七章 年貢の納め時
 




 俺はそれほど強くない。
 何度そういっても誰も理解してくれない、ちなみにだがあの歩く最終兵器シリーズは旧交を温める為に一緒に酒を飲みに行きやがった。
 本当に殺し殺される間の関係なのか深く追求したいところである。

 そう言う関係だから仲がいいらしい。俺には全く理解できない思考で本当に困りました。嵐がやんだあとはやたらと静けさが舞い降りた、あらゆる意味で疲れた高いを終え俺は溜息を吐いた。

「今度本当に私と真剣勝負してくれませんか」

 なのになんなんだよこいつは、本当にこの馬鹿か。空気読めよ、疲労感たっぷりの表情が見えるだろうが。

「いやだ、なんか凄くいやな予感がする。大体不動明王の戦いを見てきっかけを得たぐらいで強くなったと思わないで欲しいが」
「だから今度なんです、次に私と視界が会ったそのときに勝負を」

 えぇーなにそれ、どんなストリートファイター。
 だがここで引いてもどうせこいつは、俺が了承するまでずっといい続けるに決まっている。
 と言うか、勝手に了承したと思って次にあった時いきなり襲い掛かるような気がしてならない。

「いや普通にやろう、そんな昔の通り魔ファイトやらなくていいから」
「え、そうですか、じゃあ私が勝ったら」
「いい別に了承したんだから勝者の特権で俺が出来るレベルなら受けてやる。どうせそれも俺がいいって言うまで諦めるつもりないだろうお前」

 図星を突かれた様なかを当たり前のようにしやがるこいつに、酷い疲労感を覚えた。
 だがそれとはべつにいきなり俺の腕に手を絡めてくる。なんか嬉しそうな顔に凄い不快感を感じた。

「じゃあいきましょうか」
「意味が分からない」
「何言ってるんです、今から決闘の血判状を作らないと、もう文章は出来ているので名前と拇印を押してくだされば結構です」

 へー、正式な決闘ってそこまでやるんだ。
 家のバーさんたちは歩く非常識だからいちいち問うのも面倒だが、こういうやり方が普通なんだろうな。
そういって部屋の一室に入ると、なんか鷺宮の重鎮達が凄い嬉しそうな顔をしていた。

「じゃあとりあえずこの血判状に名前と拇印をお願いします」
「はい、なんか分からないけどわかりました」

 なんか血判状と言うよりは書類みたいなものだ、だが今のご時勢ではそう言うのもお役所処理なのかもしれない。
 けど書類なら一応ちゃんと目を通しておく必要もあるか。こいつらの笑みが凄く不愉快だし。

 さらっと書類を流し読みすると、なんか決闘とは関係ない文字がいたるところにチラついている。こいつらこんな事で俺を嵌めようとしているのだろうか、名家の事を今度から脳筋一族と呼んでやるべきかと思案するが、流石にこんれだけの人数だと戦うにも面倒だ。

「……おい、このどこが血判状だ。と言う決闘関係ないじゃねーか、明らかに婚姻届だろうが」
「いえ、私が勝ったら結婚を前提としたお付き合いをしてもらおうかと」
「当然私も認めたぞ、折角の写島の血が入るのだ。こんないいことはないからな」

 きょとんとした目で俺を見る馬鹿、本当に最近犬化してきた気がする。
 だが性格はまるっきり猫だからマイノリティに突っ走る。頼むから尻尾でも丸めて反省しろよ、犬だってもうちょっと従順だ。

 父親はもういいから死んでくれ。

「そう言う類の奴なの、おかしいよね。お前おかしいよ、それ以上にここにいるやつらがおかしいよね、何でそれを認めちゃうの」

 もうやだよの非常識名家、どうせ勝っても負けてもこの親達が役所に届けて権力で強引に認可させるに決まっている。

「だって貴方が、何でも受けてくれるっていったじゃないですか。勝者の特権で俺に出来る事ならしてやるって」
「いったよ、けど俺が出来る事じゃないよねそれ。冷静になろう、明らかに俺が考えていたお前の罰ゲームと等価になっていない」

 ちなみにだが、最近酷く犬に見えるこいつを一週間ぐらい犬耳でもつけて笑ってみてやろうと思っていただけなんだが、何でこの年で人生の墓場に全力疾走してんだよ。いい加減俺が全力失踪するぞ。

「だったら私の体を差し上げます」
「それはお前にとってプラスだよね。いらないよ、どうせお前の親父が鷺宮の娘を抱いたのだから結婚しろとか言ってくるもん。しかもここぞとばかりに権力を使って俺を脅しにくるに決まってる」
「それぐらいしか私があげられるものはないんですよ。それが嫌なら鷺宮の次期当主の地位とか」

 それも居るわけないだろうが、結果的にお前の親父が喜ぶだけじゃん。しかもどうせ決闘が遵守されるからとか言ってお前が読めになる姿が目に見えてる。

「選択肢の終りが全部一緒だろうが、だからこいつら満面の笑みを浮かべてるのかよ」
「勝てばそんな事ないんですから諦めてください」
「次の戦いは絶対にお前が、強くなってるの分かっているのになんて無茶な対応しやがるんだよ」

 疲れた、もう諦めるしかない。ばーさんたちの戦いよりも激しい徒労感に、俺はなんか凄く疲れた。

「分かった、勝ってやるこの勝負だけは本気でいってやる」
「はい、よろしくお願いします」
「もうやだよなんで俺にはこんなに素直なのこいつは、どうせ理解もしてないだろうけど、敗北刷り込まれてるんだろうな、あの時駆られてればこんなことにならなかったってのに」

 犬のようにちょこんと座って首をかしげる鷺宮のアホは、理解も出来ないないかのように視線を合わせると尻尾でも振りそうなほど可愛らしい笑みを作る。実際は、結構冷たい感じの美人なのでぐっと来るところではあるが、この年で結婚を迫られれば普通に引く。

 負けられない、婚姻届は書かないが口頭でそれだけの約束をさせられ。挙句録音までされてはもう引くに引けない。

「絶対に負けてやるかよ」
「いえ勝つのは私ですよ」

 そんな風に戦線布告をしながら本気で逃げ出す準備を整える俺の今日この頃。

***


 最近俺は本家の方に帰っている。
 理由はばーさんと言う名の人類最悪兵器と不動明王と言う人類殺戮兵器の所為だ。
 ここは何かと面倒ごとの多いところで、父さんがかーさんを必死に説得して引越しさせたぐらいの魔窟である。

「ひさしぶりだのう、何でこっちに帰ってきやがった。お前がここにいるとなぜか建物が倒壊するからかえって訓なっていってんだろうが」
「黙れ、必殺乱反射、適当に太陽の光を撒き散らしてんじゃねーよ。俺だってこんな人外魔境に着たいわけねーだろう。ただそれ以上の人外魔境過ぎる二人からの命令だよ」
「貴様俺はまだはげてねーだろうが、なんでいつ会うたび親父の頭を見ながら俺に話しかけるんだよ」

 いやだって未来絶対あれだろう。どう考えたって未来のヘアースタイルは、ハゲかスキンヘッドか坊主だ、あと例外的にすだれとかバーコード的なものもあるかもしれない。

「ほらそれをいったら泣くだろう春樹は」

 可哀想な親戚に肩をたたいて同情してやる。

「お前どれだけ俺を馬鹿にすれば気が済むんだよ」
「ふざけるな俺がお前を馬鹿にしたことなんて一度たりともあるか、常に俺はお前の事をいやお前の頭のことを心配しているんだぞ、こんな親戚思いの男がこの里にいるわけ無いだろうが」
「お前がふざけるな、写島の人間が全員そんな感情ある筈無いに決まってんだろうが」

 え、結構お前はまともなタイプの人間だろう。
 写島のゴミ溜めにあってこれだけ真っ直ぐな人間は珍しいと思うんだけど。
 本当に褒め称えるべき純粋さだよ。

「いっつも誰かが俺を騙すんだぞ、カステラ食べると言って呼んで置きながら、消しゴムのかすを大量に俺に食わせようとする幼馴染、勉強教えてと言うから教えてやったら闇討ちされて全裸でつるされる、一体俺がなにをしたって言うんだ」

 だから真面目すぎて弄繰り回したいだけじゃないかと思ったけれどとりあえず俺は何も言わない。
 だってこんな面白い奴がそれに気付いたら本当に自殺しそうだし。
 しかしそんな風に感慨に耽っていたら、もう一人の親戚正確には分家で俺たちよりも能力者ランクが高い奴らなんだがそんな奴の一人が俺を見て目を丸く見開いた。

「やべぇぞ、言霊使いの最悪兵器が帰ってきやがった本家の守備隊に伝えろ悪魔帰宅と」
「なんてことだ、騙されるつもり自殺していた事件が始まるのか、あの悪夢のような悲劇が」
「おーかーさーん、悪魔のお兄ちゃんが帰ってきたよー」

 え、あれ、何で俺本家でそんな扱いされてるの。
 だっていたの七歳まで、時折帰ってきたけど、別にたいした事して無いじゃないだろうが。

「たいしたこと無い奴が人に話しかけるたび自殺を教唆し、家を爆破し、弱くないと言いながら家中の人間を大撲殺絵巻を繰り広げた奴の言う台詞かそれが」
「それはそれだ、俺はそんなつもりは多分なかった。何と無くやってみただけだろうから覚えていない」

 いや記憶にはあるんだけど、この家の人間ならこれぐらいの事でうろたえていてはいけないだろう。
 折角本家の子供としてきちんとした対応を取ったはずなんだがどうにも理解されることは無いようだ。しかしここに着てからなんだかと言うか当然のことながら嫌な予感が拭えない。

 あの決闘式(けっこんしき)契約からもう二ヶ月ぐらいたつが、そろそろあのこらえ常の無い女なら動き出しかねない頃だ。

「そういえばここに鷺宮の女来てないか」
「きてるけどさ、あの美人なんだよ反則級だろう」
「ああ確かに美人だな、しかも反則級の」

 まぁ、性格的にも思いっきり反則級な気がするんだけどな。
 人の話を聞かないし、自分の意見ばかり押し通そうとするし、美人じゃなかったら俺はきっと社会的に殺している気がする。

 と言うか予想通りすぎるだろうあの大迷惑女、いやまてよあいつは多分不動明王辺りに気に入られているはずだ。後継者的なことを言ってたとき最終馬鹿を見ていたはずだし。
 つまり鍛えている可能性がある、あの馬鹿に戦いを教えたら俺がどれだけ苦労すると思ってんだよあの馬鹿シリーズ。

 バーさんもどうせ助言とかしてるんだろうな。

「けどなんか冷たい感じで話しかけづらかったな」
「そうか、じゃあ一つあの馬鹿に伝言を頼む、甘いんだよ三下と」
「ちょ、え、って言うそれを名家の跡継ぎの伝えろと」

 だが俺はもう脱兎の如く逃げ出している。
 まさかとは思うが、あの空襲警報みたいなリアクションは俺を発見したと言うばーさんなりの嫌がらせなのかもしれない。
 本当に大迷惑きわまりねーよ、この家の人間。

「貝のように海のそこで眠っていたい」
「無理ですよねどう考えても、旦那様」

 だが俺の思考は読まれていたようで世界三大悪女に俺は囲まれて、絶望を理解させられるのだった。
全員が全員嬉しそうに笑っていて殺意が芽生えました。

***


「それでだ、あんたこの子に負ける気とかあるかい」
「あのさ、なにいきなり裏工作みたいな話をしてるんだばーさん」
「いやなに、お前さんがこのこと結婚すればせ負からの助成金が増えると聞いてね」

 いきなり地面に頭を打ち付ける。妖怪ばーさんの癖に金の亡者なんだよな。
 と言うか写島の当主や分家筋全てが俗物と言う、なんとも悲劇的な家庭であるため、金で目の色を変える奴らは実は多すぎる。
 かれこれ三年で分家に四回ほど金で売られた経験があるしな。

 本当にこの一族駄目すぎる。
 一応本家の俺を売るか、もっと言うなら跡継ぎなんだが、全力でお断りだけどな。

「大体老後なんて関係ないだろうどうせ、そこの最終兵器と決着つけたらなんかそのまま死にそうだよあんた」
「どうせ次はどうあってもどちらも死ぬさ、そう気にすんな」
「いや死んでくれて結構だが、ってそんなことよりそこの大迷惑製造機鷺宮なんで俺のこと旦那様呼ばわりしてんだよ」

 不思議そうに首を傾げてみせる。
 なんか間違った事でもいいましたといった様子だ。なんかあいつの中では既に結婚と言う文字が燦然と輝いているの様で心底吐き気がします。

「それはともかく旦那様、そろそろ式の日取りを決めませんか」
「おい、それはどっちの式だ。結婚式じゃないよな、そうだよな」
「何を言っているんですその前に結納を」

 え、何で俺こんなの追い詰められてるの。外堀が埋まったと言うか、内堀も埋められ挙句に天守閣陥落寸前って感じだろう。
 なんつー悪夢だ。負けても逃げる準備は出来てるから特に気にする必要はないとは言え、なんと言う傲慢な性格だ。

「ところで貴方こそ大迷惑製造機なんて失礼な暴言どうにかしませんか」
「その前に貴様のありえない飛躍思考をどうにかしろよ」

 何でこいつは首を傾げるんだろう会話にならないよ。
 なんか勝手にお茶とか出してくるし、なんか俺の呼吸を読んでるのかやって干し事を次々にしてくれる所為で少し居心地がよくなったりもしたんだが、

「何でこいつ俺に尽くしまくってるの」
「ああ、ここ二ヶ月ぐらい花嫁修業をさせてみたんだがどうだろう。江戸時代の武家の娘が教育したんだ完璧だろう」
「方向が駄目すぎるだろうが、と言うかどういう方向性だよ。明らかに自慢げに胸を張ることさせてないじゃん」

 駄目すぎる何でこう知り合いと言うか、ある一定以上の強さを持った女性陣は俺にここまで面倒ごとを押し付けるんだろうか。
 そんな事を言っている間に、鷺宮のアホは俺の困惑を読んでかなんかちょっと後ろに下がって空気を潜めた。と言うか不動明王も人ありげに凄いだろうとか言ってくるけど、方向性が問題すぎるだろう。

 多分あの人は真面目な馬鹿だ。

「さてところで決闘(けっこんしき)は、どこでするんですか」
「ああもうなにこれ、どんなだよ。もうつっこまない、これ以上つっこんでたら頭がおかしくなる」

 もうなんか色々疲れてきた。
 尻尾を振ったままの犬は行儀良く座っているが、こいつの性格は明らかに獲物を狩る側だ。なんで狩られる側に追従してるんだよ。
 この嫌な予感は簡単に消えない、目の前で刃物を振り回されているのに気付けないような。

 叫び声をその場であげたいような恐怖感が拭えない。
 なんか地雷原で全速力で走り抜けるような感じと言えばいいのだろうか。

「場所ですよ場所、いい加減私も自信がついてきましたし勝負です」
「お前は、一体どんな自信をつけて俺と戦おうとしているのか深く言及したいんだがそのへんどうなんだ」
「なににいってるんですかちゃんと能力の特訓らしきものも多分しましたよ。そういえば生け花で才能があるって褒められましたよ」
「だからそのどこに自信をつける部分が、と言うかあからさまに別方向だよな、それなのに何でみんな自慢気なんだよ」

 だがなんか嫌な予感がする。
 この悪女三人の笑みがなぜか凄く不快だ。絶対なんか企んでやがる。

「フムじゃあ冗談はそれまでにするかハルさん」
「ですね、じゃあさっさと次を始めましょう」

 その二人に合わせるように俺の天敵にまで成り果てた鷺宮は、なぜか俺の腕を掴んではなさい。
 嫌な予感がもう確定に変わったことはどうでもいいが、なんで一人だけ申し訳なさそうな顔しているのに、うっ血するぐらい俺の腕を掴んでいるのだろう。いたいとかそう言うことじゃなく血が渡らずに手が白くなっていくような気がしないでもない。

 あとうっ血すると手が痺れた感じになるんだよね。要らない豆知識だが。

「もう分かっているだろうがのらりくらりと逃げる事は許さないよ。私とめいさんの命令だ、女を待たせるなさっさと決着つけてやんな」

 もう理解してたし、了承するつもりだったんだけど何でこんなことされるんだろうか。
 もしかして相当に俺は信用がないのかもしれない。だがここまで信用が無いと言うことは、一般社会では真人間と言うことだ、こんな社会保障は欲しくなかった。

「分かってるよ、いつでもいいさ。ただし不意打ち無しだぞ」

 その時に響いた舌打ちを俺は生涯忘れない。


 

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