外伝 勇者と串刺し
 

 
 
 


 


 千の願いと千の祈り

 その言葉に価値もなければ重みもない、人間が確固たる自意識の元に動くのであればそう。自分のためにしか動けない、涙を流す事さえ、人間とは独善で利己的な地球と言う星が生み出した究極の化け物だ。進化の流れを否定しないが、人間は化け物だあらゆる物を喰らいあらゆる物を押しつぶす。それはたかが文明を持ち出して数千年程度の時間で、大地に君臨した恐竜を超え、空を抜け宇宙に、そして星その物を破壊しつくすことさえ可能にした。
 世界で遊ぶと言う男がいた、彼はただひたすらに利己的で理性的な人間であったが、私は彼に操られるようにして世界を滅ぼした。転換期たるFSの過剰暴走、全てのFSを巻き込み世界中から文明を強奪し、命を奪いつくした地獄。
 だから人は僕の名前をこう呼ぶのだ、魔王 大路町 、そんな私の本名を川守元央、希代の頭脳使いと呼ばれたただの人間だ。

 −2章 二人の幸せを告げるための世界

 くるっと回って、岡山県名所ツアーを実行したが、残念ながらお客さんたちは気絶中。理由は、実生活では一生感じる事のないGを感じた為、ようはブラックアウトしてしまったのだ。
 折角料金外のサービスまでしたのに、気絶ばっかりする依頼人に多少憮然とした態度をとってしまうのは仕方のないことであろう。だが二人からしてみれば、お前こそふざけんなと思うのだろうそれは間違いないことだ。

 そんなこんなで彼らは到着した、水島。といっても今は企業は数えるほどしか動いていない、今は集落明けの花が統括している唯一の犯罪撲滅区画である。
 ここは不戦条約と不可侵条約が認定され、ここだけは平和なのだ。明けの花に所属する勢力 名代 と、凄惨たる臓花による盟約であり、そこには新開と言う名前があって始めて締結された条約である。

 理由は簡単だ、寝る場所ぐらいせめて安心したい。新開もそう思ったのか、その不戦及び不可侵条約に印を押した。と言っても期限付きではあった。

 ここには、静かだが幸せだと思える日常が広がっている。周りが異常すぎる所為で余計に、ここは際立って日常に見えてしまう。だが新開はこの風景を見るたびに思うのだ、この風景が異常に見えてならないと。
 しかしながら二人は違う、その光景を見たときほっとしたような表情を見せる。ここなら安心だと思ってい、今までのように銃声が響くわけでもない、悲鳴があるわけでもない、当たり前の笑い声と子供の声が聞こえる。

「ここが水島の不戦区域だ。ここで暴れる事は、犯罪都市全ての人間を敵にする事だと思ったらいいな」
「普通の風景だ、だが少しイメージと違う。この辺りは工業地帯だろう、そう言うものが見受けられない、元々沿岸の埋立地のはずなのに、橋も見当たらない。ちょっと驚きだ」
「橋は全部破壊した、幾ら不戦区域といっても。馬鹿を考えない奴がいないわけじゃないからな、だからこそここは船での移動が基本であり登録していない船舶は容赦なく破壊されるぞ」

 それは2000年と比べると川の量も多い、まるで枝葉のように幾つもに分かれて昔の水島に戻ったように水路がメインの交通手段になっている。これは堀と言う防衛手段であり、幾つもに分割した島は一箇所が滅んでもすぐに対応できるようにと言う意味が含まれている。
 さらにその区域を囲むようにして一キロと言う圧倒的な幅を持つ堀が存在しており内海大橋と呼ばれる端だけが唯一許された地上路であり外門と、内門に分けられる二十の防衛手段を兼ね備えた場所の彼らは内門前にいる。ちなみにだが外門が橋の入り口であり犯罪都市側であり、内門が水島側である。

「凄惨たる臓花所属の新開だ。開門頼むぞ、後二名ほど追加するが観光客だ、暴れるようなら俺が責任を持って殺すから気にスンナ」
『そりゃ気にするわけないじゃないっすか。この界隈で新開のなに手を出す馬鹿がいたらそいつはこの辺りじゃ生きていませんって』
「三十四区画は俺がいる間は対象から外していいぞ。あの界隈で暴れまわるなら、俺がどうにかしよう」
『あんたのいる区画で暴れられるのは、薬物中毒者か魔王ぐらいですよ。あぁ、忘れてましたがうちのボスが区画を広げたいから力を貸せって言ってましたよ』
「依頼は集落を通せと言っておいてくれ」
『了解しました、そう伝えときます。じゃあ開門するんで、少し下がっておいてください』

 「あいよ」と軽く返すと、降りていた車に乗り込む一応彼の車はここの登録車両なので移動には困らないが、門のうちに広がるのは昔の風景だった。
 そこで二人は、安堵の表情を見せ再度顔を真っ青にさせる。
 ここで又あの強烈なGを感じたくはないのだろう、だがこの区域には流石に速度制限もつけられているためそんなに怯える必要もなかったりする。それでもずしりとした重力が二人を押した。
 軽く三百は出ているであろう、だが制限速度を見て二人は唖然とする。音速に入らなければ問題なし、標識にはそう書いてあった。

「アバウトにもほどがあるだろー!!」

 当然浩二の悲鳴は却下されるように、車の速度は尋常じゃないところまで上がっていった。そして彼らの声はフェイドアウトしていく。

***

 マンイーターと呼ばれる銃がある、無反動の銃の総称であるのだが、男のもっている武器はそれに酷似していた。
 対力場用兵装 侵食力場 BT−002 烏 、力場兵器に対する完全優位性を持った武器である。男の名前を魔王大路街と呼ぶ、彼が支配している区画こそ倉敷の街、この街の勢力の中でも最強である魔王軍、その盟主たる王は、玉座から武器を持ち上げつつ立ち上がった。
 静寂の王城の中彼は特に言うでもなく歩き出す。家つんかつんと革靴の音が響いて彼の後ろに、軍勢が存在し彼らがまるで百鬼夜行でもするように歩いている。

 それは本当に百鬼夜行のようだ、そこにいるのは悪魔の軍勢。引き連れる王は、悪夢を作り上げる事になる最悪の魔王の姿だ。

「僕は、騙されて転換期を作り上げてしまった。だがその事に後悔は無い、僕はこの時代をこの時代のまま新たの時に変える」

 その王の侵攻と呟きは全ての人間に届いた。それは謝罪でもなく、ただの独白しかし彼ら軍勢は、人類史上最高の頭脳使いの言葉を信じた。
 彼らは既に、この時代に適合してしまったハグレ者、この手段でしか生きていけない事を理解していたのだ。もし時代が戻るのなら彼らはその瞬間時代から排斥される、魔王はそんな人間達を守ろうと動いたのだ。

 しかし転換期以前に戻ることを思う今の主流派は、彼らを許すことは無いのであろう。

 そしてこの犯罪都市もいつかは解されて消えていくのであろうと、彼らはそれが許せなかった。今この時代にしか生きていけない彼らは動くしかなかったのだ、それこそが魔王軍の本当の正体。
 彼らは自分の意志で動く、厄災と呼ばれた本当の始まりはこの犯罪とし平和の象徴水島に侵攻を開始する。

 まだこの世界の人間は知らない、薄ら寒い大崩壊の始まりを、そして魔王の名が世界に轟くそのときを、その狼煙たる水島の条約解除の日はもうすぐそこまで迫っているのだ。

***

「うあー、この街には来ない方がよかった気がするよ」
「ですねぇ、流石犯罪都市なんでしょうか?」

 寝室でベッドに向かい合って話す二人、護衛である新開は食事だーと叫びながら食堂に突貫をかましている。この辺りは普通の子供と思えるが、この犯罪都市において一目おかれるような子供であることを彼らは思い出す。

「護衛がいなければ絶対来ないねこんなところ。けどここはいい久しぶりに昔の光景を見た気がするよ」

 転換期以前から生きている彼らは、この不戦区域の水島で嘗ての平穏を味わっていた。あの頃何の感情もなく享受していた生活がここまで愛しいものだとは思いもしなかった。確かに犯罪都市はひどいが、他の都市もこれほどじゃないだけで犯罪発生率は、最も低いところで三十パーセントまぁ軽犯罪程度だが、高すぎる発生率である。ちなみにではあるがこの都市の発生率は、90パーセント殆どが殺人などの犯罪である。

 そう言う意味ではこの区域は歪過ぎた。
 堅牢な要塞のような場所ではあるが、その中にある楽園。どこの陳腐な物語だと二人は苦笑した。

「ここなら」
「そうかもしれませんね、ここなら一緒に暮らしても誰も……」

 この二人の旅は、彼と彼女は両親に結婚を反対されていた。と言ってもその反対の仕方は彼の札が二まで到ると言うほど過酷なもの、彼も近畿二十七区出身の人間だ。ここほどじゃないにしても、それなりに非常識な環境にいた。
 勢力 鈴剣 の長に彼は手を出したのだ。両思いとはいえ娘を奪われた、長は容赦なく彼を殺そうとした、滅びた理性概念は、娘の自由さえも簡単に阻む、そうやって二人は都市を転々としていったのだ。

「この都市ならきっと、僕達も幸せになれる」
「ここならお父さんもこない、やっと結婚できますね」

 二人はそうやって笑いあった。ここにくるまで彼らの人生は地獄だったのだ、鈴剣の追っ手が彼らを襲い、彼らは逃げる。それが彼らの時間だった、だが彼らがこの都市に来たとき追っ手はいなくなった。
 日本だけじゃない、世界を見ても類を見ないほど笑い事ではすまない都市、それが岡山と言う都市だ。例えばだ、彼らが新開と言う護衛を用意していなければ、あの場で彼は殺され女は陵辱、男の体はばらされて食肉売り場に直行、女は体に飽きられるまで犯され、終わる頃には精神がつぶれ性癖にもよるが手足がなくなるなど、分かりやすいほど無茶苦茶な地獄が浮んでしまうのだ。

 普通がそれなのであって、集落の護衛と言うだけでは意味は無い。数の暴力に普通の人間なら屈してしまう、集団で始めて護衛は動くのだが、だが極限の敗北王と呼ばれるメンバーは違う。新開と後二人のメンバーで形成された、犯罪都市の死の象徴。
 そもそも水島の堀を作り上げた存在自体が新開であるのだ。力場強制的に川を作り上げた、力場兵器使いの新開の実力である。そんな光景を犯罪と死の人間は見続けていたのだ、いやでも彼らと戦おうと思う人間はいない。

 彼女達は運が良かっただけに過ぎない。この都市に来て追跡者が彼らの追跡を諦め、そして偶然とはいえ最強の護衛を手に入れた。

 そして暗黒時代の楽園水島に彼らはたどり着いたのだ。

「ここで生きていけるんだろうか僕らは?」
「生きていきましょう、そのためにも明日からいろいろ回らないと」

 そういいながら二人は口をあわせて抱き合った。
 この時間が永遠に続くとその喜びを合わせて二人は体を絡めあう。部屋からは艶やかな声が響くが、流石にそれを邪魔しようと言うものはいない。ようやく来た幸せを享受するように、二人はお互いをむさぼりあう。

 だが突如としてそれを阻むように爆音が響き渡った。

***

「なぁにこの世界に幸せや平穏を求めると言う事自体が狂っているのさ」

 新開は神父と一緒にグラスをあわせながらそんな事を呟いた。別に法律なんかありはしない、十歳程度の餓鬼が酒を飲んでいようと咎める者はいるはずもない。
 琥珀色のウィスキーのみながら、愚痴のように彼は呟く。

「お前はまた辛辣だなぁ、この世界に平穏や幸せを求めるなんて当然の思考だと思うが?」
「この水島を見てみろよ、少なくとも外面も内面も犯罪都市どころか世界で唯一嘗ての世界がある場所だ、だがそれで意味があるか? あそこには一個の世界があるが、神父お前も感じているように、気持ち悪いだろう?」

 皮肉に歪める彼の顔は、幼いくせに形容しがたいほど暗黒を見せ付ける。
 首を竦めながらも彼の言葉に賛同するのは彼自身が今この場所にいる事、それ事態が場違いである事を確信しているからだ。

「全くその通りだな新開、お前の実験区域として折角作ってみたが。あの場所の居心地の悪さは洒落にならん」
「だが一応不戦協定に調印した手前、俺は何の行動もできないあの場所で、それ位の事はするさ」
「お前はしないだろうな、魔王大路町は違うだろう。あれはお前よりも責任感が強い、あの厄祭の偽言操られるようにしてFSを破滅させた男だ。あいつは自分の作り出してしまった世界の住人に責任を取るつもりだろうよ」

 それは産んだ子供に対する責任のようなもの。果たせる力があるのならば果たさなければならない、そう言う義務だ。

「けど俺はあいつと戦いたいと思わない。一応この世界に残った唯一の肉親だからな、関わり合いになりたいとも思わないがな。あれが転換期以前にいた究極の頭脳使いだ、あれを敵にしてまともに生きていける人間なんてそれこそ、偽言一人だけだったと思うぞ」

 世界が敵にする男の力を知って神父は冷や汗を流した。
 引き攣った表情を作るのは、世界最高の厄祭と呼ばれた転換期、彼を操るようにして世界を滅ぼした男のことだ。彼以外に対抗できる男はいないと断言する、それだけの人間であるのだ魔王という男は。

「四代目チームFLYのナンバー2だぞ、三代目から唯一残った天才。最強の峰ヶ島、究極の川守、異端の偽言、人類史上類を見ない頭脳使いたち、あいつはその一人だぞ。なぜ峰ヶ島が入っていない」
「あぁ、峰ヶ島は最強だ。だがこの世には存在しない奴の事を一々言っても変わらないだろうが、偽言と川守この二人しかいないんだよ旧世代の頭脳使いにはな」

 グラスの中の氷を鳴らしながら余った酒を一気に飲み干す。六腑に染み入る酒に、軽い酩酊感を感じるが軽く頭を振った。当然のように酒が急激に体に回るような感覚に囚われる新開、どうやら最強と言われる男ながら酒には弱かったようだ。後にアル中に成る程飲む男とは考えられないものである。

「ふらふらするなぁ、まだ成長期なのにちょっとのみすぎたか?」
「ウィスキー一杯で酔っ払うのに成長期とか関係在るか!! っとそれより、お前が川守の一人であるがそれは関係あるのか?」
「そりゃな、まだ親父が生きてた頃は、あの魔王とも交流がちゃんとあったんだぞ。当然あの厄祭とも、と言うか俺の母親が峰ヶ島だしな、だが残念なことに母親の血と親父の血を掛け合わせた子供は、究極と最強を掛け合わせたような頭脳使いにはならなかったよ。その代わりに遺産としてだが、峰ヶ島ブランド最高傑作であるあれと、力場兵器を手に入れた、正直要らないとは思うんだけどな」
「初耳だがお前も大概凄い家系出身だよな。あの峰ヶ島と川守の子供なんて結婚なんてあの時代だったら一つの大事件だったっていうのに、あのふざけた狂言回しがこんな素晴らしい世界に変えてくれた。ただ一人で世界を徹底的に引っ掻き回して大笑いだ、それだけのためにここまでの地獄が出来たんだから洒落にならない。崩壊したとき誰もが元にすぐに戻ると確信していたと言うのに、そうはならなかった辺りがあいつが異端と呼ばれるゆえんだろうな」

 そう世界が崩壊しても物理的損害ならこの時代の技術力であればどうにでもなる話だった。だがそこに一人の男が絶対的秩序崩壊を起こしていったのだ、当崩壊政治の中枢からありとあらゆる公的機関を破滅させた挙句、当時のテロリスト達を先導挙句に勝手に殲滅し、その残党達によって犯罪率の急激な増加、またあらゆる市場に対して無差別な妨害を加えて経済的にあらゆる国に大打撃を与えた。そうやってFSによる世界崩壊から数ヶ月で致命的な経済と秩序の崩壊をなしてしまった。

 元々FSという交通機関が世界を繋いでいた時代だ。その全てが破滅して残ったのはそれ以外の技術、だがそれさえも厄祭の男は徹底的につぶして言ったのだ。
 技術大国にして経済大国、世界中の全ての中心点とまでなった日本という国、そこにある全ての力を結集して彼は世界を裏返した。

「だろうね、だが今問題なのはそんな化け物の話じゃない。俺の依頼人の話だ、ここを黄金楽土とでも思っているとしか思えない、魔王と言うこの犯罪都市の支配者の名前を知らないと言うことが問題だ、既にこの不戦協定が出来て一年、俺がこの区域の守護に手を貸す時間は終わりだ」
「つまり、魔王軍が動くと」
「遅かれ早かれ、既に俺はこの地区から手を引くことは名代には告げてある。そのためにこの地域に半年振りに着たんだ、護衛はついでだがな」

 しかし、さらに彼は言葉を繋ごうとした。だがそのとき彼はそれ以上に、ひどい表情を作っていた、あらゆる感情をない交ぜにしてこねくり回したような。それは喜びであり、怒り、悲しみであり、驚愕、埋め込まれた感情の量に神父でさえ愕然とする。
 そしてそんな感情の中一つの感情が現れた、呆れだ。全ての感情を配して結局現れたのはそんなもの、神父は神父で引き攣らせながらも笑っていた。

「魔王ってのは実は馬鹿なんじゃないのか新開?」
「いやそうでもない、俺の守護条約が終わってからだ。俺は安定する一年ほどを守ると言っただけだ、その間荒くれを黙らせていただけ凄いと思うが。俺もお前も魔王側の人間だからな元々、こっちで生きていける分けの無い生き物だしな」

 警報が響き渡る、それと同時に爆音が悲鳴を上げた。
 一瞬にして怒号が飛び交い、悲鳴が彼らがいる部屋を揺さぶった。地震の様な振動が始まる、地獄の釜を開けたような始まりが動くのだ。

「これが侵食力場か、親父が作った汎用力場。プラス因子で作られた力場じゃない、マナイス因子の力場って言うが根本的には、同力場なんだが力場を消滅させる力を持つらしい、だが本当のこの力場の恐ろしさは、マイナス因子の力場を構築するだけでなく俺の燕同様に全能力場に近い性質を持っているところだ」
「だからお前が戦いたがらない訳か、唯一お前と互角に戦える戦力か。それでこの地震は、砲撃系の力場と言うことか」
「違うこれは外圧縮だ、通常の圧縮ではなく重さや重力そう言った、眼には見えない因子を、圧縮解凍する力場だ。出雲の三王の一人剣王の持っている武器だが、こいつはその力を少しずつ解凍することによって起こる現象に過ぎない。そもそもこれが、本当に行なわれたならこの水島は吹き飛ぶぞ、だが魔王はそんなことはしない、それより凄惨な地獄をここに作るんだよ、多分もう堀は全て潰されただろう、最初の爆音がそれだ。力場使いが本気になればその程度の事出来ない方がおかしい。それに今俺がここにいることを知っているのに、戦力を皆殺しにされたいと思うほど馬鹿でもないだろう?」

 そんな事を二人でのんきに喋っている間この店に攻撃が来ないのは、彼が力場閉鎖を行なっているからだ。
 彼はゆっくりと立ち上がる、面倒くさそうな顔をしながらも依頼だけは、こなそうとするのが彼の性格だ。性格は腐っているが、彼の達成率は十割である、特に目指しているわけでもないが、自分の仕事だけは彼はきちんとする男だ。
 燕と呼ばれる力場兵器が、彼の手元に駆動音を立てて、展開された。その形は烏よりも大きいが同じような形をした銃である。そのままでも圧縮された空気をそのまま発射することも可能であろう武器ではあるが、彼が軽く腕を振るうだけで、周りから悲鳴が響き渡った。

「取り合えず護衛にいって来るさ、俺はあいつらを殺したくてならないけど依頼じゃあな」
「俺は取り合えずここにずっといるから終わったら迎えに来てくれ」
「あいよ」

 魔王の時代が始まるその最初の事件、丁度ハロウィンのときに起きた事件からハロウィン事件と呼ばれるが、ただの犯罪都市の抗争と当時は思われていた。だが誰もが後にそのことを後悔する、ただ敗北王達だけが笑う。
 彼らはこんな事が起こることをずっと理解している。敗北王と呼ばれる彼らの笑み、この時代の永劫楽土の地獄は、知らず知らずのうちに広がっていったのだ。

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