あぁ、王子様。私だけの王子様、楽園だけにいる私の王子様。
 夢の中で勇ましく気高い私の王子様、お願いです。私のこの檻から出してください。

 王子様志願者

 ここは暗い森の中、そこにはひとつの家が建っておりました。
 怖い怖い魔女のおばあさんと、一人の少女が檻の中に。
 少女はいつも夢見心地に王子様を待っていました。そこは暗い森の中、少女は御伽噺の王子様を思い出しております。

 だが困ったことに少女は、喋る事ができない。魔女のおばあさんは、いつもそんな少女を視界に入れることさえしないのです。

 そんなある時ですおばあさんは、少女に話しかけるのです。

「マリア、マリア。許しておくれ」
「…………」

 だが少女は喋れません、ただ一度かくんと首を動かすだけ。おばあさんはそんな少女の姿に悲しそうな顔をするのです。
 少女はお婆さんのそんな姿が、不思議でなりません。

 何しろおばあさんは彼女を檻に閉じ込めた張本人なのですから。そんなおばあさんも時々ですが街に買い物に出かけていました。そのたびに傷だらけに、なって帰ってきます。
 少女はそれも不思議です、怖い怖いおばあさんが、なぜこんなに傷だらけになるのかが分からないからです。

 そんな生活が何年も続きました。きずけばおばあさんも死んでいます。
 けれど少女は動けません、これでは何年経っても檻から出ることができません。

 喋る事ができない少女は何度も心で叫びました、何度も心で叫びました。

 助けて、王子様。
 助けて、王子様。

 私だけの王子様。

 しかし彼女の声は届きません、彼女は喋れないのです。体を彼女は震わせました。
 少女は何度も叫びます、叫び続けました。

 もう何年も何年も、けれど彼女の声は届きません。
 ですがあるとき、猟師が彼女の小屋を見つけはいってきたのです。少女はこれで助かると、喜びます。

 けれど猟師の声は悲鳴でした。
 けれど猟師の声は悲鳴でした。

 少女の姿を見た猟師は悲鳴を上げるのです。そうです考えれば分かる事でした、少女は何年も叫んでいたというのに生きていたのです。檻の中で生きていたのです、食べ物をくれるおばあさんは死んだというのに。

 慌てふためく猟師は彼女に向かって意味もなく猟銃を放ちます。そうするとどうでしょう、頭がくるりと弧を描いて飛んでいきます。
 そのとき少女の目には鏡が映りました。

 そこには1つの頭蓋骨が見えるだけ、なんと簡単なことだったのでしょう。すでに少女は人間ではなかったのです。

 ***

 そこはかつては素晴らしい、家族の住まう楽園でした。
 ですがある時、娘に恋をした村人が父親を殺し少女を襲います。母親が帰ってきたとき、村人と娘はまだからだをかさねていたのです。

 母親は狂いました。
 村人と娘を殺してしまいました。

 ですが、娘を焼いたとき娘は生きていたのです。喋る事の出来なくなった少女は、熱いとさえ叫べません。
 母親は娘を見たとき、涙を流しながら閉じ込めました。その檻の中に、少女は村人に襲われたとき、王子様助けと叫んでいたそうです。
 
 なんどもなんども、けれど誰も救ってくれません。
 けれど少女は信じました、母親に殺されて、死んでなお王子様を、求めていたのですきっと彼女は生きて痛かったのでしょう。
 
 頭を砕かれるまで少女は、ずっと望んでいたのです王子様助けてと。