序章 世界なんで面白おかしく遊ばれるだけの玩具の舞台だ
 


 


 



 私が作り上げた飛行形態とその抑制剤、だが私の最高の傑作は抑制剤の方だ。
 もしこれを引き剥がしてなおこの機体が飛ぶ事があればそれは私を超えることと同じ意味である。


 今日本と言う国はある技術のお陰で第二次高度経済成長を迎えていた。それはありえないほど未来の技術のはずであった空飛ぶ車、それはある天才によって作られた最高の飛行形態の一つ。

 2030年島根(2060年では出雲と変わり首都となっている)昆虫研究会からある機体が作られたFS−001、蝿のごとく動く飛行機と言うものがコンセプトでつくられたシステム。あらゆる航空概念を侮辱し作られた一つの飛行形態の完成、名称をFS(FLYSTYLE)と呼ばれる運動ベクトル支配機構俗称蝿。
 大橋太郎、世界最高の天才とうたわれることになる男の作った飛行機構世界はそれで一変した、技術爆発とも行くべき新たな段階への技術がFSと言う技術を筆頭に山のように現れその全てがなぜか日本から出て行くという事態が起きた。FS機と呼ばれる航空機に搭載された対話型AI、夜を消し去るために作られたと言っていい空気発光体、FSの製造上で作られた永久機関燃料。上げればきりがない、嘗てのルネッサンスのようなテンポでいやそれ以上の加速度で、技術は発展し跳ね上がっていった。

 レオナルドダヴィンチが望んだ空は、リリーエンタールが浮いたその一瞬の空は、ライト兄弟が駆け上がった空は、二宮忠八があきらめた空は、嘗ての古きもの達が仰ぎ見た空は、手を伸ばすだけで触れることが出来るほど、簡単で200万(大体通常サラリーマンの年収が2000万)ほどの金額で手に入れられるような代物に成り下がった。

 操作は球体の操縦器を動かす事によって可能であり、そのベクトル支配とされるその機能により衝撃波などの全ての要因が蹴散らされ、接触などの際にはそのベクトル支配機構が強制的に機体を停止させる、実質の最高速度は無限大と言ってもいいだろうだが限界はある。機体の処理速度からFS−FLYと呼ばれる初代チームFLYが作り出した最後の機体、光の速度である299,792,458 m/s(≒30万キロメートル毎秒)の二分の一、推定速度であるため正しい事実は分からないが、最強のAIと呼ばれる兜を備えた機体であるがこの機体以降この上を目指す機体はなかった。

 誰にも作る事ができなかった、俗に殺虫剤と呼ばれるリミッターが着けられているのだ。FS−FLYと呼ばれた機体にも殺虫剤はまかれいまや標本と呼ばれるチームFLYのメンバー達の経歴を飾る博物館に死蔵されている。

 そして致命的な理由が飛翔同盟そう呼ばれるテロリスト達の攻撃だった。2034年まだ主流ではなかったFS搭載の機体ではないガソリン車‐現在では趣味の一品‐が大量の爆薬とともに彼らの集まっていた研究室に向けてTNT爆薬約1tと言う圧倒的な物量が彼らを皆殺しにした。
 このときの首謀者の名前は初代飛翔同盟、大里河木、FSを作り上げたチームメンバーはこれにより全員が死亡した。それからすでに二十六年が経つ、FSのリーダーである大橋太郎はその事件より前に病死しているが、彼は死ぬ間際にこう残していた殺虫剤を解除できるものがいたらそれは私を超える人間である。

 それからが日本の発展は始まった、FSその技術を正当に継ぐ第二の天才集団(チームFLY)によってFSは量産される事になる。だが完全ベクトル支配と言う点に関しては不可能であり、あくまで操縦と言う限定のみでしかそのFSの機能は使えなかった。
 いつか確実に兵器へと変貌するだろう、攻撃と防御両方をこなし核さえ廃絶させるだろうそれほどの力を持ったそんな狂った産物はいまだ鍵をかけられたおもちゃ箱の中に存在していた。

 世界は今極東の黄金の国に再度視線を向ける事になる、2030年それが全ての転機となった。本当であれば発展し続けるはずだった経済集団、中華連盟が力をつけるはずだったその時期に、日本は戦後の復興を超える復興を遂げる。それは十代から二十代の子供達のお陰と言ってもいいだろう、天才が生まれ始めたのだ一つの分野に特化した万能者ではなく専門家が、彼らがその国を復活させた。

 あらゆる分野で彼らは今までの全てを越えた、そしていつの間にかこの国は全ての国を超える先進国となった。

 その象徴が第二東京タワーと呼ばれる巨大な三段階居住塔 二井田タワー 通称第二東京タワー 爆破殲滅された初代チームFLYの為に建てられた巨大な慰霊碑にして国の政治の中心。なぜこんなものが作られたかわからないというほど強大な塔、最上階を大社と呼び国会議事堂があるのはこの場所だ。

 どこにあったか判らない資源を無駄に活用したその結果、空を陵辱し続ける塔は二十年の歳月を経て完成した。

 全てがおかしくなった2030年、確実に衰退していくはずだった国が変貌して言った。どうにかどうにかとずるずる借金を増やす国で返す事さえできないで一生を終わるはずだった国が変貌した、あらゆる連合、連盟、国全てに経済戦争で負けた国が2030年が全ての転機となった、まるで神の采配がその国を生かすように、

 今は2060年世界最大の経済大国にして、FSを唯一作り出せる国、天才を生み出し続ける狂気の国、頭の壊れた子供が生まれ始めた日本と言う国 たかが島国が変貌を始める。
 殺虫剤は空になる、2060年とうとう生まれた天才 峰ヶ森陽子 、第三番目の最高の天才達の集まるチームFLY。虫達の時代は終わり鳥達の時代が始まる。

***

 空を仰ぎ見ればそこには侮辱の塔が立っている、富士山もかくもと言うほどに強烈な高さを誇る第二東京タワー。それはまるで木のようにいくつもの根が大地にしがみつき人造の世界樹世界(神の世界)を現していた。
 羅列するその塔の侮辱を俺は合わせながら、睨みつけていた。
 いてつくような寒さが体を蹂躙しつくす、寒い、痛い、あぁ呼吸するのを忘れてた心臓も、自殺願望があるのかと思いながら宙を仰ぐ。二十一世紀に成る前の時代の映画を髣髴とさせる未来予想図が今の世界。大きな木が一つの都市を侵略しているように見えた、飛翔同盟はまた活動を活発化していて、今日というこのくそふざけた日に各国の首脳陣があの大社に集まっているが俺という今いる世界にはたいした意味はない。

 空が嫌いだ、世界が嫌いだ、この緩慢に動く激動の時代に、木に群がる昆虫共が世界に寄生する。今の飛行形態に反吐が出る、退屈すぎるその世界に吐き気を催す。

 心臓が止まる、呼吸を忘れる、目の前が真っ白になる、思考が統一化されるといつもこんな気味の悪い事が起きる。呼吸を落ち着け思考を分散させる、生きるためには必要な事だ。ならいえる事かもしれないが学校にぐらい向かったほうがよかったのかもしれない、折角アメリカと言う嘗ての大国から帰ってきてまで入った高校だというのにまったく自分は何を考えてるんだ。

 学校とはつまりは将来のための人格形成、いや簡単に言えば集団の中に人間を追いやって無理矢理同一的な思考にさせる場所と言うのが正しいのだろうか。個性を埋没させるところであるのは間違いなく異端を排除させる思考を持たせるのもやはりここだ。
 だがそれと同時に選択肢を広げる場所でもある、凡人と天才と異端を区別する場所で、努力するものとしないを物を明確に分ける場所。まぁ、社会の底辺が何を言っても代わらないことぐらいは知っている。

 学校が全ての選択肢ではないのだが可能性は広げる、だからこの世の天才の坩堝とさえ呼ばれる高校に来たと言うのによりにもよって現在の最強、峰ヶ森陽子を生み出した学校だと言うから無理に勉強してきてみれば、過去の栄冠にすがりつくようなそんな学校だった。天才の妹がいるからっていう理由で入って見たがこれじゃあ面白みも一つもない。

 世界は往々にして冷酷残忍だが、なにも妹が登校拒否をしていると言うその事実は酷過ぎるだろう。

 俺はそいつ目的でここに来たのだから、これならまだアメリカのほうが面白かった。折角作ったサークルも蹴飛ばしてここにいるって言うのに何でこううまくいかないものなのだろう。
 まぁみんなは怒っていたけど俺には罪悪感は一切ない、選んだ道が偶然そうだっただけ。だがまぁ仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない、が俺の選択肢はいつも波乱ずくしだ。それが狙いでもあるわけだが。

 思考は終了、そろそろ昼時だまた食事と言う名の殺戮を行おうか?

 いや生きる為にする事を殺戮とはなかなかに卑屈な言葉だ、人間なんて死ぬまでに命を奪いつくして生きているのだから必然と言えば必然なのだが。人間腐ってきている事だけは今の状態でも理解した、とりあえずは食事だ。そのために近道である大岳なんていう無意味に景色のいい近道を通っているのだから、そのお陰でいつも見ようとしない胸糞悪いものを見る始末だ。

 嫌いだから見ようとしないのに見せ付けられる、こう考えると俺も典型的な日本人だ臭い物にはふたをする村八分?これは違うか。

 今の空は俺は嫌いだ、特にこの島根と呼ばれていたこの場所の空が。ここは空を侵略した場所、木と言う名の止まり木がまるで世界に根を張るように進行した、それだけで苛立つ、そういえば黄泉の国は根の国とか言う言葉もある。やはりここは地獄、特に今のような世の中だったら当然か天才が繁殖しだし一般人の学力すら三十年前とは比べるわけもないほどにこの時代の天才は頭が壊れているとしか思えないような専門知識の権化達だ。

 ジャンルは全てがバラバラ、医療に機械工学、他にも力場学(FSが出来て以降の物理学の名称)、新たなジャンルを作り出すものもいる。そんな化け物連中の中でひときわ輝くのがチームFLYの面々とそのリーダー、二代目はFSの量産に成功はしたがそれ以上の効果を上げる事はできないままに三代目へと研究を引き継がせたそれでも知能指数で言うなら400越えと言うありえなさ絶対に頭が壊れている。三代目はそれをさらに上回る頭脳使いであるわけだが。

 初代と合わせてみる三代目、最大最強の大場を越えるかもしれない女、峰ヶ島陽子、彼女のジャンルはよく分からない。いろいろな分野の専門家がいるが彼女はしいて言うなら万能、吸収と発展それを主としたあやふやな専門家。だが同時に彼女はそれを操ったとも言える、そしてなにより彼女は殺虫剤を破壊することに成功すると都市伝説のように実しやかに言われている。

 つまりはそれを実現する可能性があるほどに人間、この世界で一番興味をそそられているといってもいい。

 FS言い換えれば最強の兵器だ、全ての運動ベクトルを操ることが出来る。いまのFS機体だってそうだ、あれは核兵器だって遮断できるのだ、あの機体に有害指定としてインプットされてある全ての運動ベクトルは容赦なく遮断させられる。現状でFS機が最高の核シェルターといってもいい、艦隊砲撃空爆最近実用化に到ったレーザー、あらゆる攻撃が問答無用で弾かれる。

 現状でFSはそれだけのことができるのだ、殺虫剤それは今の天才をもってして現状不可能と呼ばれた現代のフェルマーの定理。
 
 それが外されたとき、FSは攻撃目的で使用されるだろう。速度と言うのはそれだけで力だ、ある程度の質量とある程度の速度、それがあるだけで星と言うのは簡単に壊すことが可能なのだ。事実現状でFSでさえ周りに与える衝撃波を無理矢理移動や停止またはその衝撃波を封じるために使用してそういったダメージがないようにしてある。

 今の状況でさえ化け物じみたその兵器をどうやって操る、そこまで行けば使うことすら許されないが、もつだけで地球と言う星の頂点に立つことが可能だ。FSと言う防御壁と攻撃兵器、殺虫剤がとかれた瞬間それは可能となる。

「いっそ」

 世界さえ壊れてしまえばいい、下劣下劣、卑怯な人間だな俺はつくづくおれらしい。
 面白くない世界は全部他人のせいで、この愚劣極まりない塔が出来た事でさえ認めようとする気はない、ただ何も考えずに嫌いだと否定する。こんなことだから正義と象られ彩られる戦争は消えやしない。
 だがそれ以上のことは考えようとしない、いや一人の人間で出来ることは混乱だけだ面白いことではない。俺の考える面白い事はサークルでやり通してそれでも足りなかっただけ、この塔をへし折ってやろうと考えた事もある。けれどどうやって?

 物理的にへし折る事は簡単だ、現在の兵器では核かそれに順ずる威力の物理兵器を叩き込めばいい。

 素材さえわけの分からない、複合型装甲現在では戦車などに使われている。今のところは通用する兵器のほうが少ない状況だ、どうやったらあんな長細い(といっても10キロ以上の幅はある)物が地面に寄生していて倒れないのか疑問ではあるが、そこが現れ始めた天才達が頭脳を合わせて作り上げたものだ無駄に技術が高い。攻略手段は多様に在るけど俺にはそれを行う資金も力もない。

 飯を〜、ゾンビのように俺の腹が栄養を供給しろとうめき始めてきた。

 やれやれどこまで言っても人間というものは理性的に成っても本能からは逃げられない中途半端な動物だ。
 無駄な思考はやめてさっさといこう、大宮のラーメン屋は人気が有るからこの時間じゃないと席が取れない。毎日言っている常連なんだから多少は融通してくれてもいいとおもうのだが頑固親父の店と言うのはこういう時平等を心がける、まぁ学生だからといって半額サービスをしてくれている以上文句は言えないが。一応これは常連(学生限定)のサービスらしい。

 その前にいつもの日課をしておくか。

 再度塵屑が集まる木を睨みつける、丁度塔の真ん中第三十八居住区、家の両親が今いる場所だ。そこに指を向ける水平にその塔をなぞる。

「折れてしまえ、お前なんか必要じゃない」

 俺は本当に世界の中でのこの場所が嫌いで、何よりこの空が死ぬほど嫌いだ。
 空なんて暗幕でも垂らして壊れればいい。

 この空が俺はどうしても好きになれない、俺は空が嫌いだ。

***
 
 私は今追いかけられている、姉と言う幻影と、警察と言う国家権力から。
 たかだかFSの法廷速度(これは勝手に別の国に行かないようにと用意されてあるFSの人間操縦時の規定速度AIには規定速度はない)をちょっとばかり二周りほどオーバーしただけだというのに失礼極まりないと思う。

 たかがマッハにして15程度の速度なのにどうしてくれようこの国家権力共、でもつかまったら違法改造で武装までしている事がばれるし−FS自体を停止させる外部強制入力型のウィルスの事峰ヶ島の天才が開発した−を積んでるなんてどこの国の警備隊でも所有を請願されているようなものなのにばれたら未成年だからで許される問題じゃなくなる。 

−マスター、早く殲滅しよう
「駄目、仮にもあっちは国家権力身内が被害を被った場合間違いなく本気で行動してくる。それよりも絶対に見つからない逃走経路を検索する事」

 この騎馬兵上がりのAIはどうだろう?
 一応これでもチームFLYが作ったAIの試作型だその辺のAIとはレベルが違うことぐらい私にも分かる、普通であればFSのエリートである警察の機動交通係が私を捕まえられないわけがない、あちらにはAI停止型の外部強制入力型の武装だってあるのだ。その全ての経路をこのAIは予測して回避している、これは私の腕じゃないぽっぽこぴーな私の腕で警察の機動交通が捕らえられない事のほうがおかしい全てはこのAIのお陰といってもいい。

 だけどさ、ちょっとばかり性格がおかしいのが問題といえば問題。
 私の命令には従順だけど、どこか王道な戦いを好むというか敵対するものには容赦ないって言う思考がどうもこのAIのマスターとしては心配なところ。優秀だし、いい子なんだけどね。

−了解したが、もう少しと言うか徹底的につぶしたほうがいいとおもうのですが
「駄目って言ったら駄目!!私は未成年しかも峰ヶ島の人間だったのいい姉さんに迷惑をかけるわけわけにも私の明るい未来に泥を塗りたくるわけにも行かないの!!」
−マスター、御母堂が聞いたらなきますよ!!半年も学校に行かずにFSで運び屋をしてる不良。と言うかすでに真っ暗じゃないですか
「うるさい叩き壊すわよ。いいから安全経路を出せ、私は運び屋で終わるつもりも高校中退するつもりもない!!」

 まぁ、このまま続けば両親が勝手に止めさせるだろうけど今は運び屋のほうが大切。私の夢は姉さんとは違った道で上を目指そうと思っている、頭脳では絶対に勝てない、今の子供の平均知能指数が180、そんな中私は昭和生まれと同じ程度の知の指数しか持ち合わせていないので何かの病気かもしれないと勝手に両親にいわれたこともあります。まぁたしかに赤点しか取れない私はあの学校にいるには問題外の人間ではあるんだけど。

「で、経路は見つかった。五郎」
−肯定です、けれどEEだけは起動させておいてください。今からは最大速度で動きますよ

 EEね、よりにもよって反則技か……。EE、鷹の目と勘違いして作られた隼の目、人間の身体能力を底上げし操作稼動限界を引き伸ばす為の装置。けど普通の人間が使えて三十秒、これ以上は体にリバウンドが来て入院する可能性もある。
 らしいんだけど、私にはそのレベルは関係ない。理由は分からない、姉さんが言うには君も頭の壊れた子供の可能性の一つらしいけど今が面白ければ私は全てを許してあげよう。私はこの瞬間が死ぬほど好きだ、世界が凍りつく動けるのはきっと私だけこの瞬間だけは私は誰にも負けない。

 いいわけだ、この場所だけ私が特別になることを知っているから。凡人から離脱する術だから、私はこの手段に縋っているだけなんだと思う。

 けれどこれが私の大切な能力だ、凡人以下の知能の私が天才にだってきっと勝る力。私はこれ以外きっとないだからこれで勝負してやるだけだ、現時点での最高速度音速にしたらどれくらいだろうか?30?いやもう少し上だったと思う。
 人間の稼動限界が実は2までと決められている中私が出した15と言う速度は実は無謀運転だったりするけど、私の感覚では遅い位なのだ。

 現に今だってそう、頭が開かれたみたいにスースーしている。思考はクリア、瞬間の判断力なら私は負けない。

 そういえば昔は犬の喧嘩が航空戦の接近戦だったけどいまは意味がない、視認させない速度をどうやって操るかだ。相手は気が着けば一キロ以上は慣れていることだってあると言うかそれが当たり前、未来予測に近い相手の行動予測が基本となるけれどその選択肢は異常なほど広い。直角だろうとなんだろうと移動が可能なFSの前では、だからこそ相手の予測を上回りさらに絡めとる手段が必要だ。

 私はそれを一切行わず身体能力とEEだけでそれをねじ伏せる馬鹿らしい手段をとっている。

 これが出来るのは多分私だけ、予測をせずにリアルタイムで相手の行動を視認する。予測が限界の世界で唯一私が出来る特技だ、最高速度である2を超える事15倍程度開く距離は一瞬で視界から外れるほど予測の限界をゆうに上回る限界速、提示された逃走経路をなぞるだけ。チームFLYが作ったAIの中でも最新の部類に入るそれこそ初代チームFLYが作り上げた兜さえ超える性能を持ち合わせているだろう。

 正直に言って現状では人間よりもコンピューターのほうが能力の方が高い、命令すれば要望にこたえられないほうがおかしいぐらいなのだ。チームFLY製と言うだけでそのAIの能力の高さが伺える。そこにいる人間達は天才に天才を上乗せしてさらに累乗する様な化け物だ、今の技術の二十年先程度の技術力を平然と持っている。
 日本政府、他の国家機関からも多大なバックアップが行われ研究資金には事欠かない状態だ。そしていつものように新たな技術がそこからは生み出される、昭和生まれの私と同じ程度の頭脳使いである私はAIにさえ劣る頭脳使いなのだ。

 だから信用している、FS専用AIその中でもランク付けされるなら最上位である兜−当然の事である最強のAI兜から取られている−に分類される。名称は五郎、名前をつけたのは川原大海と呼ばれるチームFLYで二番目の化け物からこのメンバーで五つ目に出来たAIだから五郎らしいがあそこのネーミングセンスは数世紀先をいっている気がしないでもない。

「で、まいた?」
−とうに、ついでに発生力場番号(車で言うところのナンバープレート)は偽造しました。あなたの担任の先生と同じ番号に。
「ってまた。あの先生確か結婚するはずでしょ、いくらこの機体を馬鹿にされたからって粘着しすぎ!!」
−構わないマスター、あれは私をよりにもよってカマドウマ呼ばわりしたんです。この機体はあんな這い蹲るだけの機体じゃない飛ぶ機体ですか、いっそ結婚なんて破断してしまえばいい

 鬼だこのAI、ロボット三原則があるようで一切ないって言うトンでもなさ。
 いやでも私の表情はギコチナクなる。
 しかももう登録された力場番号は蜘蛛の巣である機動交通の番犬にコピーされただろう、本当であれば偽造不可であり製造段階デモのいじくる事が可能な力場番号だがけどこのAIはそのあたりの操作などは容易く行ってしまう。

 詐欺師の字を持つチームFLYメンバーのナンバー2の作品だ、偽装支援型対話AI五郎。データ的ではなく物理的のはずの発生力場番号を覆す非常識AI、現状ではこの一体しかこの仮想発生力場番号偽造は行えない。
 
 実はばれる可能性のほうが高いけどチームFLY製と分かればそれだけで機密だいくら未来の幹部候補の集まりである機動交通とはいえどその場所に侵入することは許されない。チームFLYと言うだけで治外法権(少し違うが大抵の事なら罪に問われない)みたいなものだ、国の利益に直結するそれだけの研究が常時行われている。最も彼らにそんなつもりはないただ探究心の赴くままに。

 先生ご愁傷様、ごめんなさい、さて反省と謝罪は終了。

 一度視点をずらして、目的地である第二東京タワーを見る。人間の世界で最も傲慢を象徴してると思うけど、空の発展と鳥の安らぐ場所だ。人間が目指した空の一つの道、私は嬉しいと思うのだこんなものが出来た事に、最後に私は空を見上げる。

 世界がある、空を突き抜ける世界が、その後には一つの雲が、一つの光を追いかけるように
 世界は綺麗だ、空は美しい、だから思う私はいつものように、私は空が大好きだ。もっと上をもっと上を、そんな人間らしい願望を私は思う。

 私は何度も思う空が素晴らしい

 だが同時にここまで憎らしいものはないと、いつも思うもしかして私は空が嫌いなんじゃないかと。

 くぅとお腹が鳴く五郎はどこか笑うように淑女の癖になんと言う破廉恥なとか言っているが別にどうでもいいとおもう。じゃあとりあえずこの警察連中を撒いたら食事としますかね。

 今は一度思考をやめて奴らの追跡から逃げ出す事を考えるだけだ。

***

 2060年2月14日、世界が愛を歌う日。元島根県、出雲宮(宮都道府県となっている現在の首都)第二東京タワー上空。
 チームFLYの実験による大型FS 大十郎 一体どういう命名法しているか一発で分かる機体名だが搭載型というFSは今まで造られたことはなかった。理由は簡単だ、それも殺虫剤の効果である、乗り物としてしか使用できないはずのそのFSを次の段階に動かした。殺虫剤の無効化が一つ完成したのである。

 だがここに峰ヶ島陽子、史上最高の天才と呼ばれている女は存在していない。

 完璧の字を持つもう一人の最悪、チームFLYのメンバーのナンバー8ではあるが希代の頭脳使い川守元央。峰ヶ島陽子を唯一超えるかもしれない存在とされる、現時点での化け物候補この場所には彼と他のメンバーしかいない。

「お願いだ兄さん!!これを兵器にしたくない、けどもう研究データは流出してしまったこれを止めたいんだ!!」

 頭を下げる元央、だがもう一人の兄と呼ばれた男はへらへらと笑う。
 聞いているのか、聞いていないのかさっぱり分からない態度ながら弟はそれを確認しながらも頭を下げる事をやめない。

「別にどうでもいいぜぃ。じゃがのうワシはチームFLYではあるがもう一つの集まりのほうがすきなんじゃが」
「兄さんだけなんです、このメンバーをあの人以外で動かせる人間は!!」
「いいじゃないか、わしらは探求の徒その時は人体実験にでも手を出せばいいだけぜぃ」

 優れている者は往々にしてどこかに欠陥を抱えている事が多いものだがこの男はその典型だ。
 面白い事以外に興味を見せない、探究心のためなら容赦なく良心を消し去る。快楽と怠惰彼を象徴するのはそんな言葉だ、だがその男も獰猛な表情を隠す事はない。
 現状の世界最強の頭脳使いである峰ヶ島陽子そんな存在と戦う事ができるかもしれないと言う状況が快楽主義である彼がその欲望に忠実でないわけがない。

「外道探求のワシらが屑共、この世の屑共だ、ワシら屑共動かすのはワシらじゃないだろう探究心と快楽提供出来るかぜよ?」
「それこそ幾万、幾億、その我が家最高の頭脳と虚言、現を現実とするその言葉と頭脳、僕が信じる頭脳使いはあの人には劣らない。あの人はきっと邪魔をしてくる、あの人だぞ、兄さんさえ頭を下げた言葉をそのまま実現させる大島太郎を超えた天才だぞ」
「へぇ、わしもわかっているがそれでもわしにやらせるのかお前は。2055年にわしがあやつに完敗したのにか」
「あれを完敗と言うのならあなたはナンバー2になんてなっていない。それに世界を相手に出来るこれほど楽しい事がありますか?」

 それは甘美な声、それは毒沼、何よりも悪魔が悪夢に巻き込むような誘いがメンバー中最大の不穏分子にして快楽症である彼にその言葉は痛烈すぎた。
 弟である彼は分かっていたわけだ、自分の兄と言う人間がどれほど人間として壊れていてどれほど優秀か。これは一種のオークション、状況がどれほど面白くなっていくかを兄は吊り上げ桜桃とは提示していくだけの会話だ。

 パンと手をたたきそこで落札、そこには道化師としての笑みと詐欺師としての獰猛さを具現させる。

「おうけぇい、ワシはそれで手を打ってやるぜぃ。じゃがワシは纏めるだけが当分メインぜぃ。最初の地ならしぐらいお前がするべきぜよ、ワシが信用する頭脳使いはワシさえ超えてくれると信じてるぜよ」

 だがそれは彼が予想した返答ではなかった。基本的に何もしないなんてことが道楽人といってもいい川守大海に在りあえるわけがないのだ。元々そう言う血縁だけのつながりなら容赦なく元央は家族の縁を切っている。

「おや、意外そうぜぃ。じゃが当然と言えば当然ぜよ。ワシはもう世界如きを相手にするのは飽きているぜぃ、ましてや最高の天才、あれはどこまで言ってもあまちゃんぜよ手段さえ選ばなければいくらでもつぶす方法があるぜぃ。ただ相手を崩すと言う事ならわしに敵うものなぞそれこそいるわけがないぜぃ、ワシは天才ごときのために使う頭を持っていないぜよ」
「ならなぜ?」
「おんしは世界を相手にするといったぜぃ。1−8イェーガーも出てくるはずぜよ、中心学区の面子も当然ぜぃ、中華連盟は除外しても構わないがEUの獅子心王に尊厳王、騎士王に、公爵王、円卓も基本ぜよ、それだけのことをするのならワシが望む人間もいるはずぜぃ」

 一瞬言葉に出されるだけで億劫になるような人材集団の名が現れた。
 日本最高研究機関 中心学区 、EUのチームFLY 円卓の王会議 、FSを唯一軍機能として働かせているチームFLYのテストパイロット集団 1−8イェーガー。チームFLYには劣るとはいえその面子は世界でも最高の頭脳使い達が所属する部門、日々何か訳の分からない理論や技術が確立される発展の坩堝。
 他に上げるのならばアメリカ連合のテンプルナイツ、中華連盟の梁山泊、どこもかしこも英雄の名前やそこかしこの過去の栄光を復活させようとあえて神秘の名を使う。それは多分、どれだけ足掻いてもチームFLYに勝てない事を知っているから。げん担ぎでも何でもしなくてはいけないほどに日本と他の国では技術力に差が出すぎている。

「ワシはのぅ、全ての分野の天才達を敵にまわしたいんぜよ。この国でもいい、他の国でもいいありとあらゆるジャンルの天才を敵にしたいぜよ、その中になら家のトップみたいな行かれた奴も存在するかもしれない」

 ケケケケケ、お化けの典型的な笑い声の一つが狂った人間を象徴するその男の顔に張り付き笑いが木霊する。

「じゃからわしは裏切るかも知れんぜぃ。敵対したい相手がおんしらじゃったらのぅ、それでもいいぜぃ?」
「構いません、それで勝てるほど甘いと思ってませんが。あなたは絶対に裏切らない、じゃあいつものをして最終決断といきましよう」

 もう決断はできていると言うのにいつもの合図のように彼はコインを取り出した。

「おんしらしいのぅ、表ぜぃ」
「これが僕ら兄弟の共通の合図でしょう。では僕は裏で」

 弾いたコインは宙を舞い、手のひらに収まる。
 そのコインに裏も表もありはしない何の加工もされていない、ただの硬貨。だからこれは合図どちらでもないがどちらでもあるという、否定でもなければ肯定でもない、だがこの強大が二人で動くときにはいつでもされる合図。

「始めるぜぃ」
「始めましょう」

 FS、限定解除、解除コード 虫は今鳥になる
 目標設定、24研究区、射出弾丸 BT−004 川蝉 

 140秒後目標に向け射出、設定速度 処理速度限界値‐秒速20万km‐

「さてチームFLY、八人いやリーダはいないから七人かまぁ我ら外道探求者。
 世界に警報を鳴らそう、この殺虫剤を使いきったFSの本質を世界に見せ付け圧倒する。
 わしらはそれをするために今ここにいる、まぁわしは興味はないぜよが遊べるぜぃ。これは重要ぜよわしらにとって遊べることを、チームFLYの規約は快楽に身をゆだねろ、知識に外道になれ、作ったものに後悔はいらない、知識で世界を満たしつくせ」

 どこか海外のドラマの笑い声のようなSEが響く。だが一瞬で静寂、その代わりに14の歪んだ瞳が世界に浮かぶ。
 そしてどこからか拍手が起きた、その音で二つの瞳が更に狂的に浮ぶ(わらう)。

「これはチームFLYじゃないが、ワシらの集まりのリーダーの言葉ぜぃ。世界で遊べ、人で笑え、この世は全てが面白い。
 では始めよう正論で武装し外道を実行し虚言を現と変える、理論はワシらの後についてくるそれがワシらチームFLY」

 コンピューターの稼動音が響く、現状の機能では最大側に設定された兵器が起動する。それはくしくも、第三十八居住区、空嫌いの男の両親がいる場所であった。

***

 13時53分、歴史的な意味合いなんてありゃしないしいて言うならそのチームの面々の食事が終わって演説が終了する程度の時間。
 広島、長崎に落ちた原子爆弾のきのこ雲よりもさらに上の上、そんな場所から誰からも視認させずに大樹のどてっぱらに向かって砲弾が吹き飛んできた。それを正しく言うなら搭乗機なのだろうか、先端がややFS機よりも細くかつての航空機に近い形をしていた。

 最も誰にもそんな速度の物体が突っ込んできたなんてわかるわけの無い速度だ、音もせずに穴がどかんと空いた。見ていたものはそう答えるだろ、力場支配技術(FLYSTYLE)はそうやって兵器として具現した。

 この国は呪われている天才に、ヒロシマにしてもナガサキにしてもそうだ。原子爆弾という狂気の産物が作られ使用された、そして次はこれだFSと言う名の兵器だ星間戦争さえ可能にするほどのエネルギーに対する問題の排除、後々は光速を超えることさえを可能にする速度、星一つさえ容赦なく破壊する破壊力とそれを抑える防御力、馬鹿らしいほどの兵器、それはまた日本と言う名の国で使用された。

 所詮何処まで言っても極東の島国風情に、何処まで容赦ないのだろう天才と言う奴らは。それは経済だろうが政治だろうが何処の分野でも構わないのだが。ここまでこの国を嬲るのだろう。

 戦後からだ、どこまでこの国が発展してきたとしてもその負債はあらゆる面でかけられてきた。それが経済と言う名の暴力であり、思想と言う名の強制、真実を捻じ曲げる教育、でなければ起きるはずがないのだ。学生運動しかり、政治的思想の暴走なんていうものは、その全てが間違っていながら間違っていない否定するのではなくその起きた事を考える必要がある、真さえ見通せないものが何を言ってもそれは思考の停止であり自分で調べようともしない愚物のする事だ。メディアの情報さえそれは顕著である。

 先ほど上げた原爆にしろそうだ、日本はすでに完膚なきまでに負けていた。ならなぜ原爆なんていう塵殺兵器を持ち出す必要があったか。思考の遊びをしながら調べるだけでいくつかの予測が立てられる、だからこそ戦後の教育でただ日本が悪いなんていう思考が並べられるのだ。経済活動の最終手段に過ぎない戦争を美化しすぎる結果、思考は停止されこの世は地獄と奈落に叩き込まれる先ほどの理由だってそうだ小人が考える閑居の時間の不善の思考に過ぎないが、人体実験どう考えてもそんな言葉がちらつく。
 出なければ彼らはなぜ戦後ヒロシマやナガサキにきて死体漁りまでして人間を調べつくしたか、想像に値するだろう。所詮何処まで言っても天才達の外道探求の末以外の何者でもありはしない。

 くだらないこと結論に過ぎないが、頭脳的弱者は経済的強者に皆殺しにされ、頭脳的強者によって生死関わらず遊びつくされる。

 今起こっているのはそう言うプロセスだ、屍祭り(戦争へ)のサクセスストーリーに変わりは無い。この後世界最高の頭脳使いになるはずの男が言った独善的な言葉、結果はこれだ、FSの兵器としての有用性をあからさまに世界に見せ付け弱者を力を持ってなぎ払う。群は力だがたかが蟻が大自然に挑む程度の差が在るのだ、ましてや今の時代天才は群で存在するこの日本には、その極点は弱者を蹂躙しなぎ払うために今ここに存在している。

 この瞬間その事実とFSと言うその兵器の事実が世界に流れた、全能回線‐オールインワン‐による世界同一放送の結論だ。

 男女が合いを歌う日当たり前のように世界に最大最上級の兵器がこの世界に誕生したことが告げられ。この世界ありとあらゆる武装手段が起動する、世界各国の力のバランスが変わるときが来たという合図だ。世界中がFSと言う兵器を発見した、それと同時にその全ての国でありとあらゆる武装手段が停止し、政治と言う動きが止まった。

「させると思うか、このチームFLYが」

 世界が終わった、世界と指定するならその全ての軍事基地、道具に到るその全てが全停止。少し昔であれば戦闘機でさえだすことは可能だったで在ろうが、その全ては全自動の皆殺し兵器に変わっている。知識権能共が集まるチームFLYがそれを許すはずもない、FSと言う航空機が在るには在るがあれは戦闘用ではない、さらには空港に到る全ての足が破壊され世界中の信号や交通システムは破壊され人類の時間は100年ばかり巻き戻される。

 この行為で何万の人間が死んだか分からないが、天才達はそんなこと思考の中にもありはしない。ただ唐突に世界は激しく動き出していた。

 そんな動乱が起こる数十分前の事。ここは学生のための食堂、大宮、地元ではかなり有名なラーメン屋である。常連の学生には半額サービスなどを実施するちょっとした隠れた名店、地元の人間以外はそんなものがあることさえ知らないような店だが、実はチームFLYの面々もここによく来ることでちょっとした名所の一つになっている。
 
 食事が終了して満足そうな男が一人、大盛りの大宮ラーメンを250円を平らげてもう少し安くしろと軽く文句を言いながら暖簾をくぐりでてきた。
 食事を終了させて満足そうな名が一人、中華丼、大宮ラーメン大盛り、合わせて450円を平らげこれ以上の幸せ物はこの世にはいないと言う表情をしながら暖簾から出てきた。

「「いや満足満足」」

 結局行き着くところは同じだったがやけに楽しそうに二人の声が響いた。

「おや、よく見かけますね。多分ですけど学園生ですよね」
「そうだけど、あんたもそうなのか」

 無礼な態度を取る男を見ながら表情を一切変えない、だが男は学園では見たことの無い女だと首をかしげる。この辺で学園生といえば天才大量精製所の異名を持つ学園しかないが、そこに居るなら一度は見てもいいぐらいの見栄えはある美少女ではある。
 それに気付いた女は軽く笑って次の言葉をつなげる。 

「ここ一年ほどは自主休校していますけどね」
「へぇ、あの学園には入れるほどの才能の持ち主が自主休校か。俺もそうだって言えばそうだけどな、なにしろ最強の天才の妹とその姉が見たくてわざわざアメリカからこっちに戻ってくるぐらいの快楽主義者だからな」
「確かにいますけど、大した女じゃないですよ。姉が天才なら妹は無能、笑えるぐらい頭が悪いらしいですよたしか知能指数が昭和生まれの平均値ぐらいらしいですから、私同じクラスだったから知ってるんですけどその代わりの身体能力のほうが人間離れしてましたね」

 だがあの学園にくるべき才能ではないのだ。聞いた話だけで人間の身体機能を馬鹿にしているとしか思えない数値が並ぶ100メートル6秒台、昭和生まれが聞いたら失神しそうなタイムである、公式の世界記録は現在では男子であろうと8秒台が限界だったが、平然と上回る猛者が登場していた。

「大した女じゃないか冗談だろそれは、それに昭和生まれを簡単に馬鹿にしてはいけない。あの最強の天才の知能指数は昭和生まれと大して差がないと言うかそのまま昭和生まれだ。だがそれでも何か理由があったからFSと言うシステムの基本概念を作り上げたんだろ。その可能性と身体能力を考慮されて天才の妹はいるわけだからな」
「それはあの人が特別だと言うしかない、けれど実際の彼女は実際に姉にコンプレックスをもっているだけならいざ知れず学園からは逃亡。そこで気になるのは貴方になる同じ学園製で見たことも無い子に対して大した女じゃない無いって言葉に否定できる貴方はどんな根拠があってのこと」

 何をくだらない事をと彼は笑う、彼は平然としているがその顔には容赦がない。
 あからさまに彼女を侮辱していた、だがそんな表情をしている彼に対して怒るわけでも笑うわけでもなく彼女はただ真っ直ぐと彼を見ているだけだ。

「いいか普通の人間はあからさまに自分の情報に確信を持つことはない、ましてや陰口でもそこまで適切な言葉は使わない。何よりな、ばれてるって知りながら嬉しそうにうそを語る女が大した女じゃないわけがないだろう峰ヶ島双山みねがしまそうざん

 トンと軽く心臓をノックする音が響いた。
 男の目に歪みはあっても、虚言は無い、ただ楽しそうに女を見る。

「へぇ」

 正解良く分りましたご褒美にナデナデしてあげましょう。あからさまに彼を哂う態度を見せる、それに反応した男は引きつるような顔をして一度思考するそぶりを見せた。彼の思考には嫌がらせの文字しかない。

「……お前さ、それ以上に名前が大した女だよな」

 殴られた。

「洞察力とかそのあたりは認めてあげるけど、最後の一言はいただけないね。あんたかなり失礼じゃない」
「あのどこに洞察力を絞る会話があった。、れとどちらが失礼か分かったもんじゃない悪趣味な会話をさせた仕返しだ。あとどこで俺のことを知ってたんだ」

 一瞬首をかしげるようなしぐさを取るがすぐに彼は思いついたのか首を横に振る。喋る事もせずに解答を待っていた彼女はそれがいたくお気に入りの様子で、有無と頷くしぐさを見せた。

「いや聞くまでもないか入学当初あんたを探し回って学園をうろついたからな」
「正解、学園の友達からいくらかメールが着てね。私のストーカーって言うから顔だけでも覚えておこうと思って、結果はまぁばれちゃったけど特に問題はないわ」
「あのなぁ正解を出させるために問いかけた奴が言う台詞かあと俺が興味を持っていた理由は面白そうだったからってだけだ。だがあそこの常連で俺が知らないと言う理由がむかつくな、どうせ俺が来る時間とお前が来る時間が決まっていてそのお陰でずれていたとかそんなところだろうが。だが」

 あからさまに彼は彼女を嘗め回すように見る。セクハラじみた視線に彼女は身を守るようなそぶりを見せた。
 彼としてはそんなつもりはさらさらない。その視線の後ににやりと笑うのは少しばかり変態濃度が上がると言うものだ。だからだろうそのにやりと言う表情がどこか青っぽく染まったのは。

「私は君を殴っても許される権利を保有したと思う。ねぇ殴って良い、いや殴らせろ、マウントでそのいやらしい思考殴りつぶす」
「拳を握って嬉しそうに笑うなハイセンスネームが、お前に対して別に何の欲求も抱いていない。っていうか身の程をわきまえろ所詮日本人体型」

 彼は彼女の情報をよく知っている、そのためだけには言ったのに当人の情報が入ってこないなんてことはありえない。曰く、単身で十人ぐらいなら殴り払えると言う、曰く、固体1−8イエーガー、曰く、人間兵器、ここまで言われるのだからそれ相応の非人間性を所有しているのは確定であるが、目の前で耐震用の歩行道路を殴りわるなんていう常識外のパワーを見せ付けられればそんな思考もすぐに吹き飛ぶと言うものだ。

 そう言うレベルの人間性能ではないと言う事に気付いて、

「黙れやこの無個性快楽症」
「いや待って欲しいのはこっちだと思う。仮にもマグニチュード9なんていう馬鹿らしいにもほどがある震度を耐え切れる、地球の第二地表と言われる道路を何で殴り割れるのかを教えて欲しいんだが」
「知らないわよ、生まれつき私はこういうことが出来る体をもっていたってだけ。別段珍しいものでもないでしょうこの時代は、あらゆることの天才が要る時代でしょうが、身体を使う能力の頭脳使いの一人や二人いてもおかしくない」
「どこが天才だ、身体を操る天才ならその動かす腕の振りさえ制御してから言えばいい、呼吸の最適化、体自体の心臓の鼓動の支配、其の体の寸分たがわぬ最適化程度やってのけてからいって欲しい。そもそもこのアスファルトをその程度の事で破壊することが出来るなんて想像はできるが、頭脳使いの業じゃないなファンタジーの世界だ、それはまるで俺と同じような悪夢だ」

 彼女は彼が何を言いたいのか理解できない。いや今の言葉から先を読めるような人間がいるなら教えて欲しいような内容の会話だ。
 前者の会話は人間の限界に挑戦しても有り余るような内容、後者は自分が納得するためだけに紡がれた言葉、自分本位名男である事は会話から理解できるがこの男はつくづく他人のことを考えない。

「大体分かった、欠陥品でも完成品でもなく適応品と言う事だろ。いやこっけいだナンバー8でさえまだ到っていない領域に入り込んだ自然創造物がいるなんて」
「わけが分からないにもほどがあるんだけど」
「理解しなくても構わん、何しろ面白くない事この上ないないようだぞ。実はお前はまだ初潮もきてないといわれるような内容だ」

 つまり無粋な事だといいたいだけだが一言一言が癇に障る言葉を使う。握り締めた拳が緩む事を教えてくれない、そんなこと考えながら一呼吸彼女は置いた。

「で、私に何のようなの変態」
「それでいいといえばいいが別に何か俺が悪い事でも言ったのか」
「いいえ別に何も、私を探し回っていた理由はなに。確実に愛の告白ではないのは理解してるわ」
「見たかっただけだ、天才の妹がどれほどのものか。でなければこんな腐った場所に来るか、それになにより今はどうしても俺の思っているメンバーが欲しい、サークル内にも使えるのはいたけど同類はいた方がいい。同類と言っても所詮俺みたいな奴らは全てが固体なわけだな」
「いや私は別にあんたのメンバーになるつもりはないんだけど。私にあれだけ失礼な事を言っておいてなるとでも思ってるのあんた」

 それは偉大なる伍長のように相手を引き込ませるための話術のようだ。確信を持った男がただ朗々と事実を陳べるように現実を捻じ曲げる。

「なるね、ならないわけがない。お前は俺に興味を持った、俺が何をする気か気になって仕方ない、どこまで言っても同類の癖に一般人ぶるな異端、極度の快楽症の癖にたかが天才如きに押し潰されたか。世界なんていう玩具と、常識と言う名の玩具、法律と言う名の玩具、楽しむべき物は幾らでもあるんだぞ」

 しかしながら屈託なく世界を玩具と言い張る彼の姿はどこからどう見ても王道をひたすら突っ走る陳腐な精神異常者だ。これでは伍長も何も合ったものではない。

「うあー、やばい病気じゃないのあんた」
「いや結構マジ、玩具が目の前にあるんだ遊ばない手はないだろう。いい言葉がある世界で遊べ、人で笑え、この世の全ては面白い、いい言葉だと思わないか」
「それを断言できる人間は間違いなく気が狂ってるって言うんだと思うけど」

 彼女のその言葉を聞いて少し彼は悲しそうに俯いた。彼女に罪悪感などはひとかけらもないが周りの視線が少しいたい、「ちょっと」と口を出そうと彼のほう見る。

「いい配役だ、それでこそ同類」

 笑ってやがった。
 明らかに彼女に対して迷惑をかけるためだけに実行されたその行動には呆れる以外の思考はない。快楽症、それは性的な意味ではなく一種の知識欲に近い、人間と言う理性部分が人より強固でありながら本能を有意識的に求める衝動、達成欲にも似ているだろうか、だがそのための手段が人とは異なる。

 ホモ・ルーデンスと言う言葉があるようは遊ぶ人という意味だ。人間は遊びによってその進歩を加速的に上げてきた、何かが変わると言うその進歩をこれは理性による行動だ。その言葉から上げるなら彼は理性を持って人に迷惑をかけるという手段を思考している、厄災的な人間だ。

 だからこそ彼女はそんな人間の思考が気になる、砕け散った人間思考にどうしても彼女は吸い寄せられる。本当にそれは理性かと思うほど彼女は破滅的に好奇心を高めていく、口が避けるように笑って要る事さえ理解できていない。

「で、どんな事をするつもりなの」
「いや決めてない、だがもっと面白いことに世界がなるそれは確定だし確信だ」
「たったいま計画が在るとか何とかいってなかった」

 計画が在るとかいっていたくせにこの態度だ、だが彼には何かしらやりたい事があるようにも彼女は思えた。
 そんなくだらない会話を少しの間二人は続けていた。時々彼女から拳が飛ぶこともあったが、回りから見れば中のいい恋人同士にも見えただろうか。

 だが時間はそんな間にも過ぎていく、今の時間は13時52分。後一分で世界は変貌する、それは三十年前FSと言うシステムが出来たときのように。

「けどメンバーは足りてるの、あんたのしたいことってある程度メンバーが決まってないといけないんじゃないのだからさがしてるんだし」
「いや集まったぞ、俺とお前。完璧じゃないか、それにどうせもう足りない後必要だったのは資金ぐらいのものだがそれももう諦めるしかないんじゃないか」
「なんでよ」
「おいおい冗談だろ。あそこに浮いてる大型のFSあれは間違いなく殺虫剤が間然にではないにしても解除された証だろう、否が応でも世界に動乱が起きる始まりだろうが」

 確かにそこにはFS機が存在していた。だがあれは空中に浮かぶ空母のようにしか見えない、宇宙戦争でも始まりそうなFS機、個人機しか作ることの出来ないFS機であるはずなのにあれほどの大きさのものを作れる自体殺虫剤の効果が薄くなったとしか思えないのだ。

「誰が嫌がってももうすぐだ、極端な動乱が起こるか一方的なワンサイドゲームが始まるか。いつ始まるか分からないがそのときに必要なメンバーがいたら嬉しいと思うだろう」
「どこがそれの面白い話よ、けど姉さんから聞いたことなかったわ。FSの殺虫剤が解除出来そうなんて、まだ完璧に解除できるわけじゃないんだと思ったんだけど」
「だろうな、だが一度穴を開けたなら後は進行していくだけ。取り除かれるのは時間の問題だ」


  それはくだらなすぎるIFの会話。起こるかもしれない起こらないかもしれないその程度の会話だ。
  だがそれは起きるお菓子会社の陰謀の日、世界が愛を歌う日、時間は弾丸の撃鉄をおろす。

  時間は13時53分

  2060年2月14日、その日、第二東京タワーに大穴が開きFSが壁として登場した。


「嘘でしょ」
「わんだふぉー」

 そしてあまりにも彼女の予想と彼の予想から早すぎる事で世界は呆然と混乱にひた走る。
 けれども二人は気付かない、気にしない、お互いの顔が三日月に歪みながら笑みをつくりその抑えようもない感情に身を任せながらその混乱が自分達にとって玩具以外の何者でもないことを心の底で理解していた事を、このときの二人はまだ気付きもしない。

 心の底では拍手の一つでもしていそうなほど嬉しそうな事なんて。

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