序章


 目とは何ぞや?

 この世界では自分の異眼に問いかけ力を得る為の問いである。
 そして当然のようにそれには答えが必要だ。問いであるのだから解が必要なのは必然。

 それは……

 当然人によって代わる問いだ。
 
 繋ぐ者、それは自己と世界を繋げる一つの門

 そしてそれが彼の解、目は門だと人間に別の世界を与えるただ一つの門だと彼は答える。その瞬間彼の眼は全てを見通す両眼の千里眼、通常両眼の異眼と言うのは珍しい。ましてや同一の異眼など普通は所有できないのが当たり前であった。そう言う意味では彼は見鬼の中でも最強の見識を担うものだろう。

 そう言う意味で彼、一乃坂祭は名家の系譜を辿るものだろう。

 しかし見識の異眼は、最も価値の低い異眼とされ、それを両目にもつ彼は王の目と呼ばれる纏坂の分家筆頭の一乃坂の跡取りでありながら見識を持つために彼は他の分家の跡取りから筆頭たる力を認められず一乃坂の筆頭権限を剥奪して欲しいと、本家に頼まれるほどであった。

 実際彼の異眼は本家から見てもその異眼の能力は低く見られているが、残念ながら彼の筆頭権限は取り下げられる事はなかった。

 千里眼、戦力だけなら本家さえ下すほどの血統異眼である威の坂の破眼その血統を無視して現れた千里眼、ただの千里眼ではないのではないかという一応の措置がとられたのだが事実は違う。千里眼とは見識の中でも元々究極の異眼である、彼に見えないものは無いのだ。 

 眼帯と言う封印は彼の視界に暗黒を与えるはずであったが、元々千里眼とは片目であっても封印の効果はさほど高くないのだ。それが両眼と言うのだからその瞳力は並みのものではない。彼は全てを認識し把握する、それにより当主の浮気の情報やらを操り宗家である纏坂を屈服させたのだ。

 なら今が彼がやっている事とは何だ。

 その見識において究極の異眼を持つ彼がそれを開放する以上認識する事である、彼の眼にかかり虚実を見極められない事は無く、心を把握する事が出来ないはずも無い。あらゆることを認識する目、それが千里眼であるのだ。
 開放された異眼は漆黒に濡れた瞳に、光をともすように淡く一度輝いた。

 そして封印された眼を開放するように眼帯を外す、燐光を纏ったその瞳には全てが刻まれるのだ。世界さえも問答無用で認識するその異眼、彼はその全ての力を解放する。

「さて、始めようか」

 周りからは男の野太い声が響く。ジークハイル、ジークハイルと日本と言う国で、なぜかドイツ語の声が響き渡った。
 そん声によって一抹の騒ぎが始まる、フェスティバルは祭りによって開かれるのだ。

「我らの勝利は確定だ、見識の友よ。我らの目はここでしか使えない、さぁ世界を繋げるぞ」

 彼の鼓舞が集団の狂気を発火させる。轟々と燃える炎を彼は人の力と思い具現し、引き連れる。
 高校生だろう制服を着た集団が彼の後ろに続いていく。

「何しろこちらに負ける理由は無い、敵は我らの力を虚仮にする者達だ。さて、状況を開始しよう」

 紅蓮が浮かび狂気を担う全軍のまなこが燦然と輝き続ける。
 彼の軍勢はきっと負けないのだろう、不敗の軍団が侵攻する。

「作戦名 出っ歯の亀の無駄な抵抗、始まりだ」

 そして彼らの軍勢は進撃を開始した。
 この作戦は完璧だ、きっと負けないのだろう彼らは、今から戦う敵がどれほど絶望的な戦いであったとしても、彼も彼らはまけることは無いのだろう。

 世界最強の認識を持つ見鬼の集団は、今歩みを止める事も無く難攻不落に挑むのだ。

「なぁに女子更衣室など我らの前では透明硝子で作られたハリボテだからなぁ」

 その彼らの前進を進める力となるのは青い情動なのだから。
 当然ごとく最強の覗きの力を保有する彼らの作戦は、成功した。

***

 纏坂の系譜は最強の眼をもつ男 纏坂春斗 によって世界に名が知られる事と成った。
 王者の纏坂とまで呼ばれる、その異眼の名前は王帝眼、見識以外の複数の異眼を同時に能力を操る事を可能とする最強の眼(まなこ)。そんな彼が有名となる事件は千眼王事件と呼ばれる、当時の名家の一人英雄眼 二十九代目 寒椿 が一人の女に殺されたのだ。
 その女の名前こそ千眼王、世界最強の異眼使いである。

 纏坂春斗は彼女と戦った、彼は千眼王と互として戦うだけの力を持っていたのだ。それこそが纏坂の系譜に流れる異眼である王眼、だが宗家にあっても、王眼は発現し辛い力でありましてや、両眼と言うのはそれだけで異常事態だった。当主となる資格は、王眼の発現であり普通は片目だけであるだが、春斗は王眼と帝眼、それは纏坂宗家いや初代が発現した、名家を名家たら占めた王帝眼と呼ばれる秘眼であった。

 また千眼王(パーフェクトアイズ)そう呼ばれる女は、千眼と称される多分この世界最強の異眼を持つ存在である。その異眼は見識以外全ての異眼を認識しただけで発現を可能とさせる全ての異眼をコピーする、全ての異眼を飲み込むが故の千眼。彼はその男と戦い死ぬ事さえなく互角の戦いを繰り広げた。

 結局千眼王を討ち果たす事はできなかったが、それでも千眼王と戦い死ななかったという事実が彼を最強の異眼使いとしての名声を広めた。

 だがそんな彼にも苦手な事はある、それこそが威の坂の跡取りである一乃坂祭。

 彼はなんと言うかろくでもない、彼の父親である纏坂の当主を浮気の証拠を母親に、突きつけると脅すだけならいざ知れず。その異眼の使用方法に明らかに、普通の見鬼とは思えない利己的な思考が写る。殆ど全ての人間が、異眼を所有するその中で見識の異眼は、正直言って弱い。

 確かに中には過去視や未来視など、さまざまな異眼があり一概に、無能の称号とは言いがたいが、それでもあからさまにあれほどの見識の力を持った異眼を平然と無駄な事に使う様は、不可思議な行為である。

「でだ、君は見識の子達を先導して何をやっているのかなぁ?」
「ハハハハ、何をいっております十二代目。男の性と言う奴ですよ、何より折角使える見識の力、透視に感知、把握に認識、まさにエロのために使えといわんばかりの能力じゃないですか」
「と言うか君がその気なら、その辺に歩いている女の子だろうがなんだろうが、裸に向いて認識することぐらい難しい事じゃないでしょうが」

 両目を封じているその異様な姿からは考えられないほどお気楽な彼は、仮にも本家のしかも跡継ぎに対して遠慮が無い。
 気弱な笑い方を見せる優男は、この平然としたオープンエロに呆れながらも流石と心の中で多少拍手をする。

「愚問ですよ十二代目、私はただひたすらに、この眼の無駄遣いをしたいだけです。女なんてものは付き合ってみましたが、碌なもんじゃないですよ本当に、ちょっと他の女と話をしたら一週間家に監禁したりとか、付き合い始めてすぐに婚姻届にサインしてくれっていってみたり、一日十回愛してるといわなかったら三日監禁してみたり、まさに女なんて悪夢、今思い出しても恐ろしい思い出ですよ」
「……いやぁ、それは単純に君の運が無いわけではないのかい」

 だが祭りは十二代目の発言を無視して話を続ける。

「かといって誕生日を忘れていたら手に釘を打たれるし、付き合って一週間の記念日とか言って俺の童貞は奪われる。女は悪夢の象徴ですよまったく」

 冗談じゃない、痛々しい釘に打たれたであろう手を見せる。春斗は当然のように顔をしかめた、仮にも世界最強の異眼使いに数えられる男として、この態度はどうかと思うと祭は苦笑した。
 しかし聞いているだけなら高校二年生ながらにろくでもない経験の持ち主である。

「ちなみにそいつの名前は寒椿ですよ。よりにも寄って英雄の異眼を持つ雷神の系譜、しかも三十代目当主ときた」

 日本に存在する異眼使いの中でも最大の名家である纏坂、英雄の寒椿、支配する眼芍薬、平等の眼聖上、その一つの家であり最も抱える異眼使いが多い名家であり。雷神の系譜と呼ばれる異眼使いである。ちなみに当主以外に寒椿の名を名乗る事を許さない家であり、通常は菖蒲と言う苗字が当主以外の血脈には与えられている。
 それを聞いてさらに春斗は、愕然としたような表情を見せる。
 寒椿の当主が色物であり、変態であり、惚れている男が居る事も彼は知っていたが、目の前の分家のものとは流石に思わなかったのだろう。

「まぁ、精神的な弱点を言葉攻めして、二度と私の前に現れないようにトラウマを刻み付けてやりましたがね」
「お願いだから、名家同士の関係をこれ以上悪化させないでくれよ」
「同じ名家なら、分家が拉致監禁喰らったときに、助けてくれ殺されるという必死の文面をただの冗談と勘違いして救いもしなかった宗家や実家、仁坂から紅坂まで、にそんな事言われくたくないんですが?」

 生徒指導室でのらりくらりと適当な会話をする春斗、彼にとっては十二代目 王帝眼の春斗 は彼のそんな姿に嘆息する。他の分家や、家族とも違い、年齢が最も近い祭に対して弟のような感情を抱いている彼は、心配そうに祭を見た。たしかに彼にとってはとっつきにくい性格だが、弟を心配するのに兄が一々考えるような事も出ない。

 究極の異眼千眼、最強の異眼王帝眼。

 だが彼は聞いている、千眼王が言っていた言葉を、最強の眼はそんなものではないと、その秘密は見識が握っている。
 全て認識する男である千里眼の分家の子、本当であれば破眼と呼ばれる破壊に特化した一乃坂、その系譜を薄めるほどの力を誇る見識の最強。見るという力の究極はまさに目と言うものの究極の意味での体言なのだが、今はまだ詮無き事である。

「そんなことはどうでもいいんだけどさ」
「十二代目拉致監禁挙句の拷問が、そんなことになりえるのですか」
「まぁ君だしどうにかするだろう?」

 春斗は、千眼王に対抗できる唯一の男。
 しかしながらだ、千眼王でさえなしえない究極の異眼、その可能性に近付くには見識が必要。さてどういう意味なのだろうか、女恐ろしい、女怖いと叫んでいる分家のものを見ながら彼は苦笑した。

***

 頭がおかしくなる。目から与えられる古今問わずの情報がいつも彼の頭を焼き続ける。
 情報が認識するより先に神経が焼きつくような痛みに心が狂う。

 そのためには封印が必要だ。あほな事に使った代償はひどいものだったけど、まぁまだ死ぬことは無いだろう。

 なんて眼だ、脳を焼くどころじゃすまないその眼の非常識さに俺はいつも涙が出そうになる。
 心臓の鼓動が嫌によく聞こえる、って何でこんなに激しくそのうちオーバーロードするんじゃない勝手ぐらいに心臓が叫ぶ。

「ったくどうにかならないもんかねぇ」

 この目はありとあらゆる物を見る、それは世界だけじゃない、全てだ。あらゆる物を見尽す眼、千里眼。同質の眼を二つ持つなんて異眼使いはこの世には俺ともう一人ぐらいしか居ない。通常の片目だけの異眼使いと、両眼の異眼使いでさえその能力の差は激しいというのに、見識最強といわれる千里眼を二つも持っている。
 ただ見るだけの容量でさえ、脳に対して異常な過負荷をかけるのにそれ以上の情報が頭にくれば壊れる事なんて必然。

 封印してももれる視界に、自分の持つ異眼の異常性を感じて軽くなきそうになる。
 この全てを見尽くす異眼は、どの異眼とも違う。主を蝕み食い殺す異眼だ、脳は既に幾つものダメージで悲鳴を上げている状態、これは確信だ。これは確定だ。

 一乃坂祭は、二十の年を迎える前に死に絶える。

 これは確定だ、この眼が確定的に提出した。俺の寿命と言う名の視覚、震える体をいつものように押さえつけながら、いつも通り、いつも通り、そうじゃなければ怖くて動けなくなる。この眼を抉り出して死にたくなる、

 冗談だろう?

 死にたくなんかあるものか。だがこの目は、己の未来さえも確実に見通す。
 その度に体が震える、何度も震えていつも通りに一つの事を考えそして死を忘れる。きっとそれは酒に逃げるような酩酊感、だがそれ以外に手段がないのだ。それ以外に手段が積み上げられない、どうせ俺はあと二年と持たない命なのだから。

 その前にせめて、奉の敵ぐらい討ちたいんだ。
  

TOP  次へ