一章 抜剣戦争始動
 




 ――――――お願いです、私の声を聞き届けてください。あなたは血だらけになって何度も何度も死に掛けていると言うのに、私の声は届かないまま、あなたと私は一つのはずなのに、ねぇ何でなんでしょう。
 お願いです、私はあなたと一緒にいたいのです。お願いです、私に早く気づいてください。
                                          ――――――――■■■■禁止対象


「あうあーーーー」

 のんきな声が響き渡る、辺りは石に包まれた監獄のような場所。だが彼には見慣れた光景だ。
 
「おや、特攻馬鹿が目を覚ました。おはよう、刀馬鹿、魔術師に喧嘩うるなんて正気の沙汰じゃないぞ刀一本でな」
「これしかないならね。セーヴァング、魔術師ぐらいに手間取るようじゃあ神の剣たちに届かないじゃないか」

 それは血戦から流れること二年と五ヵ月後の世界、彼は魔術師の楽園、最大最強の軍事国家の医療室に連れ込まれている。火傷に凍傷に上げたらきりがないような多種多様な傷を体に刻んでいた。
 時代はすでに剣術というものを見捨てた、魔術という兵器が完成に近い今その意味をなさないのだ。無意識で展開された障壁に、無制限に近い魔術行使、集団による大規模破壊魔術、身体強化や回復さえ、ほぼ傷つき次第すぐに行えるというその異常性。しかもその全てに詠唱は使われない、魔術師たちはすでに人間ではない。 
 ただの人間がかなうスペックではもはや無い、人間が彼らに勝っているものなんて数ただそれだけなのだ。
 
「またそれか、神剣達にかなう訳が無いだろうが。魔術師一人戦って勝てたことが無いくせに」
「だからどうしたんだよ。何度も言ってるだろう、僕にはこいつしかないんだよ」
「時代遅れも甚だしい!!刀だったなその武器は、かつてのソードキングも使っていたがそんな武器にいまさら何の意味があるというんだ!!」

 呆れているセーヴァング、いやそれはすでに怒りだろう、加熱した怒りは光のように燃え上がる。
 それをそのまま彼に吐き出すと、当たり前のように少年はいつも笑った。

「ここには僕の全てがあるんだよ。これ以外に僕は無いからね」
「あぁ、またそれか。怒りも通り越して呆れる、お前の恋人はそいつかよ」
「しっかし体が痛いよー、ったくなにあの旅団連中すこしは手加減てものをしないかなぁ。腕千切れかけただろ、後足も二・三本いってた記憶があるぞ」

 それも魔術のおかげだ、ここは最強の軍事国家であるがそれと同時に最も魔術師が集まり魔術の研究の先進国でもある。
 この程度の傷ならある程度の金をかければすぐにでも直してもらえる。最も今は戦時中、兵士たちが傷を負う事があれば直すのは当然のことだ。

「人の話を聞け!!大体お前の場合は生きてることが奇跡なんだよお前は、命知らずの突貫野郎。お前これまでの戦いで全部大笑いしながら特攻して死に掛けてるんだぞ、前線でのお前の呼び名知ってるか?」
「知るわけないだろう、一応これでも戦闘があるとき以外は行ってないけど学生だぞ」
「学生が魔術師戦闘のときだけ刀を振り回して突貫するか。神風−デヴァインウインドウ−じゃなくて神風−カミカゼ−、しゃれになってないにもほどがあるぞ。アヅマの出の人間でも神風は無いだろうが!!」

 特攻魂もいいところであるジャストネーム。

「いやいや、ぴったりだ」

 フォローのように口を出す、最もフォローを出す人間が本人で無かったらだろう。しかも笑いながらのオマケつきである、プライドのかけらも無い発言だ。
 怒りと呆れの循環を繰り返しながらぶちぶちと文句を逝くセーヴァング、だが思い出したように泥に汚れた鞘を彼に投げ渡した。

「ほれ鞘だ、毎度毎度投げ出すとは鞘は刀を休めるための場所だろうが捨ててやるな」
「いや、本当は必要ないんだよ。ただ僕もこいつもまだ到ってないからね」
「お前らアヅマの人間はつくづくわからん、到るとか到らないとかお前はそれ以前に死ぬだろうがこれ以上やったら!!」

 頷くだけは彼は頷く、ほぼ完治した体だが直ってすぐの動くのはさすがに体に悪いのだがギチギチと錆付いた様に動かないからだを無理やりに動かし刀に手を伸ばす。
 血をすすりたいと騒ぐように刃は濡れた様な光を放っていたが彼はにこりと笑うとその刃を鞘にしまう。

「まだだよ、死ぬわけが無いさ今迄だってギリギリでは見切れてるんだ。・・・・・・・・さてそろそろ訓練があるからいってくるよ、次は死にかけない様に努力するからさまたよろしく」
「馬鹿が次で死ぬ可能性だってあるだろうが」
「そんなこと無いよ、あと少しの気がするんだ。それで刃下の元で生きていける、本当にそんな気がするんだよ」

 軽く手を振って医務室から出る彼、ため息を吐くのはセーヴァングその人だ。
 実際の話をしよう、彼はその戦闘で功績と言う功績は挙げていないがそれでも役にはたっていた。彼がその致命傷を追うまでにかけた時間は二時間と半、カミカゼと言う男は前線かではいろいろな意味で有名すぎるのだ。何度神でも生き返るリビングデット、なんど倒れても歩み続けるリビングデット、笑い続けるリビングデット、まぁいままでリビングデットしかないのはそれほどまでに彼が死んでいないからだ。
 本当に彼は馬鹿である、魔術師たちの魔術を甘く見すぎていると言えばそれまでかもしれないが。リビングデット呼ばわりされるまで戦い続けているのだ普通の人間なら一度もしないその馬鹿な行為を、この国に着てから二年彼はその前線の地獄を味わい続けてる。
 
「刀だぞ刀、時代錯誤所の話じゃないと言うのに」

 セーヴァング=クロシックロ、彼は何度も同じことを言う。少年も何度も同じことを返す。

「それでも前線で死傷者がでいないのはお前が居るからと言う事もわかっている。だが!!あれ以上はお前の命にかかわる、それだけの命はすでに助けただろう?」
「知るかよ、何度も、何度も、言ってるだろう。剣の下で朽ち果てたらそれで十分、それ以上僕は望んじゃいない」

 扉を閉める最後に、彼はいつもの台詞を吐いて出て行く。

 剣の下に

 そして彼はいつものように繰り返すのだ。彼の出て行った部屋で、

「狂ってる」

 だがすでに彼は剣鬼だ。祖父を殺し、刃の下でしか生きていけない一つの化生と成り果てている。
 誰から見ても狂っているとしか言えず、誰から見ても狂っている様にしか見えず、それでもなお誰が見ても彼は正常にしか見えない。もしかするとその所為で彼は心配するかもしれないがそんなこと等に狂い果てた彼には関係ない。

 とっくに彼は人外にして包刀のの鬼である。

 魔法万能の時代と言う単語を全て叩き伏せるように彼は、前線に立ち魔術師たちと真っ向から打ち合う。身体能力で劣り、火力で劣り、ありとあらゆる面で彼は魔術師に劣っているのだ。
 そんな時代の役立たずで不要な剣客、だがそれでも貫く意味はあると彼は笑っている。
 いやそれを知っているからこそ彼は刃を取っているのかもしれない、彼にはもうこれしかないから鞘に納まった刃彼にはこれだけしかない。選択肢を定め動き出した人間はもう止まらない、信仰にも似た妄信だ。
 だがそんな道を貫くからこそ綺麗に見えるのだろう。いや彼の場合は斬り開いて行くと言うのが正しいのかもしれないが。

 だが彼は生きているのだ、その刃と共に、その刃以外では生きていけないその道に、狂っていて当然、狂っている、彼は狂いすぎているのだその刃に見初められ、その刃を見初めて、彼はいまだに休み続ける刃に彼はとらわれ刃はとらわれている。

 使い手を選ばない刀 斬裂−ヒキサキ− に、彼はセーヴァングに何度も言っている。こいつと一緒に歩き続けると、僕の目指している道に一つの到達点があると、笑いながら何度も言っている。
 彼にはこの刃しかなく、この刃にも彼しかいない、それはきっと二人にとっては幸せなことでやっぱり回り彼見ればまがまがしく気が狂っているとしか思えないのだ。

***

 世界は振動を始めていた、嘗て虚無に揺らぎが始まったように。

 この広大世界とて同じことである、不満と言う振動が爆発するまでそう遅くは無い。いつかいつか、きっと起きると言う今は停滞の時間、平穏がいくら続いても屹度その平穏を拒絶するものは増える、戦争と言う憧れが発生する。

 それは唯の小競り合いから、やがては引けないような地獄を作り上げる。

 そして誰もが思うのだ、何で俺たちは戦争なんてしてるのだろうと・・・・・・・・。だが後には引けなくなった以上どちらかが死ぬまで潰し合うしかなくなる。

「納得の以下無そうな顔をしているな神剣、この国唯一の最強がまさかこんな下道なために使われるとは思っていなかったが仕方ないことだ」
「あぁ、分かってる。我は騎士だ、王と民に忠誠を誓った、そのためにこの戦争を始めるのだろう」

 そうそしてたいていは大義名分の下に始められる。そういった地獄の生成は。

「期待している最強の刃、刃の騎士、剣王ラゲンド=エイス。あそこだ、君やほかの神剣を生み出してきた学び舎。カイエダ訓練校、叩き潰してもらおうか」
「分かってる、後の禍根になるようなものは早々に消しておく」

 大気が歪む、世界は歪む、風はあえて純粋なものではなく無駄を加え、雷電を作り上げ、炎を作り上げ、大規模破壊魔術を形成する。

「さぁ、始まりだ。破壊は盛大に振りまいてくれ、ここは囮に過ぎないのだ。目立ってくれないと困る有罪判決だぞこの前大陸に渡る法律によって処断されなくてはならない国がここにあるのだ」
「っ!了解している」

 そういつでもそうなのだ。
 自分たちの行っていることが正しいと、全ての人間は思いながら全て間違っている。そして当たり前のように人は死体になっていく、正しいことなんて世界にあるわけが無いと言うのに、自分は正しいそんな妄信を信じて。

 致命的な間違いを繰り返すのだろう

 それが戦争であれ人生であれきっと同じことなのだ、証拠がこの爆音である。

「ひとまず始めようこの国が滅びるまで」

***


 刃が放たれ大地に伏せる・・・・・、木はまるで当たり前のように切り裂かれ地面に落ちた。

 だがここに彼の技量は一切必要ではない、その剣において斬鉄とはする必要の無いものでありましてや彼にはそのような才能持ち合わせてはいない。剣術と言う技量において彼は無才の人間である。

「ふっ!!」

 呼吸と共に一振り、しかしながら彼は刃を使うことしか許されない才能を持っていた。

 刃と同調すると言うべきだろうか、無意識にその刃と共に在ろうとする才能だ。これをもって彼と彼女は到ろうとしていた、理合と言うには程遠いその稚拙な才能で、だが彼ほど刃に愛されるものはいないのだ。

 彼の体はすでに頭の先から足の先まで全て斬裂のためにある、そのためだけに彼女を振り続けていた。筋肉からその手の形に到るまでその刃のために作り変えてきたのだ。

 それが彼の才能、無意識ながらその選択肢をなくし全てをそれにかけると決めた彼の才能である。

 ―だがいつもは彼はこんな無意味な破壊をしない―

 刃を振るのをやめると彼は息を吐く、それはどこか涙を含んだ声。刃を休ませることも無く正眼に構えた、剣術において最も美しいであろう構え。
 しかしながら彼のその構えはどこかぎこちない。思考の剣でありながら彼は最も効率のよい構えをいやあらゆる剣術においての構えを苦手とするのだ、彼の構えは無構えに限りなく近いのだ。
 だが間違いなくいえることがある、彼は構えではないのである。

 ぶら提げて持っているだけ。

 無構えとはつまりは相手の後の先を取るための方法の境地みたいなものなのである。相手に無理やり討ってこさせる意味を含んでいるのだ、彼はそんなことが出来ない、出来るのは武器を振るうことだけ。
 相手の思考を読むことが出来ながら、思考の刃でありながら、後の先を彼はとろうと言う思考が無い。それだけの力量が無い。

「やっぱりなぁ、心構えは出来てるのに何でこういう構えは苦手なのかなぁ」

 構えさえまともに出来ないと言うのに、それでも彼は才能溢れ剣術と言う極みにいた祖父を殺したのだ。
 それで彼は到れると信じているのだ、剣と共に剣としての至上を、人きり包丁ではなく剣と一緒に剣としての至上を―――唯全てを切り伏せる―――刃としてその全てをかけるにふさわしいと信じた刃の話。

 唯それだけのことである。

「ちょっとやってみるか」

 彼はまた正眼に構える、ぎこちないその構えから武器を振る。ぶうんと不恰好な音が響く、その瞬間彼は溢れるよな殺気を放った。

「駄目か、ごめんね斬裂やっぱりいつもどおりじゃないと刃さえ僕はまともに触れないらしい」

 正しくは少し違う、あのぶら提げて持つと言うその方法が斬裂において最も相応しいものなのだ。先ほども行ったが彼は、斬裂のためだけに体を作っていった、その刃がふさわしい形に全てを昇華させて行った結果が、今の彼の状態。
 正眼の構えさえぎこちなく見えるのは鍛え上げて行ったその過程においての拒絶反応、刀と共に歩むものが無意識に感じた刃の拒絶である。

「わかってるんだけどねぇ・・・・・、最悪だよ。あれだけやってもまだ魔術師達の相手にさえならない、どうしてもあれ以上踏み込めない、分からないもうすでに最前線の最前面に出てるのに、絶対距離−キルゾーン−にさえ踏み込めていけるのに、物理的な距離が五十メートルも空いてる」

 50メートル、それはこの世界の魔術戦争における絶対死亡範囲のことである。

 通常の魔術の射程距離は最低射程約三百メートル、戦争で使う異状その程度の射程は不可欠だ、だが精神を消耗する簡略系の魔術の射程はちょうど五十メートルと言ったところ。通常の魔術が100つかうとすれば、簡略系は1、発動ラグさえも無くほとんどノータイムで乱射される。
 その必定死亡距離さえ呼ばれる五十メートル、通常魔術師でさえ踏み込むことが容易ではない。聖剣そう呼ばれる魔術師階級の者たちだけがその範囲での戦闘を許される、無謀地点。瞬時に肉の塵に変わる、挽肉生産工場。

「けどもう少しなんだよね。きっかけがあれば、後一つの足が踏み込める、そこに斬裂と僕が必要な何かがある気がするんだよ」

 そうだよね、語りかけるように彼は武器を握り締めた。
 刀から返答が帰ってくることなんてありえはしないと言うのに彼は嬉しそうに笑うと、武器を降り始めた。

 そこにあるのは我流の癖ではなく、剣と共に歩むと決めてそれを歩み続けるものの一つの境地のような。刀が喜びの声を上げるように、しゃんと鳴り響く、もはやその一振りは別次元にあった。
 神の御業、そう呼ぶにふさわしく、そう呼ぶのに疑問しか浮かばせない、無才の境地。
 その空間にあった空気さえも切り裂いているのか、こぅと言う風の音が彼らの回り響く、何度も何度も同じように武器を振りながらその速度を平然と上げていくしっと言う声と共に刃は破裂しながら幾栓もの刃の軌跡を描いている。

 いつもの訓練、だが今回はいつもとは言いがたかった。

 城に向けて雷光、爆炎、視認さえ出来ない衝撃、まるでSFの世界にでも迷い込んだような科学的、いや否可学的な、いつかの未来に使われるようなその宇宙的幻想的、そして何よりも非常識なその破壊、その事件は起こる。
 
 その地獄の名は、風の魔術、王帝階位 7−16 すでに魔術としての名称さえなくししまった集団大規模破壊魔術。
 そしてこの魔術こそが後の深きまでに響き渡る戦争、全ての国を巻き込んだ大戦。剣王戦争序幕―抜剣戦争―の始まりにして最初の事件、カイエダ襲撃事件、始まりののろし。

 なんにしろ彼にとっても、この世界にとっても始まりなのだ。

 だが、とりあえずは生き延びないことには始まらない。大規模破壊の魔術の余波を受けた彼は吹き飛ばされる、ダメージは無いが、擦り傷などが目立ち血が滲んでいた。動転していた意識を修正するまでに数秒、斬裂を握り締める。

 そして威力を見て呆然とする。その一撃はカイエダ訓練校だけではない、国そのものを抉り取っていた、屍さえ抹消されて王城の守護方陣を奪い去り線を越える民をすりつぶした、集団規模でさえこの威力が出ることは無いと言うのに、だからより一掃彼の刃を持つ手は強く握られ、口が裂ける。

 誰がそれを使ったか彼にはわかるから。

「・・・・・・・・・・神剣だよね、明らかに、神剣だよね、神剣だ、神剣だ、神剣だ、死ぬね」そして斬裂ではない刃が抜かれる、それは狂喜、それは狂気、それは兇器、それは大字土明−刃−、引きつった表情を変えることは出来ないだというのに、あはははっははっはははははは、大笑い、抜刀、走り出した。
 いまだ鳴り止まぬ悲鳴と地獄の中に、いまだ破滅し続ける地獄の中に、絶対死亡範囲それさえ生ぬるいであろう最強の死滅範囲に彼は、引き裂いていく。

 途中訓練校の生徒が逃げていくのを彼は確認する、それとは逆の方向にいるのだろう。彼は走る、彼は走り抜ける、逃げ出すその人間全てが彼の邪魔をしなが・・・・首が宙を舞う。胴が途中で転がる、そのまま足だけが走り抜ける。
 容赦など無かった、それは多分神剣、それは多分土明、真空の刃と純正の刃が、逃げ去るものを殺し、壁を排除する。

 彼は爛々と目を輝かせている、それは刃の使い手なのだ、二年と五ヶ月と二日、三時間、三十七分、二十八秒ぶりの剣士。それがたとえ神剣であろうと、いや神剣だからこそ彼は走り出す、刃に魅せられ、魅せた、その剣鬼が一人。たったの二人しかいない軍隊めがけて何の策も無く激進する。

 走る、奔る、速疾る、視界にある邪魔な壁を両断し、べちゃりと頭から雨が降り注ぎ、紙一重の内に避ける敵の一撃を壁で防ぎ、壁なければ刃で切り落とす。

 だが歩みは止まらない、その為だけに彼は戦場で地獄を見続けているのだから。そうまだ五十メートルと言うその死の領域は見えていない、策もなく彼は唯的がいるはずの方向に走り続ける。息が荒れるのだって彼は理解している、止まれない、彼が打倒されるにふさわしき使い手がこの先にいるのだから。

 国が潰れ様が知ったこっちゃ無い

 そして人間の過去形がそこには吹き散らされる、何か不恰好な手袋が宙を舞い、半分しか紙の無い鬘が地面を転がる、頭と足が融合した新たな生物が悲鳴を上げ絶命していく。その絶命範囲はおよそ一キロ、五十メートルなんて非ではない、それが神剣の常態での実力。
 だが歪んだ狂喜にうずもれた彼は、その範囲を軽く踏破する。まるで襲い掛かる魔術の形式を理解しているように、いままで出来ないと悔やんでいたその絶死距離を彼は斬り裂いていく。

 致命傷を及ぼす魔術を思考時間零−シークタイムゼロセコンド−で避けながら。
 彼は魔術師のように最強で最大の力は使えない、彼が使えるのは細緻の極限、だから出来る究極に近いその体捌き刀と共にあるその異常の極み。

 そして彼は見つけた、その爆炎の彼方、暴風の檻の果て、暴雷突き破る不可侵の領域、その果てにその極限に、二人の男が戦争を行っているその光景を、鞘を投げ放つ、さらに速度が加速するすでにもうその最悪ともいえる三つの守護者を惨殺した彼は、一人の男の首を切り飛ばし、

「な!」

 そこにいた存在はまるで人間ではないように見えたであろう、一切の躊躇無くそれは刃を放つ。
 首を切り飛ばすためだけに刃を振るい、神剣と言えどその―単純明快―そのあまりにすがすがしいまでの一撃に避ける事などかないはしなかった。

***

 その男は尋常ではない精神状態としか言いようが無かった。
 あらゆる存在を皆殺しにする 刃の魔術師 ソードキング 、嘗ての剣を操るものの最強の称号にして無能の証拠。
 現在の魔術師においてそんなものは意味が無いことぐらい誰もが承知だ。しかしながら今まで二十にわたる代をつなげてきたその剣王の称号、当代二十五代目として彼はその称号を受け持つことになった、そしてその瞬間剣王の称号はまた最強へと返り咲いたのだ。
 実際こと剣においても二十四代目と同等ともいえる力は持っているだろう、かれは魔術、剣術共に他の追随を許さぬ才能を持っていた。

 だがどうだ、その男は魔術を操ることしかせず、魔術がなければこの男に首を跳ね飛ばされていたと言うのに。

 ばきりと、障壁が刃をさえぎった。思考するまもなく常時展開されている王帝階位級さえ容赦なく弾き飛ばす最強の盾が、震えが走るほど異常な一振りを弾く。

「始めまして神剣、僕が死ぬまで付き合ってもらおうか」
「御身、人のみでよくもまぁこのあの距離を踏破したものだ。それどころかまさか我が国の魔道将軍の首さえ跳ね飛ばすとは、それもただ人間が凄まじいな」
「あれだけ壁がいたらそりゃ盾にもなりますって、邪魔だが何人か切り飛ばしましたけどさ」

 平然と古き侍の放つ言葉に戦慄さえ抱く、壁が何か聞くだけで分かってしまった。
 
「外道の一つか」
「いや、外道はあんた。こっちは志のためなら何でもするこの世の塵」

 彼は「何を言いたい」そう言葉を紡ごうとするが、獣のような威圧が彼の言葉を許そうとしない。

「けど、簡単に止まれるほど僕の意思は遅くない」

 身体能力が強化されているとはいえそれは神剣であっても、十倍から二十倍までが限界。体の崩壊の保障をしなかればさらに踏み込めるが、自滅に変わりは無い、だからこそいえる。音速で抜ける刃をかわせる筈は無いのだ、反応も出来ずに切り落とされる。
 理解してても反応が出来ない速度、それが彼と斬裂が身に着けた必殺の一つ。さいど衝突音、障壁によって刃の侵略は防がれる。

 獰猛に笑うのは彼だけではなくなっていた。

「だからどうした、斬れもしない鈍らが刃を愚弄するな。早いだけの意志など価値すらない!!」
「ならここで斬れる様になればいいだけだ。芥が生きる刃だぞ、この執念 魔術 ごときの年数には劣らない、死に果てる刃、無才が極める唯一の一刀とくとご拝見ろ」

 勝てないことなどすでに分かりきっているのだ。
 実力を測れないほど愚かではない。
 無謀だと言うのは彼にと手先刻も承知の話、だがそれでも、

「どうせ我が刃に後退は無く、撤退は無い、命は無く、常に刃の下には二つの化生があるだけだ」

 引かぬと決めた刃があって、逃げぬと決めた刃あがあって、鈍らと呼ばれる理由などはありはしないというだけ。
 視界に展開された陣が、木の根のような世界を侵略する魔力がその威力を象徴し具現させる。唯彼は腰を落とし敵をまっすぐに見据え、動き続けていた体を休めるようにその場で相手の動きを伺い始めた。
 認めさせなければいけないのだ、死ぬ前に、この斬裂と自分は鈍らではなく―――――――最強の刃である証明を

 その陣から放たれる、陣に以外から放たれる魔術、計算結果は四十万七千六百十八の銃弾の雨。回避不能の攻撃が彼を貫く、はっきり言えばそれでおしまいだった。勝てるはずなど無いのだ、爆音が彼を消し去る。

 だがそれを彼は踏破する、その最強の悪夢を唯一歩の行動で致命傷を避け、爆風を背にさらに一歩、追い風を浴びてさらに二歩、合わせて弾け飛ぶように三歩、再度斬激当たり前のように障壁に阻まれる。
 背中には破裂した破片が突き刺さってはいたが、袈裟懸けに一刀、一撃必殺のように出されながらそれさえ弾かれ無防備になる。だがその程度で止まるなら彼はそれまでだその威力を抱えたまま地面に手をつき一回転、一瞬で視界の死覚に入りさらに一撃。
 
 一合にて必死、甘く見すぎているのはどちらか明白。

 どちらが魔術さえ無ければ殺されたいたかなど明白。
 
 神剣は舌打ちする、彼は視界にさえ入ってこないのだ。魔術戦というものを分かりすぎている、人が魔術師に勝つには追尾性能のある全魔術から外れなくてはいけない、そして零距離では力のある炎と言った魔術は極力避けなくてはならない事を、自分の魔術であればダメージは無いがそれでもなお精神に来るダメージがある。
 精神のダメージは魔術師においてはちめいてきである、魔術の使える数や威力などの減少につながるからだ。
 精神力を上回る魔術を使えば致命的なダメージを及ぼす、だからこそ魔術師の使い方は限定されていく。そのために精神高揚系の薬を戦争時魔術師達は服用する、もっともそれは現代で言うならアッパー系の麻薬に過ぎないのだが・・・・・・

 だがそれは間違いなく消費される精神、数量で語れない人間と言う名の弱点−精神−。

 そう彼は唯それだけのために視界からはずれ精神を無意味に浪費させるために、怒りを利用し精神をつぶしていく、斬られないとわかっていても。顔に向かってぶこまれれれば、足を跳ね飛ばすように振るわれれば、首に衝撃が伝われば、人間と言うだけで精神の消費が行われる。


 しかしながら彼は一つだけ失念していることをがある、大字土明、その目の前にいる存在の名を忘れたか?


 神剣、剣王、全人類規格外、最強、最低最悪、完全なる悪夢、一つの要塞。
 ずっとここのままであるはずが無いのである。ダメージどころか精神なんて一切の容赦なく吐き捨てる、定石と言うのは常に破壊されるためにあるのだ。

 彼は踏み込む、そんなことを忘れたように・・・・・・、呪刻、が足元に発生するそれと同時だ。彼が衝撃によって百メートルほど吹き飛ばされたのは。
 勝てるはずは無いのだ、わかっていた事だというのに土明はその全身の体が破壊された痛みに耐えるよりも足った今起きた敗北に対して殺意をこめる。一瞬で武器を振るう腕は破壊され、足は動くが間違いな動かせは地獄のような激痛に身を焼かれる、いや訂正したほうが良いかもしれない当に焼かれた。

「ぎぃ・・・・あ、ぐ、ああああああああ」
「正気ではないことは理解していたが、そこまで死にたいものか鈍ら?」

 呼吸は一瞬止まった、鋭く睨みつける彼の目はやけにおどろおどろしい。
 
「い・・・・、ふぅ。御託は良いじゃないか、彼女を持つときに決めたんだよ全てを捨てる代わりに退かないって。くそ爺さんもよくこの状態で話せたな意識が簡単に飛びそうになる、まぁいい両腕が壊れたってまだ戦える。斬裂、一緒に死んでくれないか?」

 地面に倒れていた刃を蹴り上げ、木の鞘を噛み千切るように咥える、バキバキと言う音が響き、音が止まった瞬間口から血がこぼれ、また彼は絶死の道を走り出す。

 万単位と言うがそれは回避できる量ではないのだ。人間の身体能力では当に限界と言うのに、彼は踏破する、彼は走り抜ける、彼はその自分を殺すであろう全てを閲覧し踏み抜いていく。
 爆発を追尾の誤差を挙句にはあえて魔術に当たり推進力とかえる、まるでそれは羽根の様に翻る。

「まだ戦い足りないか!!勝負は当についていると言うのに!!」

 もし口が利けたらな彼はこういうだろう、そんな事は無いと、生きているのなら勝負はついていないとだが次に来たときが決着なのは彼にだって理解出来ている。もう一度あの属性は何でもいい全周囲攻撃が来たなら間違いなく彼は動けなくなる。だが止まれないし止まろうとなんて思わない、すでにもう十メートルと言う距離まで来ている。

「死ね」

 そうとしかいえまい、敵はもう手負いの獣油断をすればその瞬間喉元を食いちぎられる。
 ドンと言う奇声、大地が悲鳴を上げたようにぎぃぃぃぃぃぃと鉄をすり合わせたような音が響き世界を振動させる。大地は身を引き裂かれながら、辺りに壊滅的な打撃を上げながら死体を生成していく。
 まるで大地を無理やりえぐったような後が広がり彼を中心にクレーターのようなものが出ていた。 

 ただひとりそこに獰猛な獣が、世界を斬り断ち、さらに一歩駆け出す。

 斬裂という刃は使い手さえ選ばない刃だ、だがそれは同時に使い手がいなくても最大限の効果を発揮する刃ともいえる。斬裂とはつまり名の通りの武器、触れたもの一切を切り裂くと言う刃、唯の風程度であればその威力一切微塵に変わりなく斬り飛ばすことが出来なくて何の刃と言えよう。

 そして何より刃として生きようと決めたものがその程度の風を切り裂けなくて何の刃と言えようか?

 震えが走るような刃、止まらず唯走り続ける無謀の刃、だがそれでも魔術に逃げた剣術使い一太刀も浴びせないほど落ちぶれてなどはいない。その証明がそこにはあった、袈裟懸けに切り裂かれる神剣、止まることさえ知らない刃が一瞬とはいえ神剣を上回ったその一瞬である。

 だが残念ながらそれで終了それで閉幕、いくら神剣を傷つけようとも、一撃で殺せなかったのならそれでおしまいだ。すべてにおいて規格外の魔術師である神剣において自動修復魔術が他の魔術師と比べ用も無いほどの効果を発揮してしまう。普通であれば致命傷であったかもしれないが、それは斬られた瞬間には蘇生が完了、再度魔術で弾き飛ばされ、彼はそのまま動かなくなった。

「な、こ、な・・・・っ!!」

 ぶるりと震える、あの一瞬勝利を確信した瞬間。そのタイミングで刃が放たれた、まるで狙ったように、剣術の腕前如何こうと言う問題ではない。
 あの一瞬を作り出すために己を破壊しつくしたとしか思えないようなそんな完全完璧のタイミング、それは剣術使いとして自分が持っていない才能の部分。幾多の実践から作り出される戦術理論、彼はそれ自分のものにしていたのだ。

「鈍らどころか、化け物か。憎らしい私があきらめた道を平然と歩むか、そうして朽ち果てたらお終いだがな」

 皮肉と羨望をこめて彼はつぶやいた、そして風の魔術が彼を切り苛むまで、その羨望は一度としてなくなることは無かった。だがこの事件はこの程度で終わるほど根の浅いものではない。

***

 さて疑問と閉幕から解消していくとしよう。
 結局の話作戦自体は成功だったと言えよう、大軍師ゴドバズ=スローリは死亡、千鬼王−聖剣師団長−ブゴルドルス=ゼイベードは重症、そして完全多重魔術式結界 ハザマ は、前十二層結界中十層までが使用不能となり。
 ただし、神剣の投入によりその被害だけで終了した。敵国の被害は敵国の将、大軍師と渡り合える男 魔道将軍 剣王が殺された。そして先行部隊の全滅。

 そして一度過去に戻る。

 土明を切り苛んだ刃により彼の両手足は切断された、だがそれで終わったことは彼にとっては幸運と言うしかないだろう。
 止めとして放たれた、灼熱はもう一人の神剣が防いだ。

「筆頭、なぜこんな暴挙を無視するだけでよろしかったでしょうに」
「黙れ最強、わが国はこの国によって滅ぼされるだろういつか。それならば先に滅ぼすよりほかは無い、私やお前のような化け物を何人も抱える国だぞ王が民が震えて当然だ」

 最強と呼ばれた神剣は長い黒髪をむやみに掻き毟って神剣を睨みつける。土実やが死なないような回復の魔術を起動させながら、神剣の魔術はそれだけで偉大なのだろう、彼の両手足は全てが修復され始めていた。

「だからですか理解しない一般人を殺そうとしたのは」
「その辺の死体は確かに作戦だがな、お前が生かそうとしている男は違う、私が私の意志を持って殺そうとした。羨ましかったと言うやつだろう、私の慢心をことごとく狙い殺そうとしてきた、両腕は逝かれ体が死に果てながら。
 神剣筆頭である剣王ラゲンド=エイスを殺しかねなかったその男をな、本来であればその男が持っていなくてはいけない称号だろう剣王は、まぁもっとも私に負けたい条件王はやれんがな」

 嫌味を顔にまぶして、狂顔に顔を歪める。腰に当てた刃を抜き放ち、意識の無い彼に向けた。

「え・・・・・、けど事実がどうあれ。この国の邪魔になるのなら、同盟国アヅマの名を持ってあなたを処断します」
「ふざけるな兄喰らいが、お前と私が戦えばこの国は潰れるぞ。忘れるな私たちは唯の殺戮兵器なんだぞ、私は一向に構わんが戦うのか?」

 余裕を出している、戦力的には最強のほうが上だだが実戦経験の差が簡単に明暗を別ける。すでに陣を展開している剣王、いやでも迎撃しなくてはならないその事実にはが砕けるほどに彼女は歯を噛み締め睨みつける。結果はもう決まった、カイエダの崩壊。

「なんていっても意味が無いことか、今回の作戦は終了だ。最強、今回はこれで逃げ帰ってやる」
「そうですか、次に会うときは戦場なんでしょうね」
「当然だ!!そして最後にいい情報をくれてやる、神剣のうち八本は我らの国に味方した、お前らどうやって私たちの国に勝つつもりだ?」
「な!!」

 そう言うと剣王は、魔術を起動させる。陣展開が行われ、風の魔術が彼を飛翔さえた。

「次はこれ以上の地獄だろう、また今度会おう」

 真空を放ち、弾丸と変化する。衝撃が大地を振動させる、最後の傍迷惑、これから先は間違いな殺戮、手を振り下ろし風で世界を抉らせる何度も何度も何度も、死体達が宙を舞い雨となって大地に振り落ちる。
 べちゃべちゃと大地に栄養分が染み渡り、豊饒の大地が完成した。生命賛美歌が響き渡っていく。

「では、鈍ら共々戦場で」―――――だがその言葉だけは言ってはならない言葉だった。

 ばきんと何かの砕けた音響く、分かれていた二人の距離がゼロになる。まるで鳴動を繰り返すように刃吼えた、まるで咆哮するように土明は震えた、これが彼にとっての始まりになる、誰にとっても初めになってしまう、彼の姿が失せた。

 そして剣王が去る一瞬、黒き影が弾丸となり、疾走する。

 剋目せよ、その歪んだ目をこじ開けよ、汝らはすべてにおいての一本を見る事になる。

 歪むはずの道をたがえずまっすぐとは知りぬいた男の、たった一つの成果を

 生涯変わる事のない彼の字を

 刃とともに刃として生涯を生き抜くと決めた

 史上最低最悪で、史上最上最高の、全てを切り裂くと決めた刃

 我一切切れぬものなし−さぁ全てを切り裂こう−
 我一切の躊躇い無し−目の前の存在全ては敵だ−

 全ては刃の為に−all in one−全ては人の為に

「フザケルナ、僕と彼女は、一生涯において、鈍らであってはならない」

 宙を舞う足場を伝いながら移動するその影に誰もが呆然とした。そこまでするかと言う思いと、ここまで貫けるものかと言う驚きが、だがそれでも二度も切り裂かれてやるわけにはいかない。
 剣王は己の持てる攻撃と障壁に力をこめる、陣が発動すると同時に攻撃が彼腕を裂く、血流れるように後方へ伝うがいまさら止まるような男でない事は剣王も承知だ。
 一瞬で零距離まで踏み込む男は、その命を代価として踏み込んでいるのだ。ならば賭ける物の差においてすでに剣王は負けている。

「鈍らなんて呼ばせてたまるか」

 それはまるで呪文の詠唱のようだ、その紫の刃が自分が、鈍らであってはいけないと、鋭い刃だと。

 そうそれこそ!!

 世界を切り裂かんばかりの意思を持って
 
「僕たちに斬る事の出来ないものなど在ってはならない、それが家族さえ捨てた僕の意志 大字土明 と、彼女の斬裂の唯一の決意だ」

 出現する魔術を悉く一切斬り飛ばし、傷だらけになりながらも咆哮はやまず。
 まるで戦争のようで―

「だから約束しよう剣王、お前の名はここで一切全てを奪わせてもらう」

 ―無慈悲で苛烈ででもそれでも

「綺麗だ」

 そう思えてしまう。
 美しくも愚かで、でも醜い処か煌いていて、美麗字句を並べながら罵詈雑言を歌う事が出来て、

 でも何よりもその彼の技量が

 神剣のその最大出力ですら紙のように切り裂く、その事実が間違いなく鈍らではない最低最悪最上最高の刃である証明となった。

 さて未来に戻ろう。

 結局のはない彼は耐え切れなかったのだ、鈍らと呼ばれる事に。化け物と呼ばれようとも、なんと呼ばれようとも我慢できたが、刃と生きると言ったものが鈍らと呼ばれた。彼にとってはそれが許せなかった、怒りは最後の命の極点さえ忘れさせ、その強靭な意思は刃に変わったように神剣に止めをさした。
 結果は無残たるものではあったが、魔道将軍、剣王、二人を殺した彼は英雄にふさわしい人物だっただろう。だがこれで話が終わればの話だ、これから三日後完全に傷が完治した彼は、勲章を渡される。
 そのときにいた神剣に斬りかかると言う愚考を行った。剣王を殺した刃の持ち主のはずがそのときには障壁にはじかれ、取り押さえられる。
 だが、斬裂と離そうとした際にそこにいた魔術師を殺し神剣から逃げ去った。

 カイエダ襲撃事件に告ぐ英雄の凶行、後の剣王戦争発端の男である。

***

 動けなかった、世界がいくつに分岐してもそれは当然の結果として起きただろう。
 剣王である私はその男に勝つ事が出来なかった、全ては慢心のうちに消え去ったものだ。だがいつでもその男は本気で微塵の容赦も無く私を殺しにきていた、結果がこれだ、私の魔術層を悉く破壊していた刃だが秒間に三千層も張られる障壁にそのスピードと推進力を奪われきる事さえままらなかったというのに。
 あの時は私は光を見た、世界ごと両断するために振られた刃。

 あぁ、あれに斬られて死ぬなら私は剣士として本望だ。

 羨ましい、魔術師として生きなくてはこの時代意味長かったと言うのに。あの男は祖のみでありながら神剣と渡り合った私が本気であったなら勝つ事は容易かったが、慢心なんてものの力を私は理解した。
 羨ましい、あれほどの技量を携えて最強であるはずの防御を打ち砕いて・・・・・・いやあいつの場合は違うのか切り裂いてだ。
 羨ましい、私もあんなふうになれるなら剣に生きていけたというのに。

 羨ましい、だが最後にこれだけは言わないと成るまい。

「美しき名刀よ、その刃に斬られて我が剣士として救われた。感謝する、鈍らとは失礼の至りであった」

 私の意識は消え去った。

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