか? 益田市染羽町、雪舟で有名な場所である。七尾城の大手門を移築したとされる医光寺総門、まぁそんなことはどうでもいいが、彼女がいるのは外区の十二番であるここだ。
 基本的に、首都変更の際三十の外区と本区に分かれている。大社は元県庁所在地である旧松江市やらを巻き込んで作られた居住等である二井田タワーを本区とよぶ。

 一応ここは峰ヶ島陽子は、ここにいる。チームFLYの特殊研究施設のひとつであり彼女の最高傑作になる、BT-EDGE 燕と名づけられた空を飛ぶための翼だ。俗に創造者と呼ばれるラボであるそこには、多くの非常識がくみ上げられてきた。

「ふぅ」

 ひとつのため息、それか今の彼女の現象を深く人に知らせるものだっただろう。
 この研究施設の周りには、彼女を捉えようとする人間の山だ。いや、周りは彼女がここにいるなんて知りもしないだろう、だがそれでもここがチームFLYの銃の研究施設農地で最も重要であることを考えたら、その施設を確保したいのは当然の摂理だ。
 だがその施設の堅牢さは、要塞の比ではない。大に東京タワーでさえ、核兵器クラスの破壊力を使用せずには破壊できない、ここはそれをさらに異常化したような代物である。ここには国家機密どころか、国際機密といってもいいレベルの技術が当たり前のように存在する。

 脳害指定甲一種、その中でも最上位に位置する。脳害はもともと日本人にしか発症しない特殊な病気である、各国のチームはそもそも日本人の甲一種を派遣してくみ上げたようなものだ。その中の最強と呼ばれる存在がチームFLYである、そこの長である陽子やチームFLYの面子は、存在自体が国家保護の対象になっている。

 その前提が、今回のテロ事件で揺らいだとはいえいまだその技術のよる力は不動。

 文明を遡るように今くみ上げられてきた技術は停止し不能になったが、それでも変わらないものがある。チームFLY製の技術、FS、全能回線、ほかにも存在する以上の技術たち。
 彼らが積み上げながら、彼らですら停止させることを許されない技術たち、その技術の重要度から彼らでさえ停止を危ぶんでしまうのである。例を挙げるとするなら原子力発電の制御など、簡単に開放することが許されない技術群。全能回線は単純に彼らでも簡単に解除できる技術ではないからだ、いやだからこそ彼女は今ここでため息を吐いているのだろう。

 いっそ捕まえてくれたらどれほど楽か、この堅牢たる城砦の前では、進入どころか退出すら許されない。
 またため息がひとつ、目の前にある脱出手段は彼女の力では使用ができない。

「双山でもいれば話は変わったのだろうが仕方あるまい」

 尊大な態度ではあるが、そこにはあせりの表情が強い。何しろここで捕まれば彼女は、間違いなく中心学区に飼い殺しにされる。
 今まで自分の繰り返してきた成果はすべて中心学区に、奪われるのだ。彼女はもう一度脱出手段に目を向ける、そこには通常のFSのデザインではない、尖った様な先端をしたかつての航空機を模した機体だ。

 殺虫剤の切れた機体である。光速に対抗する速度、いや力場という規制をはずすことを可能にした。世界最初の機体であろうツバメの名を持つ機体だ。しかしながら彼女の能力では、その機体を操ることも動かすことも難しいだろう。
 まだEEは、完成段階にある代物ではない。俳人になる可能性を考えてまでの脱出はまだ早い。

「いつも私はそうだな、自分に使えないものばかりを作ってしまう」

 いつもの様に、癖になったため息をひとつ。
 暇つぶしに研究所の周りを確認すると、人が群れを成している。だが少しばかり外の空気が、今までと少し違う同様が人の波みてとれた。
 当然彼女は、疑問に首をかしげる。万能の天才とはいえ人を読み取れるほど人間をやめてもいないのだろう。
 だが、当たり前のようにその疑問は、氷解した。

「はぁ?」

 全能回線を通じて、ひとつの情報が送られようとしていた。
 彼女はその情報を見た瞬間愕然としただろう、それは彼女が隠そうとしていた事実。

『ハロー』

 そこにいたのは世界で遊び、人で笑う、理性使い。親愛にして心外なる、盲点の男。

『さて、俺の名前はまぁ内緒だが、全世界の人々にひとつの情報をプレゼントしよう。峰ヶ島陽子における中心学区の碑文だ』
「な、なんだと」
『コード 大橋三年、本人や中心学区学長なら知っている事件があるだろう』

 それは彼女においての唯一の禁断。愕然たる道化師は、当たり前のように話をつむぐ。打ち上げる花火は盛大でなくてはならない、極限の銀冠だ。菊の花だけを咲かせるなんて生ぬるい、そこら一面に柳を咲かせ、雷を降らせて見ようか、そこに蝶が富んでりゃ風情のひとつでもあるだろう。季節を無視してヒマワリを、見栄えを無視して牡丹なんてのもありだろう。
 空には土星でも浮かべてタンポポも周りには蜂を、椰子の木なんかはやしても面白そうだ。浮き模様を加えて尺球で終了。

 盛大に揚げられる花火に彼女は、動けなかったがそれを口にさせるわけにはいかない。自分のしでかし、他人に絶対知られてはならないこと、居場所がばれようが門仕方ない。彼の口から語られる問題は、今までの比を軽く超えていたのだ。
 誰にも知られてはいけない事実、自然と体が動いていた。言論弾圧、全能回線は非常識なシステムによりありとあらゆる通信妨害を受けない。彼女はあせっていた、彼の持つ情報はそれだけの価値があるということである。

「岩燕、妨害しろその間に発信源と、抉り出す。入力装置を出せ、三十秒以内につぶす」
『さて、その前に峰ヶ島いくらお前が最強でも今から俺が一言言うまでの時間で潰せる訳が無いぞ。お前の専用AIであったとしても、詐欺師の技術を抜けるか?』

 結論はきわめて簡単だ、不可能。彼女であったとしてもそれは、出来る訳が無い。
 時間制限が無いのなら可能であろう、だが今はその時間が無いのだ。

『というわけで連絡を待つ。俺はあんたに用事があるんでね、こっちのほうが手っ取り早い、情報をばらされたくなければさっさとご連絡を、あぁそれと学長、申し訳ありません虚言の男の子供は所詮、ただの理性使いでしかなかったもんで』
−主ぃ〜、さっさとやりますよ。あれはばれてはいけない代物であるんですぞ

 久しぶりに彼女の胸中は穏やかではなくなっていた。知られた、あれを知られた、全面情報遮断を行ってなお知られた。
 碑文、よりにもよってそれを引っ張り出された。

「あ、あぁ、ああ、連結を実行する。繋げ、あれを遮断しなければ」
『さて、皆さん。連絡がありましたよー、峰ヶ島さんですでは特別ゲスト妹さんを紹介しながらといきますか』
『ちょっ、ちょっと、あんたなに私を勝手に紹介してんのよ』
「えぇ!!」

 そりゃそうだろう、自分の妹はチームFLYと一緒にいる筈、もしくはつかまっているかという妹がいるのはよりにもよって彼女の知られたくない情報を知っている人間の隣。いくら彼女でも限界がある、

『実況生中継、峰ヶ島と語る。ちなみに特別ゲストは峰ヶ島 双山ふたごやま
『まて、こら、おいてめぇ、いますげぇ間違え言いやがったろ』
『ちょ、っと、やめ、マウント、ぎ、ぎ、ギ、ぶ』

 通信を通して、いやに生々しい打撲音が聞こえる。ちなみに世界に向けて全放送中。

『死ぬ所でした。皆さんお待ちいただきありがとうございます、本題となりますが、さすがに人との電話は聞くものではないので、聞きたい人はマナー違反。今回のメインパーソナリティーであるわが名は魔王、世界を混沌に陥れるスーパーヒーローだー』

 再度、鈍い音が響いた。
 多少脱力もするが、つながった。その声は、先ほどまで配信されていた声と変わらない。だがそこには、先ほどまでと違い彼女が拒絶する何かが含まれている。

『で、始めまして魔王ことNO−TITLE。人類最強の頭脳使いにあえて感謝の極み』

 あくまで名前を使わない男と天才、そして男の選んだ女ようやく少しずつ盤面は動き出した。

***

 人間に万能という事場ほどに合わない言葉は無い。不完全であればあるほどその不完全さが、人間を引き立てるのだろうと俺は思っている。
 そんな人間の一つの極点に、君臨する事を許された世界最強の頭脳使い 峰ヶ島陽子 、初てちゃんと顔を合わせたが、さすが最強の頭脳使いだ。俺の感覚が一瞬ぶれるぐらいには人間じゃない。

「そんな事はどうでもいい、君があの事実を知っているという事は理解した。何故政府高官や中心学区教授でもない君がそのような情報を得ることが出来る」
「人から聞いただけだ、だがそんな事はどうでもいいだろう。あんたの妹には、ばらしておいたよ。何しろ俺の相棒だ、名前以外は隠したくないしな」

 あぁさすがだ、本当に流石最強だ、その感じる怒りも超一流。相手を知略で叩き潰す事しか考えていない、だと言うのに恐怖も感じない、擬態し、空気を支配し、騎馬民族の如き侵攻を髣髴させる。だが所詮何処までいっても甘い女ではこの体たらく、最強だからこそ手加減しか考えられないとは存外哀れなものだ。
 ようやく気付いたのだろう、自分の妹の変容に、あの事件を知りながら喜色に顔を染めるその姿。あれこそが同類の相応しき姿だと思う、しかし最強はそれを認めたくないのか、丸く開いた目を何度も閉じて現実を遮断する。

「何をしているか分からないが峰ヶ島姉、早速こちらとの話をしよう、拒否権なんかくれてやる事は無いから気にするな」
「それの何処に安息があるというのだい?」
「必要ないだろうが、拒否権がなければ一々その無駄に優れた脳を活用することさえしないで済む。というかお前、俺がそんなことを許す類いの人間に見えるか?」
「あんたさー、一応肉親の前で平然とそれは無いでしょう」

 同じ様な視線なのになんでこんなに温度差が違うのだろう、呆れと、怒りの過剰暴走に多少表情が崩れそうだが修正する。

「ふた、なぜ君はこんなアホの仲間になっている、というかなんで私の事件を聞いてそんなに暢気なんだ!!」
「別に、あの程度の事件で、今更私が気にするわけ無いじゃない姉さん。何を勘違いしているのか分からないけど、姉さんならやりかねない程度の事でしかなかったわよ」

 その妹の発言に、流石の最強も開いた口がふさがらないようだった。
 だがそんな姉の態度が同類は不服だったのだろう、目を鋭くさせて最強を覗く。

「ねぇ、あの事件が私にしてきた仕打ちよりも酷いって言うの? 人体実験や、私をサイボーグ化させようとしたことよりも」

 にらまれた最強は、画面のからでもへこんでいるが、あの事件の本質に比べれば軽いかもしれないが、

「流石混沌生成者の異名を持つ最強だ。確かにあの、空中舞踏事件はあんたがやったどの暴走よりも酷いが、所詮は大回廊異変に劣るだろう?」
「君はあの事件の本質的な地獄を知らなさ過ぎる。あれは最悪だ、あれは劣悪だ、あれはそう言う代物だよ」

 正しい限りの事だろう、俺はあの事件の被害者やそれによる被害総数だけを上げ連ねているだけに過ぎない。あの事件は根本的に今回の事件に関わってきているはずの事件だ、空中舞踏事件それは現存するFS事件の中で最も不可解と呼ばれたものである。物質的なダメージや死者や怪我人さえ出なかった事件ではあるが、中心学区の教授クラスの人間が辞職。
 二代目チームFLYのメンバーの一人大根山次郎と、飛翔同盟突撃隊長であった日根島矢吾郎が捕まるなどふざけた事件だった。
 原因が分からず、だがその当時の世界で最も空を飛ぶものを憎む組織の現場指揮官と、人類最強の頭脳使いの一人、頭脳使いの十二学区の教授全てがその当時の前線から居なくなったのである。ただしその事件の中心となった場所、初代メンバー制作の空中回廊、唯一といってもいいFSの別使用の実験モデルとして製作された未完成品だ。旧松江市の高くに、設備された初代最後の作品であり多分これが人類が作り上げたオーパーツの一つであり最も時代が若い代物だろう。

 ただしこれがFSの秘密の一つであり、この世界で唯一の空を飛ばない目的で作られたFSの技術品だ。つまりこれには殺虫剤は、組み込まれていない。二代目、三代目は、これに手を出し尽く敗北している状況だ。
 まぁ、誰一人このふざけたロジックを解けないということ事態、別の方法でのリアクションが必要と言うことに他ならない。

「確かに納得、しかしながらたかが空中舞踏事件だ、今ここで起きている事件に比べれば興味も価値も一切無い。なぁ、双山たかがあの程度に過ぎない」
「たしかにね、今から過程として起きる事件よりもそれは劣るだけの話には違いないけど……」
「あの事件は今回の事件の足がかりに過ぎないが既に死者が出ている、飛翔同盟初代盟主が提唱した崩壊論が確定したのと同じ状況だ」

 その程度の話でしかない、本当にどこまで言ってもその程度だ。
 前提条件なんてどうでもいい話だというのに、だがまぁ本当に本当に、この条件が無ければ面白くないのだから困る。

「だからと言うだけだ、選択肢は俺は与えない。当然、あんたの妹も当たり前の事だ、俺は容赦なくあれをぶちまける」
「卑怯にもほどがあると思うが? 君の正確は大体理解したが、それが人類全てに受け入れられるはずは無いだろう」

 今更の事だ、そんなことはあんたがチームFLYに入ったときから理解している。けどな、それは、

「あんたが理解するべき感情じゃない。受け入れられたものは、俺みたいな理性使いの前で語ることが許される筈は無い。過程である代物が、その次の段階である試作品に文句を言うなんて論外だ、待っていろどうせそのときがくれば完成品が出来る。それまでその言葉を使うことは、同類にしか許されない。
 あと俺からいくら情報を引き出そうとしても無駄だ、いくら論点を変えようと、選択肢の無い奴は這い蹲ってこっち側の用件を飲むしかない。さぁ、もう御託は一々耳に入れてやるのは終り。次はぐらかすなら撒く、そこを忘れるな、あの事件で狂った鉋響枷、鉞創の代償も全てな」
 
 楽しいなぁ、全く。何でこんなに気持ちよく殺気を向けてくれるんだろうか、同類は呆れたような顔をしているが、こういう人間がいるから俺は生きていられるんだぞ。

「姉さん」

 俺のそんな内面を理解しているのであろう同類は、殺気を向ける姉に声をかけた。俺だったからこのまま相手で遊ぶ事に集中してしまいそうだし、こういう冷静な味方はありがたい限りだ。

「どうしたふた、君はこんなゴミの様な破綻者と共に脅す気か」

 違う違う、そこでそうなのはおかしいだろう。
 目を見れば分かるというのに、どっちが正気で、どっちが狂気か、見ているものが違うというのに血縁如きで、同類と括るのは問題だぞ最強。
 だがここで本性をひけらかすのは問題だ、それは今同類が見せるそれに大して余りに無粋すぎるものだ。

 あぁ、なんて可哀想な限りだ。

「黙れ」
「は?」

 本当に哀れな限りだと思うよ、あそこにいるのは仮にも俺が同類と認めた存在だぞ。自己を自己で埋めていた奴が今自己を開放するんだ、よく見てみろよ最強あの目をあれが同類だ、おぞましいほどに人間らしい。
 疑問を映像を通して伝えてくる最強、残念ながら遅い遅い、お前の妹はすで昨日までの人間じゃないぞ。

「負けを負けと認めないのは流石にどうかと思う。どうせ遊ばれるだけなんだから早く理解してくれない姉さん、私達はやる事が多すぎるのいま何も出来ない姉さんに力を貸してやらないことも無いといってるの、理解した? 理解して当然よね、飛べない鳥が、使えない頭脳が、行動できない事がどれほどむなしい事か、行動しようとしないことがどれほど哀れか」
「ふた……、あ、え?」

 それだ、ほら裏返った。こんなのばかりいればどれほど俺は正気でいられるんだろうか、いや望んでも望まなくても詮無き事だ。

「侮辱で時間稼ぎなんて無粋な事をしないで、こんな楽しくて面白い、そんな楽しい遊戯が始まるのよ。私達は、楽しむ権利を上げるといっているの、選択肢が無いことぐらい理解しているでしょう」

 ようやく理解したのだろう、妹の変貌振りに、いや冷静に見れば誰でもわかるような異形だ。
 感情が真っ直ぐすぎるのだ、上塗りされない意思を眼前に放つその様は、誰でも理解できるほどに正気すぎる。

「仲間は無しか……、そこのお前妹を変えたな。つまり貴様は、あれとそれは失敗作と言うことだろう。もはや完成品まで出来ている中。その形容はまさしく人外」
「姉さん、選択肢は無い。そう言った筈よ、希望はもう無いの、アレを見てこれを見て、そこには面白い道具しかない。なら結論はでてるんでしょう、拒絶はいいから肯定か否定を出せ」

 あいつの姿にほんの数時間前の正常性は既に見えなくなっていた。姉の言葉に和って入ったそれだけで確信した。
 俺が望んであいつが望んだからこそのこれだが、これなら敵にしたほうが面白い。だが今の状況では共同のほうが大切だ、理性使いとしては残念なところだ。
 
「あぁ、分かった。理解している、最初から絶命させられているのに、いちいち拒絶はしない、協力する以外の選択肢を私は持っていないじゃないか」
「それで満足な事この上ないよ。自分のしでかした事に責任をもてないのなら、頭脳使いになんかならなければいいだけの話だろう」

 何しろあちらは本能使い直感と言う絶対遵守を平然と貫く。天才でさえ気付かないだろう人間のもう一つの可能性、余りに濃すぎて進化の過程で消える一端。今俺の前の前に見える頭脳使いでもない、唯一の俺の天敵に本能使い。素晴らしいほど感覚だけだ、あらゆる野生の中でこれほど動物的な感覚もないだろう。
 特に攻撃的に成ったときのこいつは恐ろしい、それこそ凶暴なまでの牙を広げて喰らいに来る。敵になったらこれほど面白い相手はいないんじゃないだろうか。

「全く失敗ばかりか」

 軽く絶望、何しろ俺は面白いことが好きだ。だが流石にここで裏切れるほど愚かなじゃい、既に勝利は確信してしまっている。仕方ないことだ、俺が提案して俺が立てる作戦だ。たった一度の同類との共闘、これはこれで面白いと思うしな。

「うあー、あの人凄く邪悪な笑みしてる。いい姉さんこいつのこの顔は人たらしと言ってもいいほどよ、一度の見込まれたらもう一生お仕舞い覚えておいた方がいいわ」
「と言うよりあれは人たらしには断じてなりえない類の笑みだと思うのだが」

 何気にいいたい放題言ってくれるやつらだ。さっきまで脅す側と脅される側で立場が一律だった筈だって言うのになって言うなんとも間抜けな話だ。
 人類史上もっとも性質の悪い女二人を相手に正面きって戦うほど俺は愚かじゃない。

「さて下らない会話はこれまでだ、今からお前の取材陣から逃れる準備をする必要がある。そこにある燕で逃げることはまず可能かだけ聞いておく」
「無理だな、これはEEが搭載して初めて動くことが出来る機体だ。と言うか君がなぜ知っていると聞くだけ無駄か」
「当然だその程度の情報簡単にもれてくる。と言うよりお前のところのbQが自慢げに喋ってた、なら今からそこにいる取材陣をどけて俺が入ってやる。俺なら燕ぐらいは使えるだろう」

 表情を歪めた天才は品定めするように上下に俺を除く。

「簡単に言うな燕は君が思っているほど甘い代物じゃない。EEがあって始めて人間は起動できるそんな代物だ」
「お前こそ馬鹿を言うな理性使いと言う言葉の意味ぐらい分かるなら、少しでも脳に被害のいかない方法を考えていろ。最終調整も欠かすなよ、俺は乗れるんだ燕ぐらいなら」

 一人笑っている女がいるが、失礼な話だ。こいつには俺の無様さを見られているから仕方ないだろう。

「話はそれだけだ、じゃあ通信きるから。一時間ほど遊んだらそっちに行く」
「いや待て君は遊びとはどういう事だ。私がこれだけ苦労して」

 取り敢えず回線を切断と、真面目なやつをおちょくるのは恐ろしく楽しい。これが終わったらまたNO−NAMEにはいって暴れても面白いかもしれない。それ以外にも色々としたいこともあるけど仕方ないか。だがこれで当面の戦力は整った、あの天才は途中で捨てるとしてどうするかね。
 何も考えていないしなにも決めていない。そのうちにどうにかなるだろうから、適当に考えてればいいか。

「ところでお前はチームFLY最高のFS乗りのやぐらに勝てる自信あるか?」
「冗談でしょう師匠に敵う弟子は弟子をやってないと思うんだけど」
「EEを使っても無理か?」

 一瞬思案したようだが顔を青くさせる。さすが天下御免のドサンピン。
 けれどそれからはちょっと以外だった。

「四割ね、師匠の本気は知らないけど。どう高く見積もっても四割」

 五割近くそれでも勝率を持ってこれるか普通。
 しかもそれで勝てないと思っているところが、まだ汚染されているようだ。どうせだこいつを教育してしまうのもいいだろう、つまりこれからの闘いの課題がまた一つ増えてしまったのか。

「上等だ、それだけ高ければどうにでもできる。いいか四割の勝率は努力しだいで十割に変わるゼロじゃない限り俺ならどうにでも出来る方法を教えてやれる。最もゼロならそこからプラスしてやるけどな」
「それじゃあ負ける事なんてないって言っているようなもんじゃないの」
「そりゃそうだ、どんな勝負でも負けるなんて考えて挑む奴は馬鹿だ。どんな手段方法に問わず絶対に欠陥がある、それを見出すか無理矢理こじ開けるかは変わるが、それが出来るなら、後は相手とのあらゆるものを尽くした総力戦にしかならない。
 俺はその状況に持って生きたいだけだ。まだ嘘つき以外は俺達を甘く見ている、絶対にこじ開けるぞ天才達の全身全霊を」

 全く同類は、本当に赤ん坊のようだ。あらゆることを吸収し楽しむ、やはりお前も本質は遊ぶことを楽しむ類の存在だ。
 ほら受け入れろご飯はいっぱいある。

「へっへっへ、やっぱりこうじゃないと面白くないよな」
「どういうこと、楽しめるならそれでいい気がするけど」
「これはお前じゃわからないさ、今の俺の立場になれるときがくれば変わるかもしれないけどな」

 羨ましそうな顔をする。だが残念、これはまたお前みたいな異端製作品が出ないと楽しめないだろう。
 だがそれは難しい、絶対に不可能だ。これ以上は増えるわけがない、それは俺達とは違う次の世代の話だ。

「ずるいわ」
「当然の事だろう、隠したお前と広げた俺の差だ。悔しかったらたかが天才の所為で自分を自分で押しつぶすなばーか」

 ちなみに一発殴られた。こいつの暴力性はさすがに酷いと思う。

「けれど何で師匠が出てくるってわかるの?」
「詐欺師は俺のことを知っている。手加減も躊躇いも、何より油断の一つもありはしない、なら予測できるのは最強の空狂いの空蜻蛉しかないだろう。あと可能性があるのが、近衛蜂クラスの期待の大量投入のどちらかだが、AIなら兜の方が千倍優秀だ」

 計算能力のなどの差ではないのだ、兜とは量産できないAIともいえる。
 チームFLY製の品物は基本的にそう言う代物が多い、その中でもAIに関してはそのプログラムだけではなく周辺設備に到る全てがFLYメンバーしか作れないような代物ばかりなのだ。
 下のランクである絡纏蜘蛛と呼ばれるランクのAIの低く見積もっても性能差は約百倍なのである。実際このAIを所有できている存在は1−8イェーガーとFLYの面子ぐらいだ。その最高のAIを積んだ子の世界最強の機体と呼ばれる二機の内の一つである空狂いの空蜻蛉、空狩りの絡蝿だ。どちらも世界最強と呼ばれる乗り手であり、片方は研究者として片方は完全な乗り手として、この占領された空に君臨している。

「そんな事を全て冷静に考えれば、兜があれば下位AIなんてものはただのゴミだ。それに俺が一度どころか何度も兜のAIを屈服させている所を見ているんだ、あいつがそんなぬるい手を使うわけがない」
「だったら最高戦力を一つ用意して潰すと」
「そう言うことだ、今から勝利の布石を考えるが、どちらにしろ俺らの勝利は危うい。しかしお前とあっちでは絶対的な差がある、あっちはどれだけ詐欺師に言われても油断する。人間ってのはそんなもんだ、だからそこに介入する事ができる」

 どう計算しても四割の勝利をもぎ取るにはここしかない。
 けれど半分無謀だと思ってはいるが、こう追い詰められてくるとそれを破り去った時の楽しさは、格段のものに成る。

「だがこれは賭けだ、その穴を俺は作ることだけに専念する。後はお前しだいだ、最初の激突だ。お前もいい加減天才がたいした事の無いものだと言う事を教えてやる、予想じゃあ後二分以内に最初の一回だ。このFSでの打撃戦を教えてやる」
「いや師匠なら後十秒以内よ」
「ならそっちが正しいもうEEを起動させておけよ」

 実際レーダにはもう確認出来る場所に赤い機体は居た。
 その疾走が止まる事なんか一度も無いだろうと思う。だが空蜻蛉と呼ばれる天才の機体は、あえて速度を落として彼女の準備を待っていた。だから俺達二人は勝利を確信して、緊張して溜まった息を吐き出しEEの機動を確認しただ直線に敵に喰らいついた。

「いいか、今から六十秒以内にケリをつける。じゃなければあいつらに、お前の姉が取られるからな」
「了解、FS戦でそんなに長い時間かからないから気にしないでいいわよ」
「あっちが時間稼ぎならかかる、だからこそ言ってるんだ。こっちの時間制限とあちらの時間稼ぎ、防御と攻撃の間に明確な穴があるそこをぶち抜けば猿でも勝利できる。お前はそのための努力をFSでして来たんだろう」

 俺の声を聞いて一瞬だけこいつは、昔の姿に戻った。元々FSを乗るのが好きな事ぐらい分かる、じゃなければ三流中の三流が空狂いに勝利などできるはずが無い。
 だがそれは一瞬だけだった。双山はもうそちらに戻れない、この境目に来てしまえば、後は人間堕ちる所まで堕ちるだけだ。
 同類は同類所詮変わらないベクトルが違うだけで、その本質だけは変わらない。楽しければそれでいいのだ、そして今の状況はそのためにあるのだから当然だ。俺より楽しそうに笑っているこいつは俺の獲物だ。

「当然でしょうが、よく見てなさい。これがあんたの相棒の実力って奴よ」

 五朗が一度、やれやれ教育を間違ったかと思ったかもしれないが。流石主人によくにたAIだけある、お前も楽しそうに聞こえるよ。
 これじゃ俺一人楽しんでないみたいじゃないか。

 まぁ、そんなことなんて認められないけどな。

「じゃあお前も見てろよ、お前の相棒の実力を」

 これだけで十分だ。今はこれだけで十分だ。俺達が負けるはずが無いのだから。

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