死亡遊戯

「よし死のう」

 決意は簡略、行動は迅速、その辺においてあった刃物で手首をかっきり死亡は終了。
 人生の閉幕までの決意は十秒となかっただろう。

 問題があるとしたらそれが刃物であっても切れる類の刃物ではなかったというぐらい。それは死を決意した男が祭りで買ったおもちゃのナイフ、切れないことはないかもしれないがそれは擦り皮膚を食い破るような行為だ。

 つまりは失敗。

 男は自殺者、死ぬのに理由は要らず。しいて言うなら思いついたそれが理由程度の男、ただ行動力だけが尋常ではなかった。自殺壁の出来てしまった高校生と同級生の女のお話。

 シーン1

「よし死のう」

 ワンツースリーのステップで、学校の屋上からエデンへダイブ。

「まてや、何人のお昼寝スポットで気持ちよさそうにコードレス決め込んでんだ」

 出来ませんでした。
 なんと言うか容赦ない腕力で宙に浮いて後一歩で重力によって地面に叩きつけられる男はまた屋上に引き戻された。柵に体を打ちつけ、反動でコンクリートに頭から突っ込むというかなりの代償を抱えて。

「のぅ!!ひぅいー、しゃいでっぃー」

 あまりの痛みにわけの分からん日本語らしき奇声が響き渡った。
 生きたえびを油であぶるとこんな感じの行動をするンじゃ内科と思うようなのた打ち回り方で地面をびくびくと蠢く。うぃっひーが彼の痛みに耐えるための規制の基本形になるまでそう時間は長くなかった。

 それから数分、彼の自殺を止めたのは女。80年代のスケバンに、現代の服装をさせたような感じの見た目だけなら自殺者のクラスの女子生徒よりはましな造形をしている。不機嫌そうに目を吊り上げて自殺をしようとした男を睨みつけていた。

「で」
「うぃっひー」

 もう男の中ではこれは基本形の対応らしい。
 単純に女が怖かったからかもしれないが、余計鋭くなる女の視線にだんだんと意味不明の怪音が小さくなっていく。

「もう一度聞く、何でだ」
「いえっす、ただなんとなくっす。手首で失敗したので飛び降りをと思いました、飛び降りは自殺の花っす」

 あんまりといえばあんまりな回答、死ぬ脳としたのは何と無く自殺は一度失敗したから次は臓物の花を咲かせようとしたらしい。

「首吊りや、薬、ガスなんかは、だめっすね血が出ないと」

 自殺談義に花が咲くなんて想像したくない物だ。

「そうか」
「説明終了っす、ではまたどこかで」

 あきれ返った声だが男はどうやら女が納得したと思ったのはホップステップジャンプ回し蹴りでまた自殺の失敗だ。回し蹴りは当然女だが、どうも致命打らしくやばい感じでぴくぴくと体を動かしていた。本当にやばいのだろう顔は紫色だ、チアノーゼ起こしてる。

 つまりは失敗。いや成功?

 このときはその吊りあがった目も慌てていた。

 シーン2

 男は目を覚ました、やはりそこは屋上。

「えーとだ、確か気付けは延髄に鉄パイプをぶち込んで踵で脊髄を多々気おる立ったか」

 そして殺人宣告。
 どうも自殺ではなく他殺に彼の死因が変わるらしい。

「ねばーぎぶあっぷー」

 振り下ろされる踵をまるで蛇のように回避し、延髄めがけて打ち放たれる鉄パイプをどうにかかわして男は女と距離をとった。
 どうにも自殺以外の死因はお気に召さないようだ。

 だが鉄パイプがコンクリートを打ち砕く音が響き男は顔を青くさせ一瞬意識が飛んだのを感じ、

「ゴットマザーにマウントポジションで殴られてバックドロップが締めだった世界にいってきたぜぃべぃビュー」

 親指おったててぶん殴られた。原因は間違いなく男にある。
 あまりにも奇怪な行動と言動が多すぎて女は男を処理できない。クラスの問題児といえば女の名前が挙げられるほどの煮立ちの悪い生徒だというのに、その女をもってしても男の言動行動存在はまったくの意味不明であった。

 ただイラついて殴りたくなる程度の存在ならいいが自分のお気に入りの場所で自殺を考え実行する当たりもう最悪だ。昼寝をしようとしても目覚めがこれでもかと言うほど悪い。

「死ね」
「だから死のうと」

 堂々巡りだった。

 シーン3

 それから二日ぐらいたって男が来なくなった、自殺をあきらめたのだろうと思うがすこしばかり違うらしい。
 手紙が届いた、といっても彼女がいつも寝る所定の場所に手紙がおいてあっただけだが。

『前略中略以下省略』

 破り捨てた。
 そして次の日も置いてあった。読まないといけないようなわけの分からない空気が彼女の周りに立ち込めている、いやいやながらも封を切る。

『春も麗らかな頃、いい加減梅雨も始まって自殺にフォーリンラブ』

 勘弁して欲しい。それが彼女の感想だろう、理解できないというか春の日差しが気持ちよく降り注いでいる季節いかがお過ごしでしょうか的な文章のつもりで書いたとしか思えないのだが、予想がつかなすぎる。
 脱力に脱力を重ねて、読む気も失せているくせに続きに目をやる。

『私という人間は世界に絶望しています、そして自殺の花形によって死のうと考えている次第でございます。
 それなのに貴様と言う矮小で愚劣な人間はなぜこうも私の邪魔をするのでしょうか、いい加減黙ってろ死ね、自殺は首吊りがいいと思いますよ何しろ糞尿目知る花汁と穴柄でないものはないですから惨めに死ね』

 私は死にたいのです、ですから邪魔をしないでください。

 間違いなく本人はこのつもりで書いているが文面には侮辱とも思える文章が乱立している。
 怒りを払おうと何度も努力しているがそんな努力如何様に払おうとも、

『あぁ、あれね邪魔なの、人生に目標もなくて寝ている分際で死ぬという目標を持った人間を邪魔しないでくれない正直存在比率から邪魔。
 死ななくていいからさ俺が死ぬまでの間どっかいけよ、ツラがいいからって一般人なめんな。八十年代が』

 女は理解するこれは殺してくださいといているだけだと、前日の手紙はこれだけの内容をこめていたのかと女は呆れながら必殺の牙を研ぎ始めた。

『さて、本題に移りますがと言うわけで一日ばかり学校に来ないでいただきたい。私が臓物の花を咲かせ昇天する間ですそんなに長くはないでしょう、ミートフラッシュ(肉の花的な意味)あんな感じです、だから自殺をさせてください』

 べきゃりとコンクリートに拳が突き刺さる、柔肌とかそう言う単語は辞書にはないのだろう凶器だ。
 理解した理解した。

「意地でも自殺させてやらん」

 旗から見ればなんと素晴らしい言葉か。それは心の壊れたものを救う様に聞こえない事はない。
 だがその理由のなんとふざけた事かあほ過ぎるにも程がある。

『飛び降りこそ自殺の花よ、今か今か空へのDIVE!!ハローワールド、臓物ぶちまけいざ空へ!!」

 最悪である事に誰の反論があろうか。

 シーン4
 
「うぃっひー」

 どう回し蹴りが空中を舞う彼を蹴り戻した。毎度のように致命的な感じで入った男は昨日の夕飯か朝飯を口から吐いていた。
 美栗ビクリト痙攣する姿は哀れとしか言いようがないが、けりを放った女の血走った目を見れば見なかったことに出来る程度には致命傷ではないらしい。
 屋上からのリバースのシャワーが中庭でのんきに恋人の営みを繰り広げる幸せだけの学生カップルに降り注ぎ阿鼻叫喚の地獄を作っていたがそれは……、とりあえず二人とも見なかったことにした。

「自殺の弊害がまたここに」

 男は涙を滲ませ女を睨みつける、ただ責任転嫁だけを女に行う男。だがどちらにしろ恋人の営みの中に肉片をぶちまける死体が落ちてくるのだどちらに城劣悪極まりない事ではある。

「お前の所為だ、お前が死のうとするから私が助けてやっているだけだ。だから私は悪くない」

 鋭い眼光に何も言えなくなると男は蹲って拗ねていた。
 いや違う、女の隙を突こうと努力していた。初めての飛び降りからすでに三ヶ月、女はあらゆる場所で男の自殺を止めたこうなるとただの維持なのだが周りから見ればこの二人も十二分に恋人同士だと思うだろう。

 二人とも当然のようにありえないと打ち切った。

 自殺志望と、自殺阻止、二人の利害はまったく一致していなかったがまぁ関係としてはその程度だ。何しろこの二人名前さえ知らないのだから。

「どうやったら自殺させてくれるんですかマム」

 だがこの三ヶ月で男が得た女関係の知識と経験を言えば女を出し抜く事ができない事と、蹴られすぎて腹筋が結構ついてきた事ぐらいだ。
 自殺志望、自殺死亡、どちらが正しいのかだんだん分からなくなってくるが男はやけっぱちになって女にどうやったら許してくれるかと問う。

「お前が死ねば」
「いやだから死のうと」

 やはり根本的にこの二人は会話が成り立たない。

 シーン5

 いつものようにいつもの光景。最近恋人同士の負のスポットに認定された、ゲロのシャワーが降る屋上だが
 ここ最近少しばかり話が変わってきた。血も降るようになった、いやそれだけなんですけどね。

「死なしてください」
「だから貴様が死ねばいいと」

 そもそも会話になら無い二人。
 キャッチボールの代わりに拳が飛んでくる。意味が無いにも程がある。地面に糸は何度もぶつけられ、乙女のように泣きはらした。

「あいつがいないときに飛び降りればいいんだ」

 しかし男も成長する、無敵に番人がいないときに飛び降りればいいんだと、冷静に思考した。
 彼は確実にだがゆっくりと、歩き出すその十三階段を!!

 そしてその最後の屋上の扉を開いたとき。

「え?」

 人が自殺しようとしいた。

「来るな!! 来ると飛び降りるぞ!!」

 そんな人間を見て彼は叫んだ。

「君、自殺はよく無いやめるんだ!!」

 ええー

死亡遊戯 シーン6

 結局言葉で言ってもわからなかった自殺者は肉体言語をもってとりあえず黙らせた。

 単純に自分より順調に自殺しようとしたそいつが許せなかっただけだろう。

 自殺しようとした奴は次の日、全裸で玄関に括られていた。犯人はこいつだ。その際、自分の下駄箱に入っていた手紙を無視して何も見なかった。

 なにしろ今日も彼の天敵がいないのを彼は確信していた。最近クラスメートと言う事実を発見したのだ。
 風邪で倒れて、動けないらしい。とってもざまーみろだ。

「さて今日こそアイキャンフライだ」

 もはや会話するのも疲れるレベルである。
 今日こそは、そう思いながら彼は走り出す。二度ほど足を踏み外して落ちたが、
 たいした問題じゃないのだろう。全力で彼は駆け上がった。

 そしてそこには一人の少女が、

「あ! 先輩、手紙見てくれたんですね」

 彼の自殺を阻むように立っていた。可憐な少女だ、少なくとも彼の自殺を永久妨害するあの魔人に比べればだが。
 けれどもうか彼とて限界だった。

 次の瞬間少女に廻し蹴りが入っていたが、それはどちらが悪いのだろう。
 だが親友の出歯亀でついてきていたほかの人間に彼は結局自殺を止められる事になり、結局この日も彼は自殺をする事ができずじまいであった。
 余談であるが彼に蹴り倒された少女はこれ以降男に恋愛感情を抱くことはなかったという。